「ふう、美味しかった・・・・!もう、お腹いっぱいです」
気づけば辺りの店明かりは、少しずつ消え始めている。
時計を見るともう、一般家庭は眠りにつく時間になっていた。
「夜も更けてきて少し・・・冷えてきましたね。寒くないですか?」
「俺は大丈夫!麗ちゃんこそ平気?」
「平気です・・・・・・くしょん!」
「平気じゃなさそうじゃん、ほら、これかけて」
ジヒョク君が着ていたコートを脱ごうとした。
「いいですよ!これ私がかけたら、ジヒョ君が寒いでしょう?」
「俺は、鍛えてるから大丈夫ッ・・・・・くしゅん」
「ほらあっ・・・・返しますよ、コート」
「う~ん、じゃあ、一緒にかけよっか!」
コートを横に大きく広げると、ジヒョク君が私の隣にぴったりくっついてきた。
「ほら、こうすれば2人ともあったかくなるよ」
彼の肩も腕もひじも、私の腕と密着している。
すぐに私の体がほてり始めた。
「確かに・・・・あっという間に、温まっちゃいそうです・・・・」
「本当にー?まだまだ寒いけどなー?」
ジヒョク君が私の腰に手を回して強く抱き寄せてくる。
「ほら、麗ちゃんこっちにきて、俺をもっとあったかくしてよ」
「も、もう!」
私はコートをジヒョク君に戻した。
・・・・・でもコートの中にこもった2人分のぬくもりがとても愛おしかったのは内緒だ。
「ははは、ざんねーん!・・・・・さて、そろそろ盛り上がってるかな?」
「今度は・・・・どこに行くんですか?」
「ついてくればわかるよー!今度も麗ちゃんが知らない秘密の新大久保だよ」
「ジヒョク君・・・・・今夜は、どうしてこんなに私に新大久保を見せてくれるんですか?」
「それは、麗ちゃんに新大久保を、いや、韓国を知ってもらいたいからだよ」
「私に韓国を?」
「俺は麗ちゃんが生まれた日本が大好きだから、麗ちゃんにも俺が生まれた韓国を好きになって欲しいんだ」
「えっ・・・・・?」
「さ、行こう!」
ジヒョク君はそれ以上は語らず、早足で裏通りを進んでいく。
やがて、街外れの倉庫のような建物の前に立った。
「さあ、到着!」
「ここは・・・・・?」
「クラブだよー!」
「新大久保にはクラブもあるんですか!?」
「もう何年も前からあるよ。俺も時々行くんだー」
「へえ、そうだったんですね」
(クラブなんて・・・・私、行った事ないなぁ・・・・なんか緊張する・・・・)
建物の入口で入場料を支払い、入っていくとそこにはダンスフロアがあった。
フロアでは、数十人の人が踊っており、ミラーボールが室内のあちこちにランダムに光を放ち、人々の姿を浮かび上がらせている。
流れているには、ノリノリなK-POPのダンスアレンジ。
(わあ・・・・音楽が大音量で流れてくる・・・・!音がズンズン胸に刺さってきて、身体が自然と弾んできそう・・・!)
「この曲、俺大好き!麗ちゃん、踊ろ!」
ジヒョク君が私の手をつなぎ、フロアへと進み出る。
「ジ・・・・ジヒョク君、私・・・・踊ったことないんですけど・・・・・・!」
「だいじょーぶ!みんなの真似をして身体を動かしていればいいんだよー」
気持ちよさそうにリズムに乗り始めたジヒョク君。
身体を縦に動かし、心地良さそうに音楽に浸っている。
そして私に手招きして、さあ、とうながす。
(こ・・・・こうかな・・・・?)
私はぎこちなく踊り始める。
「そうそう、麗ちゃん、上手だよ!」
彼がまぶしそうに私を見つめる。
私達は、手をつないだまま、踊り続ける。
(あれ?どこかでこのシーン、見た事があるような・・・・)
急に、記憶がよみがえってくる。
(そうだ・・・・・映画だ・・・・・!)
「何か映画みたい・・・・」
「え?なに?」
音楽のボリュームが大きいので、私の話が聞こえないらしく、彼が私の口に耳を寄せてくる。
「なんだか映画みたいですね!この間、超新星のみなさんが出ていた映画でもクラブのシーンが出てきていたから・・・・・」
「確かに!あの時も、こんな風にノリノリで演技してたんだよー!」
その時、フロアが薄暗くなり、曲の調子が変わった。
ロマンティックで、スローな情感たっぷりのラブバラード・・・・。
フロアにはカップルだけが残り、お互いの腰に手を回すなどしながら向かい合い、密着してゆっくりと身体を揺らしている・・・・。
「麗ちゃん・・・・、おいで・・・・・」
ジヒョク君が両手を差し出す。
「えっ・・・・で、でも・・・・・・」
「いいから・・・・・・おいで」
彼のほうから近づいてきて、私の両腰を挟み込むように手を添える。
「これも・・・・映画みたいだね」
映画でもメンバーがチークダンスを踊るシーンがある。
私はあのシーンがとても好きだった。
どのメンバーもとても愛おしそうに相手の女性を抱きしめんばかりの態度で、切なそうに踊っていたっけ・・・・。
(映画を観ていた時、相手役の女優さんがうらやましいなって思ってたなぁ・・・・でも今は・・・・・私、ジヒョク君とチークダンスを踊ってる・・・・)
いつもダンスをしているだけあって、ジヒョク君はステップもすごく上手で、私をリードしてくれる。
「そう・・・・体ごとリズムに乗って・・・・麗ちゃん上手だよ・・・・・」
「私・・・・映画の中に入り込んだみたいです・・・・・」
「あはは、本当にそうなのかもしれないよ」
ジヒョク君は私の両手を取ると彼の腰を抱かせる。
「ほら、麗ちゃんも映画みたいに俺を抱きしめて」
ジヒョ君も私の腰を抱く。
(まるで・・・・抱き合って踊っているみたい・・・・・!)
「素敵な夜だね・・・・」
「は・・・・はい・・・・素敵すぎて、ドキドキします」
「麗ちゃんは俺の事、子供みたいって良く言うけど、子供はチークダンスは踊らないんだよ」
ジヒョク君が私の腰をぐっと抱き寄せる。
私達の身体が一気に近づく。
「麗ちゃん・・・・、そんなに緊張しないで・・・・俺に身を任せて・・・・・」
「でも・・・・ジヒョク君が近すぎて恥ずかしい・・・・・」
「何で恥ずかしいの?俺はとても幸せなのに」
そう言うと、ジヒョク君は私の髪をなでる。
近すぎる私達の顔と顔・・・・。
見つめ合う瞳と瞳・・・・。
「麗ちゃん・・・・」
2人の間に流れる、甘い沈黙。
何かが起こりそうな予感・・・・・。
・・・・・が、あったのに。
その瞬間、会場がぱあっと明るくなった。
「あっ!」
ダンサンブルな曲が流れ始め、ジヒョク君が思わず声をあげた。
「この曲・・・・!」
「超新星だっ!!!」
フロアには再びミラーボールやレーザービームが飛び交い始める。
自分の曲がかかったことで、テンションが一気に高まったジヒョク君は元気に踊り始めた。
「気持ちいいね!超新星サイコー!」
フー!
と声を上げながら、ジヒョク君が恋を振りながらフロアの真ん中に躍り出る。
(あっ・・・・いけない!)
