それにしても。

どのアトラクションも長い長~い列。


「最初はどれにしようか?」


「うーん、ジェットコースター系にしますか?」


「いきなり?麗ちゃん、意外と勇気あるねー」


「ジヒョク君は何がいいですか?」


「俺は、メリーゴーランド系だなー」


「ふふふ。ジヒョク君かーわいい!」


思わず口にしてしまった。


「あ、からかってるでしょー?」


「そんなことないですって」


そう言いつつも、私はぷっと吹き出してしまった。

だって、小学生の男の子みたいな顔するんだもん。


「もしかして、高所恐怖症ですか?」


「それはユナク兄さんだよー」


「そう言えば番組で東京タワーに行ったとき、ユナクさんおかしかったですよね」


「そうそう、顔はTVだからって笑顔なんだけど、実は下では、ソンモの服つかんでたヤツ!あ、麗ちゃんが、アシスタントマネージャーやってた頃だー」


「はい。あの時からそんなに経ってないのに・・・なんだかすごく昔の事みたいです」


(超新星のみんなと出会ってから、色々なことがあったな。まさか自分がデビューするなんて、夢に思ってなかったけど。彼らと出会った事で、私の人生は急展開している・・・・・・)


昔の思い出に浸っていると、ジヒョク君があるアトラクションを指差した。


「じゃあさ、間をとってあれにしない?」


ジヒョク君が指差した先には、西洋版のオバケ屋敷がある。

レンガ造りのお城の中をカートに乗っていくアトラクションだ。


「ええっ!あ、あれはちょっと・・・・・・」


(私、お化け屋敷はものすごーく苦手なんだよね・・・・・)


「怖いんだー」


ジヒョク君はニヤリと笑って、私の手をひっぱってく。


「えっ、本当にここに並ぶんですか?混んでるしやめましょうよ・・・・・」


「そんなに怖くないよー。それに、俺がいるじゃん!」


ジヒョク君がにっこりと笑う。


「そう・・・・・ですよね」


私はジヒョク君の笑顔に負けて、渋々列に並んだ。


(・・・・・それにしても、すごく並んでるなぁ)


きょろきょろと辺りを見渡すと、今度は別のことが心配になってきた。


(ジヒョク君、あんまり大勢の人に囲まれるとまずいんじゃないかな)


心配する私をよそに


「やった!120分待ちだー!」


ジヒョク君は嬉しそうに声を上げる。


「え、2時間も並ぶんですよ?」


「フッフッフッ、麗ちゃん、それはつまりだねぇ・・・・・」


ジヒョク君は得意げに言う。


「麗ちゃんと2時間もゆっくりできるってことなんでーす」


「えぇ!!」


(そ、そんなもったいない事、言ってもらっていいのかな)


「2時間ゆっくり話せるなんて、これまであんまりなかったでしょ?」


「は、はい・・・・・」


「それに。並びながらスキンシップもできるよー」


ジヒョク君は笑っている。


(・・・・・・またそんな事言って)


私の胸は破裂しそう。

今日のジヒョク君は反則だ。

それでも並んでみると、周りの女の子に気づかれはしないかと気が気じゃない。

でもジヒョク君は、まるで気にせずにずっとテンションが高い。

家族のこと、子供時代のこと、中学、高校時代のこと・・・・・と、話は尽きない。

さすがに、周りに聞こえるといけないから仕事の話はしないようにしているみたいだけど。


「そうだ。麗ちゃんに聞いてほしい曲があるんだ!」


ジヒョク君は、ミュージックプレイヤーのイヤホンを片方私の耳に入れてくれる。

ノリのいいイントロが流れてきた。


「この曲、カッコイイでしょ?」


「はい!すっごくいいです・・・・・あれ?」


聞こえてきたのは、ソンジェさんの歌声。


「もうすぐラップだよー」


気がつくと、ジヒョク君がすごく近くにいる。

でも、曲に集中しなくちゃ。


「ね、ね?すごくカッコイイでしょ?俺、この曲のラップ部分、すごく気に入ってるんだよねー」


「これって新曲ですか?」


「うん。アルバムに入れる未発表の曲だよ」


「わぁ!そんな貴重な曲が聴けるなんて!!」


「ラップの部分、何度も録音しなおして大変だったんだよー。家でもずっと練習してたし!」


「勉強熱心だし、努力家ですよね、ジヒョク君は」


「そんな事ないよ。グァンスもゴニルもよく練習してるよ」


「みんな、物凄く努力してますよね」


「うん!」


ジヒョク君は、自分の事よりもグループが褒められる方が嬉しいみたいだ。



「次のアルバム、楽しみです!」


「ホント?じゃあもっと聴かせてあげるね」


ジヒョク君は、私の背後に回って両肩をつかむと、自分によりかからせた。


「ほら、こうした方が楽でしょう?」


(ど、どうしよう。物凄く嬉しいんだけど、物凄く恥ずかしい!)