そう思った瞬間、彼は普段の振り付けで踊り始めてしまった。
あまりにもサマになっているポーズ、そしてカッコイイダンス。
身体が自然と反応してしまうらしく、ジヒョク君は曲のラストまで、しっかりと踊りあげて、きめポーズまで取った。
「イェー!!!」
フロア中の人達が、ジヒョク君に視線を注いでいる。
「まさか・・・・あの人・・・・・」
「超新星?」
「ジヒョクがいる~ッ!」
「キャーーーーーーー!!!!」
「ジ、ジヒョク君、早くこっちに!」
私は彼に駆け寄ると、大慌てでクラブの外へと連れ出した。
階段を上がり、地上へと出る。
「ごめんごめん、つい、身体が動いちゃって・・・・。気持ちよかったなあ~」
「それはわかりましたから、は、早く!みんなが追いかけてきちゃう・・・・!」
数人の女性が、クラブの会談を上がってくるのが見えた。
「キャー、ジヒョク~ッ!」
「ごめんねー!みんな大好きだよー!またね~!」
ジヒョク君は追ってきた女の子達に手を振ってから、駆け出した。
「ジヒョク君!急いで!!」
「ごめんごめん!あ、麗ちゃん!信号が赤になっちゃうよっ!急いで!」
ジヒョク君が私の手を握る。
私達は、信号を全速力で渡り切る。
(わぁっ・・・・・空を飛んでるみたい・・・・)
彼が手を引いてくれるから、私はいつもよりずっと早く走れた。
・・・・・気づいた時には、私達は、歌舞伎町の広場にいた。
「はあはあ・・・疲れた・・・・」
「ごめんね、麗ちゃんまで走らせて・・・・」
「も、もう・・・・!クラブであんなに完璧に踊っちゃったら、バレるに決まってるじゃないですか・・・・」
「ごめん・・・・・」
ジヒョク君はしゅんとなった。
「俺、超新星の曲、大好きだからガマンできなかった・・・・・」
(うぅ・・・・そんなにしょんぼりされると・・・・で、でもダメ!元アシスタントマネージャーとして、ジヒョク君の為にもここはビシッと言っておかないと・・・・)
「もうっ、これからは周囲の目にも、気をつけてくださいね」
「はい・・・・ごめんなさい」
ジヒョク君はさすがに少し反省したようだけど・・・・。
私達がたどり着いた歌舞伎町の旧コマ劇場前にある広場には、かなりの人が集まっていて、みんな上を見ていた。
ビルに据えられた大型ビジョンでは、サッカーの試合が繰り広げられている。
するとジヒョク君はいつの間にかその画面をじっと見つめていた。
「あっ・・・・サッカーの国際試合、今日だったんだ!」
その次の瞬間、見事なシュートが決まった。
「うぉ~ッ、すッごいシュート!」
ジヒョク君も一緒になって広場に駆け込み、みんなと喜び合ってる。
(もぉっ・・・・・、すぐに盛り上がって、子供なんだから・・・・)
苦笑いして彼を見つめる。
(でも、こういう素直なところがジヒョク君らしいんだけど・・・・)
ある程度騒いで満足したのか、ジヒョク君が私のところに戻ってきた。
「ただいまー!面白かった!」
「おかえりなさい!ふふ・・・ジヒョク君は男の子みたいに元気ですね」
「あっ、麗ちゃん、俺の事、また子供って思ったんだねー?」
「ごめんなさい。だって・・・・サッカーではしゃぎだしちゃったのが可愛くて・・・・」
ジヒョク君は少しむくれて、唇をとがらせた。
「そんなに俺の事子供扱いするんなら、もういいよ!」
と言って、突然駆け出してしまった。
「ちょ・・・、ちょっと待ってください、どこに行くんですかっ、ジヒョク君っ!」
ジヒョク君を追いかけ、私は歌舞伎町を抜け、大ガードを抜け、西新宿の高層ビル街へ駆けていく。
(一体どうしたの・・・?)
ジヒョク君は、ビルとビルの谷間にある、レンガに囲まれた噴水の前に入っていく。
「はぁっ・・・・はぁっ・・・・、私・・・・もう、走れない・・・」
立ち止まり、息を整えている間にジヒョク君を見失ってしまった。
「ジヒョク君・・・・?」
私はあたりを見回す。
しいんとしていて、人の気配がない。
(ついさっき、このあたりを走っていったはずだけど・・・・、もう・・・遠くに行っちゃったかな・・・・?)
「ジヒョク君・・・・?」
(もしかして・・・・怒って帰っちゃった・・・・?)
後悔で胸がいっぱいになる。
(子供みたいなんて言ったから・・・・傷ついちゃったのかも・・・・、あんなこと、言わなければよかった・・・・)
後悔しても、もう遅い。
ジヒョク君は辺りを見回してみても、見当たらない。
「ジヒョク君・・・、お願い、帰ってきて・・・・」
噴水の前に座り込んで、私は思わず泣き出していた。
「ジヒョク君、ごめんなさい・・・!もう、子供だなんて言わないから・・・!」
(ジヒョク君・・・・どうしたら許してくれるんだろう・・・・)
ぽろぽろ涙を流している私の背中を、誰かがそっと叩いた。
(えっ・・・・?)
振り返ると、照れくさそうな顔でジヒョク君が立っていた。
「ジヒョク君!ごめんなさい!」
(戻ってきてくれたんだ・・・・!)
跳ね起きた私は、ジヒョク君の胸の中に飛び込んでいく。
「良かった!帰って来てくれて!子供だなんてもう2度と言わないから、置いていかないで・・・!」
「・・・・麗ちゃん」
静かな声で語りかけながら、私の背中をジヒョク君が何度もなでる。
「冗談で隠れてみただけだよ?俺が麗ちゃんを1人にするわけないでしょ」
「・・・・えっ?」
顔を上げると、ジヒョク君が優しい微笑みとともに、私を見下ろしている。
「隠れて麗ちゃんが来るの待ってたらさ。噴水の方で麗ちゃんの鳴き声がするから、びっくりしちゃったよ。でもごめんね、泣かせたりして・・・・」
「・・・・も、もしかして全部聞こえてたんですか?」
恥ずかしさのあまり、彼の胸に顔を隠す。
「え?何か言ってたの?全然聞こえなかったよ?」
「そ、それならよかったです・・・・」
「うん。『ジヒョク君、お願い戻ってきて~』なんて声、全然聞こえなかったよ?」
「きっ・・・聞こえてるじゃないですか~!」
「ははは、ごめんね。聞くつもりはなかったけど、耳に入ってきちゃったんだよ」
「もっ・・・・もう、知らない!聞かなかったことにしてくださいっ!」
「やーだよ」
ジヒョク君が私のことを優しく抱きしめる。
「麗ちゃんさぁ・・・・、俺の事子供だって言ってるけど、麗ちゃんだって子供だよ?俺の姿見えなくなったぐらいで泣き出しちゃって・・・・」
「もうやめて・・・・。ジヒョク君の言う通りですから、あまりいじめないで下さい・・・」
「あはは、本当に麗ちゃんは可愛いなあ」
私の背中をなでながら、ジヒョク君が私の髪に頬ずりしてくる。
「・・・・こんなに可愛い麗ちゃんを、絶対に1人きりになんかしないよ」
「ジヒョク君・・・・」
「ねぇ・・・さっきの続き、しよ?」
ジヒョク君が私の手を取り、右に左に、ゆっくり身体を揺らし始めた。
私の脚も、つられて、右に左にゆらゆらステップを踏む。
高層ビルの明かりが、私達を照らしている。
ひとつひとつの窓の明かりが、ミラーボールに貼り付けられた鏡達のきらめきのようだった。
「俺達、さっきのチークダンスを踊ってるんだよ・・・・」
「は・・・はい・・・・」
ジヒョク君は何度も何度も私の髪に頬を寄せる。
「でもさっきよりずっと、俺達の距離、近くなったよね?」
やがて、彼の頬が私の髪から離れ、私は彼の方をそうっと見上げた。
先ほどより近い距離に、ジヒョク君の唇があった。
優しく微笑んでいる唇に、思わず目線がいってしまう。
(なんだかキスしてしまいそうな距離・・・・でも・・・・ジヒョク君となら・・・・)
苦しくなるくらい胸をドキドキさせながら、私は目を閉じた。
ジヒョク君の顔がゆっくり近づいてくる・・・・。
そして・・・・。
私のほっぺに、彼の唇が当たる。
甘いときめきで、胸がつぶされそうになった。
「麗ちゃんに、キスのプレゼント。今日がデビュー3ヶ月でしょ?」
「あっ・・・・そう言えば。覚えていてくれたんですか?」
ジヒョ君に言われて、改めて気づいた。
「もちろんだよ!デビューの日って大事だからね。ほら、こんなに可愛いドリンクが自販機で売ってたからこれでお祝いしよう!」
ジヒョク君と私は、噴水前のベンチに座り、ジヒョク君が買ってくれたストベリーソーダで乾杯した。
赤くてシュワシュワしていて、とても甘くて・・・・。
ストロベリーソーダは、ジヒョク君にキスされてとろけそうになっている私の気持ちそのものだった。
「今夜は絶対麗ちゃんと一緒に、居たかったんだよ。デビュー3ヶ月記念日だからさ」
「あ・・・・ありがとうございます」
「ロケバスに一緒に乗るんだったらバスの中で言おうと思ってたけど、オフになっちゃったでしょ?だから、無理矢理、新大久保に連れて来ちゃった」
「うれしいです・・・・」
無我夢中で過ごしてきた今までの3ヶ月の思い出が頭の中に浮かんでくる。
辛かった事も、悔しかった事もいっぱいあった・・・。
(その時に・・・いつも側にいてくれたのは・・・・)
いつも、おどけた事を言って元気づけてくれていたのは・・・。
(ジヒョク君だった・・・・)
「これからも一緒にがんばっていこうね!」
ジヒョク君は明るく優しさに、また涙がじわっと浮かんでくる。
「いつの間にか真夜中だね・・・・」
「本当ですね・・・・、もう、終電もないですね」
「麗ちゃん、これからどうする?」
ジヒョク君が私に寄りかかってくる。
「そうですね・・・・、始発が来るまで深夜までやってるカフェでお茶でもしますか?私、少し休みたいです・・・」
「わかった。じゃあ、あのビルまで歩ける?」
ジヒョク君は、すぐ近くの高層ビルまで私を連れて行った。
そこは・・・・高級ホテルだった。
「ホッ・・・・ホテル・・・・ですか!?」
「そうだよ。麗ちゃん疲れてるでしょ?あったかい所でゆっくり休んだ方がいいよ」
まさかホテルに連れて行かれるとは思ってもいなかったので、私の頭は大混乱した。
(どうしよう・・・・。突然すぎてなんて返事をしたらいいのか・・・・)
「どうしたの?変な顔して。俺だって20歳過ぎの大人だし、ホテルくらい利用するよ」
私に手を差し出し、ジヒョク君はこう言った。
「さぁ、寒いから早く入ろう」
「ジッ・・・ジヒョク君、でもいくらなんでも、今の私達にホテルは大人すぎるんじゃ・・・・」
「・・・・え?」
「イヤじゃないんです!・・・・でもまだ心の準備が・・・・」
「・・・・麗ちゃん?」
急にジヒョク君の顔が、くしゃっと歪んで泣き出しそうに見えた。
(ど、どうしよう・・・・)
焦ったその時、ジヒョク君はこらえきれないかのように笑い出した。
「あははははは!何考えてんの、麗ちゃ~ん!俺、このホテルでお茶しようと思って来たんだよ?」
「・・・・えっ!?」
「この最上階に、朝までやってる素敵なバーがあるから、案内したかっただけだよ!」
「ええっ・・・・?」
私の頬がみるみる熱くなる。
「まぁ、本音を言うと・・・お部屋で麗ちゃんと朝まで一緒にいたいけどね・・・・」
「まっ、また冗談言ったりして・・・・」
「<font color="#0000FF">冗談なんか言ってないよ。俺だって大人の男なんだからね・・・?」
ジヒョク君が私の肩を抱き寄せる。
彼の身体の温もりが伝わってくる・・・・。
「ジ・・・・ジヒョク君・・・・私・・・・」
「な~んて!嘘だよー」
「も・・・もう、からかわないでくださいっ・・・・」
「ごめんごめん。じゃあ行こう。最上階はすごい景色だよ」
直通のエレベーターに乗り、50階まで上がるとそこにはジヒョク君が言っていた通り、眼下に夜景が一面に広がっていた。
「・・・・うわあ・・・・・ッ!」
思わずため息が漏れる。
室内は一面のガラス張りで、窓の外のきらめく夜景を見渡す事ができた。
「ここ、朝までやってるんだー、ね?素敵な所でしょう?」
私達は窓に面した横並びのソファに案内された。
ふかふかのシートに身を沈めて、新宿の夜景をジヒョク君と眺める。
「すごい・・・ほら、うんと下に見えるあの青いロゴマーク、15階建てのデパートのですよ!