私は動揺しまくりだ。

体重をかけてしまってもいいのかわからない。


「あ、あの・・・・・重くないですか?」


「全然。俺と麗ちゃんはひと回りも、ふた回りも身長が違うんだから!」


「身長は確かにずいぶんと違いますけど、体重は・・・・・どうかな・・・・・」


「大丈夫だよー。グァンスやソンモほどじゃないけど俺、こう見えても鍛えてるんだから!ていうか、俺がこうしてたいの!」


ジヒョク君が、イヤホンをはめていない方の耳元で囁く。

耳元と首筋がくすぐったい。

結局、ずーっとドキドキしているうちにアルバムが終わった。

ジヒョク君がイヤホンを外してくれる。

でも私は、まだジヒョク君の胸にもたれていた。

心臓が、トク、トク、と音を立てているのが聞こえる。


(ジヒョク君の心臓の音が聞けるなんて、すごく特別な事・・・・・)


思わずうっとりと、目を閉じる。


「麗ちゃん、前、進んでるよ」


ジヒョク君が優しく囁く。


「あ!」


私は慌てて列に続いた。


「あのさ、のど渇かない?」


「あ。私は大丈夫です」


「俺、のど渇いちゃったー。何か飲み物買って来るね。ちょっと待ってて!」


ジヒョク君は走っていってしまった。


(どうしたんだろ。私がいつまでも寄りかかってたから疲れちゃったのかな)


しばらくひとりで並んでいると、ジヒョク君が走って戻ってきた。


「1人にしてごめんね。はい、これ。かわいいでしょー?」


ジヒョク君は、キャラクターのカップに入ったホイップクリームがたっぷりのドリンクを持っている。


「アイスココアにしたんだ。ホットのがよかったかもしれないけど、俺熱いの苦手だからさー」


ジヒョク君はスプーンでクリームをすくうと


「あーん」


私の口元に持ってきてくれる。


「あ・・・・あーん」


戸惑いがちに口を開けると、前に並んでいた女の子たちが、こっちを向いてひそひそ言ってるのが聞こえた。


「あの人達、いいな~!」

「あたしたちも来年は彼氏と来たいよねー」

「見て。カレシめっちゃカッコイイよ」

「わあ、ホントだ!」

「背も高いし。絶対モデルさんか芸能人だよ!」


その言葉に思わずドキっとする。

ジヒョク君を見ると、ジヒョク君も苦笑いを浮かべている。


「彼女さんも綺麗だし、お似合いだよね。いいなぁー。私もあんなカップルになりたーい!」


「うんうん。そうだよね。俺もそう思う」


ジヒョク君が耳元で囁く。


「なっ・・・・・!」


恥ずかしいような、ちょっと誇らしいような、不思議な気分だ。

それにしても・・・・。


「あの・・・・」


ジヒョク君の耳元にそっと唇を寄せる。


「あまり目立つ事しないほうが・・・・・」


「あっ!そうだね、ごめんごめん」


ジヒョク君はそう言うと、私の手からカップを受け取って口をつけた。


「・・・・・あ」


「ん?」


「な、何でもないです」


(本当何でもないことないだもんね。メンバー同士もよく、回し飲みしてたりするし・・・・・。一緒のカップで飲んだ事にドキドキするなんて、私ってば子供みたい)


「あ、ごめん。俺、全部飲んじゃった」


ジヒョク君は一気にココアを飲み干してしまった。


「いいですよ。ジヒョク君が買ってきてくれたんだし、私そんなにのど渇いてなかったですから」


「・・・・・・そっか、そうだよね」


ジヒョク君は照れくさそうに頭をかいてる。


「実はさ、俺がのど、カラカラだったの」


「そうだったんですか?」


「麗ちゃんが胸に寄りかかって目を閉じてるの見たら、ドキドキしちゃって、緊張しちゃって・・・・・・」


「ジヒョク君が・・・・ですか?」


「当たり前じゃーん!朝から緊張しまくりだよー!!」


(ウ、ウソ?)


「麗ちゃんといると、楽しいでしょ。それに、心が落ち着くでしょ。安心するでしょ」


ジヒョク君が指を折って数えながら言う。


「だけど、緊張もしていて・・・・いつもドキドキしちゃうんだよー」


ジヒョク君は照れくさそうにしている。


「ジヒョク君・・・・・・」


私はちょっと真面目な顔になって言った。


「ん?」


「私も全く一緒です。ううん。私の方がきっと、何倍も楽しませてもらってます!」


私は力を込めて言った。


「ジヒョク君といると、楽しくて仕方ないです!ジヒョク君とお話してると、私自身もジヒョク君みたいに明るくて前向きな人になれるんです!」


それって奇跡みたいな事だから。


「ジヒョク君といるととっても落ち着くし、あったかい気持ちにもなります!ホワーンととろけそうなんだけど、でも、心臓はドキドキ、すごーく早く鳴ってて・・・・時々倒れちゃうんぢゃないかと思うくらいで・・・・・」


一気にまくし立てる私を、ジヒョク君が優しい瞳で見つめている。


「ははは、麗ちゃん、息継ぎもしないで、そんなにしゃべったら倒れちゃうよー」


「あっ・・・・・」


はっと、我に返る。

私、ずいぶんと大胆な事を言った様な・・・・・。


「俺達、全く同じなんだね」


「・・・・・はい」


「何だかすごいね。1人の人が安心させたり、ドキドキさせたり」


「はい。でもきっとそれが・・・・」


恋かもしれません、と言おうと思って私は言葉を止めた。


(私にとっては恋だけど、ジヒョク君にとってはそうかどうかはわからないし・・・・)


「ん?何?」


「・・・・・何でもないです」


「ズルいなあ。そうやってまた、途中までしか言わないんだー」


「あ、列、進んでますよ」


「ズルいズルい。麗ちゃん、俺の事ごまかしたー!」


ジヒョク君が私を後ろから抱きしめる。


(本当の事、いつになったら言えるんだろう・・・・・・?)


ジヒョク君のぬくもりを背中に感じながら、私はそんな事を考えていた。



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