」
「俺達は50階だからはるか上にいるからねー」
「本当にこんな素敵な所に連れてきてもらって、とってもうれし・・・・あれ?」
ここで私は大変な事に気づいた。
「ジヒョク君。ここは新大久保じゃないのに、どうしてこのお店の事知ってるんですか?」
「ああ、それは、前、ここに来た事があるから・・・・」
「・・・・え?」
周りはみんなカップルだらけだし、ここはきっとデートで来るお店だと思う。
(ジヒョク君・・・・誰と行ったんだろう)
もしかしたら恋人がいるのかな・・・・と考えたら急に哀しくなってくる。
「ねえ、また麗ちゃん、ひとりで変な妄想してるんじゃない?」
ニヤニヤ笑いをしながら、ジヒョク君が突っ込んでくる。
「もっ・・・・妄想なんてしてません。・・・・ただ、誰と行ったのかな?って思ったから・・・・」
「正解は、俺のお母さん!日本のガイドブックにこのお店が載っていて、どうしても行きたいって言うから連れて行ってあげたんだよ」
「お・・・・お母さんとここに・・・・・?」
「そうだよ!他の人達はみんなカップルなのに俺だけお母さんの付き添いで・・・。でも、お母さんがとっても喜んでくれたからいいんだよ」
「そうだったんですね。親孝行ですね、ジヒョク君は」
「でもね、その時に俺は決めたんだ。今度絶対この店に麗ちゃんとのデートで来よう、って」
「デート・・・ですか?私達・・・・」
「若い男と女が2人きりで出かけるのってデートでしょ?」
「まっ・・・・まあ、そうですよね」
「麗ちゃん、何もじもじしてるの?」
「い・・・・いざデートだなんて言われると、恥ずかしくて・・・・」
「麗ちゃんって見ていてほんと飽きないよ。ひとりで妄想したり、恥ずかしがったりするんだからね。」
「ひっ、ひどい!ジヒョク君、またからかって・・・・」
「おっと・・・・」
振り上げた私の手のひらを、ジヒョク君は両手で掴まえた。
「静かにしないと、ここでキスしちゃうよ?」
「やっ・・・・、やめてください・・・・」
「あはは、また照れた。すぐ顔にでるから麗ちゃんは、わかりやすいなぁ~」
私の肩を優しく抱くと、ジヒョク君はカクテルグラスで乾杯をしてくれた。
「麗ちゃん、デビュー3ヶ月、ほんとにおめでとう」
「ありがとうございます・・・・」
「これからも、嬉しい時も、苦しい時も、俺が側についていること、忘れないでね」
「・・・・はい・・・・すごく頼りにしてます」
翌朝・・・・
帰り道、ビルの前の交差点でジヒョク君が何かを私に差し出した。
それは手のひらに乗るような、リボンが付いた小さな包みだった。
「はい!これ」
「何・・・・ですか?」
「開けてみて」
「・・・・・?」
包みを開くと、中にはサテンの濃いピンク色の布地で作られた小さな巾着袋のストラップが入っていた。
「可愛い!これは・・・?」
「ポッチュモニって言うんだー。チョゴリの布で作った袋なんだよ。幸せを集める福袋って言われてるんだ」
「わぁ・・・・素敵ですね」
「嬉しい事、楽しい事、毎日少しずついい事が起きるよね?俺と一緒に小さな幸せを集めていけば、この袋もいつかいっぱいになるよ」
「・・・・いっぱい祝っていただいたのに、プレゼントまでありがとうございます」
「このプレゼントは、ロケバスの中であげるつもりで用意していたんだ」
「ジヒョク君、ずっと前から私のデビュー記念日覚えていてくれてたんですね」
「当たり前だよ!大切な麗ちゃんの記念日なんだから・・・・貸して」
何もついていなかった私のケータイに、ジヒョク君がポッチュモニを付けてくれる。
「麗ちゃんのケータイにぴったりだね」
「嬉しい。大切にします。ありがとうございます!」
「うん!」
私達はあかるくなり始めた新宿の街を、手を繋いで歩いた。
「タクシーが拾える大通りまで歩こう」
「はい・・・・」
私達はそれぞれの家に帰ることにした。
(ずっと大通りなんて来なければいいのに・・・・)
------------------------------------------------------------------------
【並んで歩く】選択時
(帰りたくないけど・・・・もう時間だもんね・・・・)
切ない気持ちをなんとか、心に押しとどめて、私はジヒョク君と並んで歩く。
「麗ちゃんと2人で朝まで遊んだのなんて、初めてだね」
「本当ですね」
「なんかあっという間だった・・・・」
ジヒョク君がぎゅっと手を握る。
「・・・・もっともっと一緒にいたいよ」
「私も・・・・」
別々のタクシーに乗って、帰らなくてはならないのがすごく寂しい。
(離れたくない・・・・。でも、そんな事言えない・・・・)
「不思議だよね。また明日、ロケで会えるのに」
「はい・・・・さよならするの、切ないです・・・・」
「俺もだよ。ずーっと一緒にいたい」
ジヒョク君の手が私の肩に回りまた彼が私の頭に頬をすりつけてくる。
「・・・・こんな気持ちになったの、初めてだ。麗ちゃんを、俺だけのものにしたい・・・・」
「・・・・ジヒョク君・・・・・」
(私も感じる・・・・すぐまた会えるのにどうしてこんなに寂しいんだろう?どうしてこんなに・・・ジヒョク君の事が好きなんだろう・・・・)
大通りに出てしまっても、私達はしばらくその場に立ち尽くし、お互いを見つめ合っていた。
「タクシー・・・・乗らなくちゃね」
ジヒョク君が黄色の車に手を上げ停めさせる。
「さあ・・・麗ちゃん、乗って」
「は・・・・はい・・・・きゃっ!!」
乗ろうとした私の腕を取り、ジヒョク君がきつく抱きしめてくる。
「俺の代わりに、ポッチュモニがずっと麗ちゃんと一緒にいるからね」
「はい・・・・」
「心配だから、帰ったらメールしてね」
ジヒョク君が私の右の頬にも、左の頬にもキスをする。
そして・・・・唇に唇を近づきかけて少し照れて、おでこにキスをしてくれた。
「また明日!」
タクシーが走り去るまで、ずっと手を振って見送っているジヒョク君に、私も何度も何度も手を振った。
たった今、別れたばかりなのに、もうジヒョク君が恋しい。
(ずっとずっとジヒョク君と一緒にいたい・・・・!早く明日になればいいな・・・・)
手を振るジヒョク君の少し寂しそうな笑顔を見つめていたら、自然と涙が浮かんできた。
(私、ジヒョク君の事が本当に好き・・・・ずっとずっと、そばにいられますように・・・・)
胸にたくさんの愛情が溢れてくる。
ふと、視線を落とすとケータイに付けられたポッチュモニが目に入った。
私は手に取ると、ポッチュモニに口付ける。
(ジヒョク君との思い出が、たくさんこの袋に入りますように・・・・)
ジヒョク君の事を考えると熱くなる胸に手を当てながら、私は顔をあげ、遠くなっていくジヒョク君の姿を見つめていた。
-------------------------------------------------------------------------
【ため息をつく】選択時
(帰りたくないな・・・・)
私は思わずため息をついてしまった。
その時、ぼんやり歩いていたせいで、道端の石につまづき、私はよろけた。
「きゃっ!!」
「おっと、危ない。麗ちゃん、眠くてフラフラしていて危ないから。俺の腕につかまってなよ」
ジヒョク君が差し出した左腕に、私の手のひらを絡める。
(ジヒョク君の側にいるとすごく安心する・・・・)
今まで感じたことがない、ほっこりした気持ちに私は満たされていく。
「新大久保、楽しかったね~!」
「はい、色々あったけどすごく楽しかったですよ」
「食べたり、走ったり、麗ちゃんが泣いたりね!」
「もっ・・・もう、それは言わないでって言ってるのに・・・・」
苦笑いしながら、私はもっときつくジヒョク君にしがみつく。
「今度は麗ちゃんが良く知ってる街を、案内してくれる?」
「いいですよ!鎌倉なんてどうですか?」
「いいね!大仏や海があるんだよね!」
「はい。大仏の中にも入れるんですよ!真っ暗でちょっと怖いですけど」
「それいいね!まぁ、麗ちゃんと真っ暗なところで2人きりになったら、何するかわかんないけど・・・・?」
「もっ・・・・もう、ジヒョク君たらからかってばっかり・・・・」
私に向き直り、ジヒョク君が頭をくしゃっとなでる。
「麗ちゃんに出逢えてよかった。毎日がほんと楽しいよ」
ぎゅっ・・・・と彼が抱きしめてくる。
私も彼を抱きしめ返す。
(私・・・・この人の事が本当に好き・・・・ずっと、ずっと側にいられますように・・・・)
胸にたくさんのの愛情が溢れてくる。
もう言葉はいらなかった。
私達の間にはただ、お互いの温もりが伝わっていった。
-END-
気づけば辺りの店明かりは、少しずつ消え始めている。
時計を見るともう、一般家庭は眠りにつく時間になっていた。
「夜も更けてきて少し・・・冷えてきましたね。寒くないですか?」
「俺は大丈夫!麗ちゃんこそ平気?」
「平気です・・・・・・くしょん!」
「平気じゃなさそうじゃん、ほら、これかけて」
ジヒョク君が着ていたコートを脱ごうとした。
「いいですよ!これ私がかけたら、ジヒョ君が寒いでしょう?」
「俺は、鍛えてるから大丈夫ッ・・・・・くしゅん」
「ほらあっ・・・・返しますよ、コート」
「う~ん、じゃあ、一緒にかけよっか!」
コートを横に大きく広げると、ジヒョク君が私の隣にぴったりくっついてきた。
「ほら、こうすれば2人ともあったかくなるよ」
彼の肩も腕もひじも、私の腕と密着している。
すぐに私の体がほてり始めた。
「確かに・・・・あっという間に、温まっちゃいそうです・・・・」
「本当にー?まだまだ寒いけどなー?」
ジヒョク君が私の腰に手を回して強く抱き寄せてくる。
「ほら、麗ちゃんこっちにきて、俺をもっとあったかくしてよ」
「も、もう!」
私はコートをジヒョク君に戻した。
・・・・・でもコートの中にこもった2人分のぬくもりがとても愛おしかったのは内緒だ。
「ははは、ざんねーん!・・・・・さて、そろそろ盛り上がってるかな?」
「今度は・・・・どこに行くんですか?」
「ついてくればわかるよー!今度も麗ちゃんが知らない秘密の新大久保だよ」
「ジヒョク君・・・・・今夜は、どうしてこんなに私に新大久保を見せてくれるんですか?」
「それは、麗ちゃんに新大久保を、いや、韓国を知ってもらいたいからだよ」
「私に韓国を?」
「俺は麗ちゃんが生まれた日本が大好きだから、麗ちゃんにも俺が生まれた韓国を好きになって欲しいんだ」
「えっ・・・・・?」
「さ、行こう!」
ジヒョク君はそれ以上は語らず、早足で裏通りを進んでいく。
やがて、街外れの倉庫のような建物の前に立った。
「さあ、到着!」
「ここは・・・・・?」
「クラブだよー!」
「新大久保にはクラブもあるんですか!?」
「もう何年も前からあるよ。俺も時々行くんだー」
「へえ、そうだったんですね」
(クラブなんて・・・・私、行った事ないなぁ・・・・なんか緊張する・・・・)
建物の入口で入場料を支払い、入っていくとそこにはダンスフロアがあった。
フロアでは、数十人の人が踊っており、ミラーボールが室内のあちこちにランダムに光を放ち、人々の姿を浮かび上がらせている。
流れているには、ノリノリなK-POPのダンスアレンジ。
(わあ・・・・音楽が大音量で流れてくる・・・・!音がズンズン胸に刺さってきて、身体が自然と弾んできそう・・・!)
「この曲、俺大好き!麗ちゃん、踊ろ!」
ジヒョク君が私の手をつなぎ、フロアへと進み出る。
「ジ・・・・ジヒョク君、私・・・・踊ったことないんですけど・・・・・・!」
「だいじょーぶ!みんなの真似をして身体を動かしていればいいんだよー」
気持ちよさそうにリズムに乗り始めたジヒョク君。
身体を縦に動かし、心地良さそうに音楽に浸っている。
そして私に手招きして、さあ、とうながす。
(こ・・・・こうかな・・・・?)
私はぎこちなく踊り始める。
「そうそう、麗ちゃん、上手だよ!」
彼がまぶしそうに私を見つめる。
私達は、手をつないだまま、踊り続ける。
(あれ?どこかでこのシーン、見た事があるような・・・・)
急に、記憶がよみがえってくる。
(そうだ・・・・・映画だ・・・・・!)
「何か映画みたい・・・・」
「え?なに?」
音楽のボリュームが大きいので、私の話が聞こえないらしく、彼が私の口に耳を寄せてくる。
「なんだか映画みたいですね!この間、超新星のみなさんが出ていた映画でもクラブのシーンが出てきていたから・・・・・」
「確かに!あの時も、こんな風にノリノリで演技してたんだよー!」
その時、フロアが薄暗くなり、曲の調子が変わった。
ロマンティックで、スローな情感たっぷりのラブバラード・・・・。
フロアにはカップルだけが残り、お互いの腰に手を回すなどしながら向かい合い、密着してゆっくりと身体を揺らしている・・・・。
「麗ちゃん・・・・、おいで・・・・・」
ジヒョク君が両手を差し出す。
「えっ・・・・で、でも・・・・・・」
「いいから・・・・・・おいで」
彼のほうから近づいてきて、私の両腰を挟み込むように手を添える。
「これも・・・・映画みたいだね」
映画でもメンバーがチークダンスを踊るシーンがある。
私はあのシーンがとても好きだった。
どのメンバーもとても愛おしそうに相手の女性を抱きしめんばかりの態度で、切なそうに踊っていたっけ・・・・。
(映画を観ていた時、相手役の女優さんがうらやましいなって思ってたなぁ・・・・でも今は・・・・・私、ジヒョク君とチークダンスを踊ってる・・・・)
いつもダンスをしているだけあって、ジヒョク君はステップもすごく上手で、私をリードしてくれる。
「そう・・・・体ごとリズムに乗って・・・・麗ちゃん上手だよ・・・・・」
「私・・・・映画の中に入り込んだみたいです・・・・・」
「あはは、本当にそうなのかもしれないよ」
ジヒョク君は私の両手を取ると彼の腰を抱かせる。
「ほら、麗ちゃんも映画みたいに俺を抱きしめて」
ジヒョ君も私の腰を抱く。
(まるで・・・・抱き合って踊っているみたい・・・・・!)
「素敵な夜だね・・・・」
「は・・・・はい・・・・素敵すぎて、ドキドキします」
「麗ちゃんは俺の事、子供みたいって良く言うけど、子供はチークダンスは踊らないんだよ」
ジヒョク君が私の腰をぐっと抱き寄せる。
私達の身体が一気に近づく。
「麗ちゃん・・・・、そんなに緊張しないで・・・・俺に身を任せて・・・・・」
「でも・・・・ジヒョク君が近すぎて恥ずかしい・・・・・」
「何で恥ずかしいの?俺はとても幸せなのに」
そう言うと、ジヒョク君は私の髪をなでる。
近すぎる私達の顔と顔・・・・。
見つめ合う瞳と瞳・・・・。
「麗ちゃん・・・・」
2人の間に流れる、甘い沈黙。
何かが起こりそうな予感・・・・・。
・・・・・が、あったのに。
その瞬間、会場がぱあっと明るくなった。
「あっ!」
ダンサンブルな曲が流れ始め、ジヒョク君が思わず声をあげた。
「この曲・・・・!」
「超新星だっ!!!」
フロアには再びミラーボールやレーザービームが飛び交い始める。
自分の曲がかかったことで、テンションが一気に高まったジヒョク君は元気に踊り始めた。
「気持ちいいね!超新星サイコー!」
フー!
と声を上げながら、ジヒョク君が恋を振りながらフロアの真ん中に躍り出る。
(あっ・・・・いけない!)
そう思った瞬間、彼は普段の振り付けで踊り始めてしまった。
あまりにもサマになっているポーズ、そしてカッコイイダンス。
身体が自然と反応してしまうらしく、ジヒョク君は曲のラストまで、しっかりと踊りあげて、きめポーズまで取った。
「イェー!!!」
フロア中の人達が、ジヒョク君に視線を注いでいる。
「まさか・・・・あの人・・・・・」
「超新星?」
「ジヒョクがいる~ッ!」
「キャーーーーーーー!!!!」
「ジ、ジヒョク君、早くこっちに!」
私は彼に駆け寄ると、大慌てでクラブの外へと連れ出した。
階段を上がり、地上へと出る。
「ごめんごめん、つい、身体が動いちゃって・・・・。気持ちよかったなあ~」
「それはわかりましたから、は、早く!みんなが追いかけてきちゃう・・・・!」
数人の女性が、クラブの会談を上がってくるのが見えた。
「キャー、ジヒョク~ッ!」
「ごめんねー!みんな大好きだよー!またね~!」
ジヒョク君は追ってきた女の子達に手を振ってから、駆け出した。
「ジヒョク君!急いで!!」
「ごめんごめん!あ、麗ちゃん!信号が赤になっちゃうよっ!急いで!」
ジヒョク君が私の手を握る。
私達は、信号を全速力で渡り切る。
(わぁっ・・・・・空を飛んでるみたい・・・・)
彼が手を引いてくれるから、私はいつもよりずっと早く走れた。
・・・・・気づいた時には、私達は、歌舞伎町の広場にいた。
「はあはあ・・・疲れた・・・・」
「ごめんね、麗ちゃんまで走らせて・・・・」
「も、もう・・・・!クラブであんなに完璧に踊っちゃったら、バレるに決まってるじゃないですか・・・・」
「ごめん・・・・・」
ジヒョク君はしゅんとなった。
「俺、超新星の曲、大好きだからガマンできなかった・・・・・」
(うぅ・・・・そんなにしょんぼりされると・・・・で、でもダメ!元アシスタントマネージャーとして、ジヒョク君の為にもここはビシッと言っておかないと・・・・)
「もうっ、これからは周囲の目にも、気をつけてくださいね」
「はい・・・・ごめんなさい」
ジヒョク君はさすがに少し反省したようだけど・・・・。
私達がたどり着いた歌舞伎町の旧コマ劇場前にある広場には、かなりの人が集まっていて、みんな上を見ていた。
ビルに据えられた大型ビジョンでは、サッカーの試合が繰り広げられている。
するとジヒョク君はいつの間にかその画面をじっと見つめていた。
「あっ・・・・サッカーの国際試合、今日だったんだ!」
その次の瞬間、見事なシュートが決まった。
「うぉ~ッ、すッごいシュート!」
ジヒョク君も一緒になって広場に駆け込み、みんなと喜び合ってる。
(もぉっ・・・・・、すぐに盛り上がって、子供なんだから・・・・)
苦笑いして彼を見つめる。
(でも、こういう素直なところがジヒョク君らしいんだけど・・・・)
ある程度騒いで満足したのか、ジヒョク君が私のところに戻ってきた。
「ただいまー!面白かった!」
「おかえりなさい!ふふ・・・ジヒョク君は男の子みたいに元気ですね」
「あっ、麗ちゃん、俺の事、また子供って思ったんだねー?」
「ごめんなさい。だって・・・・サッカーではしゃぎだしちゃったのが可愛くて・・・・」
ジヒョク君は少しむくれて、唇をとがらせた。
「そんなに俺の事子供扱いするんなら、もういいよ!」
と言って、突然駆け出してしまった。
「ちょ・・・、ちょっと待ってください、どこに行くんですかっ、ジヒョク君っ!」
ジヒョク君を追いかけ、私は歌舞伎町を抜け、大ガードを抜け、西新宿の高層ビル街へ駆けていく。
(一体どうしたの・・・?)
ジヒョク君は、ビルとビルの谷間にある、レンガに囲まれた噴水の前に入っていく。
「はぁっ・・・・はぁっ・・・・、私・・・・もう、走れない・・・」
立ち止まり、息を整えている間にジヒョク君を見失ってしまった。
「ジヒョク君・・・・?」
私はあたりを見回す。
しいんとしていて、人の気配がない。
(ついさっき、このあたりを走っていったはずだけど・・・・、もう・・・遠くに行っちゃったかな・・・・?)
「ジヒョク君・・・・?」
(もしかして・・・・怒って帰っちゃった・・・・?)
後悔で胸がいっぱいになる。
(子供みたいなんて言ったから・・・・傷ついちゃったのかも・・・・、あんなこと、言わなければよかった・・・・)
後悔しても、もう遅い。
ジヒョク君は辺りを見回してみても、見当たらない。
「ジヒョク君・・・、お願い、帰ってきて・・・・」
噴水の前に座り込んで、私は思わず泣き出していた。
「ジヒョク君、ごめんなさい・・・!もう、子供だなんて言わないから・・・!」
(ジヒョク君・・・・どうしたら許してくれるんだろう・・・・)
ぽろぽろ涙を流している私の背中を、誰かがそっと叩いた。
(えっ・・・・?)
振り返ると、照れくさそうな顔でジヒョク君が立っていた。
「ジヒョク君!ごめんなさい!」
(戻ってきてくれたんだ・・・・!)
跳ね起きた私は、ジヒョク君の胸の中に飛び込んでいく。
「良かった!帰って来てくれて!子供だなんてもう2度と言わないから、置いていかないで・・・!」
「・・・・麗ちゃん」
静かな声で語りかけながら、私の背中をジヒョク君が何度もなでる。
「冗談で隠れてみただけだよ?俺が麗ちゃんを1人にするわけないでしょ」
「・・・・えっ?」
顔を上げると、ジヒョク君が優しい微笑みとともに、私を見下ろしている。
「隠れて麗ちゃんが来るの待ってたらさ。噴水の方で麗ちゃんの鳴き声がするから、びっくりしちゃったよ。でもごめんね、泣かせたりして・・・・」
「・・・・も、もしかして全部聞こえてたんですか?」
恥ずかしさのあまり、彼の胸に顔を隠す。
「え?何か言ってたの?全然聞こえなかったよ?」
「そ、それならよかったです・・・・」
「うん。『ジヒョク君、お願い戻ってきて~』なんて声、全然聞こえなかったよ?」
「きっ・・・聞こえてるじゃないですか~!」
「ははは、ごめんね。聞くつもりはなかったけど、耳に入ってきちゃったんだよ」
「もっ・・・・もう、知らない!聞かなかったことにしてくださいっ!」
「やーだよ」
ジヒョク君が私のことを優しく抱きしめる。
「麗ちゃんさぁ・・・・、俺の事子供だって言ってるけど、麗ちゃんだって子供だよ?俺の姿見えなくなったぐらいで泣き出しちゃって・・・・」
「もうやめて・・・・。ジヒョク君の言う通りですから、あまりいじめないで下さい・・・」
「あはは、本当に麗ちゃんは可愛いなあ」
私の背中をなでながら、ジヒョク君が私の髪に頬ずりしてくる。
「・・・・こんなに可愛い麗ちゃんを、絶対に1人きりになんかしないよ」
「ジヒョク君・・・・」
「ねぇ・・・さっきの続き、しよ?」
ジヒョク君が私の手を取り、右に左に、ゆっくり身体を揺らし始めた。
私の脚も、つられて、右に左にゆらゆらステップを踏む。
高層ビルの明かりが、私達を照らしている。
ひとつひとつの窓の明かりが、ミラーボールに貼り付けられた鏡達のきらめきのようだった。
「俺達、さっきのチークダンスを踊ってるんだよ・・・・」
「は・・・はい・・・・」
ジヒョク君は何度も何度も私の髪に頬を寄せる。
「でもさっきよりずっと、俺達の距離、近くなったよね?」
やがて、彼の頬が私の髪から離れ、私は彼の方をそうっと見上げた。
先ほどより近い距離に、ジヒョク君の唇があった。
優しく微笑んでいる唇に、思わず目線がいってしまう。
(なんだかキスしてしまいそうな距離・・・・でも・・・・ジヒョク君となら・・・・)
苦しくなるくらい胸をドキドキさせながら、私は目を閉じた。
ジヒョク君の顔がゆっくり近づいてくる・・・・。
そして・・・・。
私のほっぺに、彼の唇が当たる。
甘いときめきで、胸がつぶされそうになった。
「麗ちゃんに、キスのプレゼント。今日がデビュー3ヶ月でしょ?」
「あっ・・・・そう言えば。覚えていてくれたんですか?」
ジヒョ君に言われて、改めて気づいた。
「もちろんだよ!デビューの日って大事だからね。ほら、こんなに可愛いドリンクが自販機で売ってたからこれでお祝いしよう!」
ジヒョク君と私は、噴水前のベンチに座り、ジヒョク君が買ってくれたストベリーソーダで乾杯した。
赤くてシュワシュワしていて、とても甘くて・・・・。
ストロベリーソーダは、ジヒョク君にキスされてとろけそうになっている私の気持ちそのものだった。
「今夜は絶対麗ちゃんと一緒に、居たかったんだよ。デビュー3ヶ月記念日だからさ」
「あ・・・・ありがとうございます」
「ロケバスに一緒に乗るんだったらバスの中で言おうと思ってたけど、オフになっちゃったでしょ?だから、無理矢理、新大久保に連れて来ちゃった」
「うれしいです・・・・」
無我夢中で過ごしてきた今までの3ヶ月の思い出が頭の中に浮かんでくる。
辛かった事も、悔しかった事もいっぱいあった・・・。
(その時に・・・いつも側にいてくれたのは・・・・)
いつも、おどけた事を言って元気づけてくれていたのは・・・。
(ジヒョク君だった・・・・)
「これからも一緒にがんばっていこうね!」
ジヒョク君は明るく優しさに、また涙がじわっと浮かんでくる。
「いつの間にか真夜中だね・・・・」
「本当ですね・・・・、もう、終電もないですね」
「麗ちゃん、これからどうする?」
ジヒョク君が私に寄りかかってくる。
「そうですね・・・・、始発が来るまで深夜までやってるカフェでお茶でもしますか?私、少し休みたいです・・・」
「わかった。じゃあ、あのビルまで歩ける?」
ジヒョク君は、すぐ近くの高層ビルまで私を連れて行った。
そこは・・・・高級ホテルだった。
「ホッ・・・・ホテル・・・・ですか!?」
「そうだよ。麗ちゃん疲れてるでしょ?あったかい所でゆっくり休んだ方がいいよ」
まさかホテルに連れて行かれるとは思ってもいなかったので、私の頭は大混乱した。
(どうしよう・・・・。突然すぎてなんて返事をしたらいいのか・・・・)
「どうしたの?変な顔して。俺だって20歳過ぎの大人だし、ホテルくらい利用するよ」
私に手を差し出し、ジヒョク君はこう言った。
「さぁ、寒いから早く入ろう」
「ジッ・・・ジヒョク君、でもいくらなんでも、今の私達にホテルは大人すぎるんじゃ・・・・」
「・・・・え?」
「イヤじゃないんです!・・・・でもまだ心の準備が・・・・」
「・・・・麗ちゃん?」
急にジヒョク君の顔が、くしゃっと歪んで泣き出しそうに見えた。
(ど、どうしよう・・・・)
焦ったその時、ジヒョク君はこらえきれないかのように笑い出した。
「あははははは!何考えてんの、麗ちゃ~ん!俺、このホテルでお茶しようと思って来たんだよ?」
「・・・・えっ!?」
「この最上階に、朝までやってる素敵なバーがあるから、案内したかっただけだよ!」
「ええっ・・・・?」
私の頬がみるみる熱くなる。
「まぁ、本音を言うと・・・お部屋で麗ちゃんと朝まで一緒にいたいけどね・・・・」
「まっ、また冗談言ったりして・・・・」
「<font color="#0000FF">冗談なんか言ってないよ。俺だって大人の男なんだからね・・・?」
ジヒョク君が私の肩を抱き寄せる。
彼の身体の温もりが伝わってくる・・・・。
「ジ・・・・ジヒョク君・・・・私・・・・」
「な~んて!嘘だよー」
「も・・・もう、からかわないでくださいっ・・・・」
「ごめんごめん。じゃあ行こう。最上階はすごい景色だよ」
直通のエレベーターに乗り、50階まで上がるとそこにはジヒョク君が言っていた通り、眼下に夜景が一面に広がっていた。
「・・・・うわあ・・・・・ッ!」
思わずため息が漏れる。
室内は一面のガラス張りで、窓の外のきらめく夜景を見渡す事ができた。
「ここ、朝までやってるんだー、ね?素敵な所でしょう?」
私達は窓に面した横並びのソファに案内された。
ふかふかのシートに身を沈めて、新宿の夜景をジヒョク君と眺める。
「すごい・・・ほら、うんと下に見えるあの青いロゴマーク、15階建てのデパートのですよ!
」
「俺達は50階だからはるか上にいるからねー」
「本当にこんな素敵な所に連れてきてもらって、とってもうれし・・・・あれ?」
ここで私は大変な事に気づいた。
「ジヒョク君。ここは新大久保じゃないのに、どうしてこのお店の事知ってるんですか?」
「ああ、それは、前、ここに来た事があるから・・・・」
「・・・・え?」
周りはみんなカップルだらけだし、ここはきっとデートで来るお店だと思う。
(ジヒョク君・・・・誰と行ったんだろう)
もしかしたら恋人がいるのかな・・・・と考えたら急に哀しくなってくる。
「ねえ、また麗ちゃん、ひとりで変な妄想してるんじゃない?」
ニヤニヤ笑いをしながら、ジヒョク君が突っ込んでくる。
「もっ・・・・妄想なんてしてません。・・・・ただ、誰と行ったのかな?って思ったから・・・・」
「正解は、俺のお母さん!日本のガイドブックにこのお店が載っていて、どうしても行きたいって言うから連れて行ってあげたんだよ」
「お・・・・お母さんとここに・・・・・?」
「そうだよ!他の人達はみんなカップルなのに俺だけお母さんの付き添いで・・・。でも、お母さんがとっても喜んでくれたからいいんだよ」
「そうだったんですね。親孝行ですね、ジヒョク君は」
「でもね、その時に俺は決めたんだ。今度絶対この店に麗ちゃんとのデートで来よう、って」
「デート・・・ですか?私達・・・・」
「若い男と女が2人きりで出かけるのってデートでしょ?」
「まっ・・・・まあ、そうですよね」
「麗ちゃん、何もじもじしてるの?」
「い・・・・いざデートだなんて言われると、恥ずかしくて・・・・」
「麗ちゃんって見ていてほんと飽きないよ。ひとりで妄想したり、恥ずかしがったりするんだからね。」
「ひっ、ひどい!ジヒョク君、またからかって・・・・」
「おっと・・・・」
振り上げた私の手のひらを、ジヒョク君は両手で掴まえた。
「静かにしないと、ここでキスしちゃうよ?」
「やっ・・・・、やめてください・・・・」
「あはは、また照れた。すぐ顔にでるから麗ちゃんは、わかりやすいなぁ~」
私の肩を優しく抱くと、ジヒョク君はカクテルグラスで乾杯をしてくれた。
「麗ちゃん、デビュー3ヶ月、ほんとにおめでとう」
「ありがとうございます・・・・」
「これからも、嬉しい時も、苦しい時も、俺が側についていること、忘れないでね」
「・・・・はい・・・・すごく頼りにしてます」
翌朝・・・・
帰り道、ビルの前の交差点でジヒョク君が何かを私に差し出した。
それは手のひらに乗るような、リボンが付いた小さな包みだった。
「はい!これ」
「何・・・・ですか?」
「開けてみて」
「・・・・・?」
包みを開くと、中にはサテンの濃いピンク色の布地で作られた小さな巾着袋のストラップが入っていた。
「可愛い!これは・・・?」
「ポッチュモニって言うんだー。チョゴリの布で作った袋なんだよ。幸せを集める福袋って言われてるんだ」
「わぁ・・・・素敵ですね」
「嬉しい事、楽しい事、毎日少しずついい事が起きるよね?俺と一緒に小さな幸せを集めていけば、この袋もいつかいっぱいになるよ」
「・・・・いっぱい祝っていただいたのに、プレゼントまでありがとうございます」
「このプレゼントは、ロケバスの中であげるつもりで用意していたんだ」
「ジヒョク君、ずっと前から私のデビュー記念日覚えていてくれてたんですね」
「当たり前だよ!大切な麗ちゃんの記念日なんだから・・・・貸して」
何もついていなかった私のケータイに、ジヒョク君がポッチュモニを付けてくれる。
「麗ちゃんのケータイにぴったりだね」
「嬉しい。大切にします。ありがとうございます!」
「うん!」
私達はあかるくなり始めた新宿の街を、手を繋いで歩いた。
「タクシーが拾える大通りまで歩こう」
「はい・・・・」
私達はそれぞれの家に帰ることにした。
(ずっと大通りなんて来なければいいのに・・・・)
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【並んで歩く】選択時
(帰りたくないけど・・・・もう時間だもんね・・・・)
切ない気持ちをなんとか、心に押しとどめて、私はジヒョク君と並んで歩く。
「麗ちゃんと2人で朝まで遊んだのなんて、初めてだね」
「本当ですね」
「なんかあっという間だった・・・・」
ジヒョク君がぎゅっと手を握る。
「・・・・もっともっと一緒にいたいよ」
「私も・・・・」
別々のタクシーに乗って、帰らなくてはならないのがすごく寂しい。
(離れたくない・・・・。でも、そんな事言えない・・・・)
「不思議だよね。また明日、ロケで会えるのに」
「はい・・・・さよならするの、切ないです・・・・」
「俺もだよ。ずーっと一緒にいたい」
ジヒョク君の手が私の肩に回りまた彼が私の頭に頬をすりつけてくる。
「・・・・こんな気持ちになったの、初めてだ。麗ちゃんを、俺だけのものにしたい・・・・」
「・・・・ジヒョク君・・・・・」
(私も感じる・・・・すぐまた会えるのにどうしてこんなに寂しいんだろう?どうしてこんなに・・・ジヒョク君の事が好きなんだろう・・・・)
大通りに出てしまっても、私達はしばらくその場に立ち尽くし、お互いを見つめ合っていた。
「タクシー・・・・乗らなくちゃね」
ジヒョク君が黄色の車に手を上げ停めさせる。
「さあ・・・麗ちゃん、乗って」
「は・・・・はい・・・・きゃっ!!」
乗ろうとした私の腕を取り、ジヒョク君がきつく抱きしめてくる。
「俺の代わりに、ポッチュモニがずっと麗ちゃんと一緒にいるからね」
「はい・・・・」
「心配だから、帰ったらメールしてね」
ジヒョク君が私の右の頬にも、左の頬にもキスをする。
そして・・・・唇に唇を近づきかけて少し照れて、おでこにキスをしてくれた。
「また明日!」
タクシーが走り去るまで、ずっと手を振って見送っているジヒョク君に、私も何度も何度も手を振った。
たった今、別れたばかりなのに、もうジヒョク君が恋しい。
(ずっとずっとジヒョク君と一緒にいたい・・・・!早く明日になればいいな・・・・)
手を振るジヒョク君の少し寂しそうな笑顔を見つめていたら、自然と涙が浮かんできた。
(私、ジヒョク君の事が本当に好き・・・・ずっとずっと、そばにいられますように・・・・)
胸にたくさんの愛情が溢れてくる。
ふと、視線を落とすとケータイに付けられたポッチュモニが目に入った。
私は手に取ると、ポッチュモニに口付ける。
(ジヒョク君との思い出が、たくさんこの袋に入りますように・・・・)
ジヒョク君の事を考えると熱くなる胸に手を当てながら、私は顔をあげ、遠くなっていくジヒョク君の姿を見つめていた。
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【ため息をつく】選択時
(帰りたくないな・・・・)
私は思わずため息をついてしまった。
その時、ぼんやり歩いていたせいで、道端の石につまづき、私はよろけた。
「きゃっ!!」
「おっと、危ない。麗ちゃん、眠くてフラフラしていて危ないから。俺の腕につかまってなよ」
ジヒョク君が差し出した左腕に、私の手のひらを絡める。
(ジヒョク君の側にいるとすごく安心する・・・・)
今まで感じたことがない、ほっこりした気持ちに私は満たされていく。
「新大久保、楽しかったね~!」
「はい、色々あったけどすごく楽しかったですよ」
「食べたり、走ったり、麗ちゃんが泣いたりね!」
「もっ・・・もう、それは言わないでって言ってるのに・・・・」
苦笑いしながら、私はもっときつくジヒョク君にしがみつく。
「今度は麗ちゃんが良く知ってる街を、案内してくれる?」
「いいですよ!鎌倉なんてどうですか?」
「いいね!大仏や海があるんだよね!」
「はい。大仏の中にも入れるんですよ!真っ暗でちょっと怖いですけど」
「それいいね!まぁ、麗ちゃんと真っ暗なところで2人きりになったら、何するかわかんないけど・・・・?」
「もっ・・・・もう、ジヒョク君たらからかってばっかり・・・・」
私に向き直り、ジヒョク君が頭をくしゃっとなでる。
「麗ちゃんに出逢えてよかった。毎日がほんと楽しいよ」
ぎゅっ・・・・と彼が抱きしめてくる。
私も彼を抱きしめ返す。
(私・・・・この人の事が本当に好き・・・・ずっと、ずっと側にいられますように・・・・)
胸にたくさんのの愛情が溢れてくる。
もう言葉はいらなかった。
私達の間にはただ、お互いの温もりが伝わっていった。
-END-