「ジヒョク君・・・・、そろそろ新大久保に着きますよ?」
「・・・・・」
「もお・・・・よく寝るし、よく食べるし、ホントお子様なんだから・・・・」
長いまつげをぴくぴくさせながら眠るジヒョク君は、天使みたいだった。
(可愛い・・・・)
なでなで・・・・。
私はそうっとジヒョク君の頭をなでた。
太めの男らしい神をなでながら、私は窓の外を眺めた。
「うーん・・・・・」
「ジヒョク君、そろそろ起きて下さい」
「んー・・・・ママーもうちょっと・・・・・」
言いながら、ジヒョク君が私の腰にぎゅっと抱きついた。
「きゃっ!!」
(ママって・・・・ジヒョク君・・・・寝ぼけてるのかな?)
「も、もうジヒョク君たらいい加減に目を覚ましてくださいっ!」
「えーやだぁーもうちょっとぎゅっとさせて・・・・」
(ジヒョク君・・・・寝ぼけてなんかない!絶対にわざとやってる・・・・!!)
私は何とかジヒョク君を腰からはがす。
「ちぇーばれたか」
ジヒョク君がういたずらっぽく笑う。
「も、もう!やっぱりわざとやったんですね!」
「ごめんごめん、だって麗ちゃんの体、柔らかくてつい触りたくなっちゃうんだもん」
「全く・・・・」
「ほら、機嫌直して。おいしいご飯がすぐそこまで近づいてるからさ」
「え、ジヒョク君わかるんですか?」
「もっちろーん!今夜は、麗ちゃんにとっておきの新大久保を見せてあげるからねー!」
私達は新大久保の裏通りでタクシーを降りた。
「あれ、何でこんなに寂しい通りで降りるの?」
「ジッ・・・・ジヒョク君っ、自分の事わかってます?大人気韓流タレントが大通りでタクシーから出たら大騒ぎになっちゃいますよ」
「そうかなぁ~」
「それにしても・・・新大久保に久しぶりに来ましたけど、夜なのに随分混んでますね」
通りには大勢の人が歩いている。
ショッピングをしたり食事をしたり・・・・
思い思いに韓流で溢れている街を楽しんでいる。
私は歩きながら、辺りをきょろきょろと見渡した。
「着いた!ここだよー」
私達は静かな一軒家風の韓国レストランへ入った。
そこは、それぉれが個室になっている隠れ家風のお店だった。
「ここは韓流タレントがお忍びで来る所なんだよ。観光ガイドには載ってないヒミツの店なんだ」
「わあ・・・・・。本当に隠れ家なんですね」
「ジヒョクじゃないか、久しぶりだね」
「久しぶりー、お腹空いたよー!」
ジヒョク君がドアを開けると、奥から年配の女性が出てきた。
ジヒョク君と知り合いなのか、仲がよさそうに抱き合って再会を喜んでいる。
「うん、すぐ美味しいのを出してあげるからね。・・・・おや、こちらの女性は?」
「同じ事務所の麗ちゃんだよ」
「あっ・・・・初めまして!麗です。」
「こちらこそ初めまして。ジヒョクがお世話になってます。この子はねぇ、よくうちに食べに来てくれるんで、私は彼を親戚の子供みたいに可愛がってるんですよ」
「俺のもう1人のお母さんみたいな人かな?」
「それにしても、ジヒョクが女の子を連れてくるなんて初めてで嬉しいね。ゆっくり食べてってね」
「あっ・・・・はい!」
(ジヒョク君・・・・ここに連れてきた女の人は私が初めてなんだ・・・・どうして私をここに連れてきてくれたんだろう・・・・?私は特別・・・?それともただ、ここのご飯を食べたかっただけ・・・?)
そんな事を考えながら、私はジヒョク君と向かい合って席に着いた。
そして・・・・・
私とジヒョク君は、次々に運ばれてくる焼肉やチヂミなどの韓国料理を堪能した。
「やっぱりおいしいなぁ」
「本当、最高ですね!」
出来立てのチヂミは、もちもちで、最高の味わいだった。
「あ、麗ちゃんもこのお肉食べてみて!」
ジヒョク君が銀色に輝く韓国箸を差し出してくる。
思わず口を開ける。
「はい、あ~ん」
ジヒョク君が食べさせてくれた豚肉は、とろけすように柔らかかった。
「お、おいしい~っ!」
「でしょ?ここのは最高なんだよ。ねえ麗ちゃんのチヂミもちょうだい!」
ジヒョク君が口を開ける。
少し照れながら、私もお礼に箸を彼の唇に近づける。
「は・・・・はい、あ~ん・・・・・」
「うん!おいしい!」
「よかったですね・・・・やっとお腹も落ち着いたみたいで・・・・・」
「ごめんね子供みたいにお腹空いたって騒いで」
「いえ、可愛かったですよ?」
「本当に?でも、やっと満腹になって、俺もオトナになったよ!」
「よかったですね」
その後も私達は韓国料理を楽しんだ。
「ふぅ~食べた食べた!よし、元気になったし、今夜は朝まで遊ぶぞ!」
「えっ、朝までですか?」
「もちろん、麗ちゃんも付き合ってくれるよね?」
「えっと・・・・・」
「麗ちゃんにとびきりの夜をプレゼントしてあげるよ」
「でっ・・・・でも私、今夜は実家に帰ろうと・・・・」
「じゃあさ、ママがOKだったら、朝まで付き合ってくれる?」
「それはいいですけど・・・うちの親、許してくれるかな・・・・?」
私は言われるままに電話をかけ、ケータイをジヒョク君に渡す。
(どうしよう・・・・うちのお母さん結構厳しいんだよね・・・・)
「もしもし?初めまして、超新星のジヒョクといいます。急にオフになりまして、今麗さんと新大久保にいるんですが・・・・、今夜はお嬢さんをお借りしてもよろしいでしょうか・・・・?」
敬語を話しているジヒョク君は急に大人びて見えて、どきんとする。
「本当ですか、ありがとうございます!・・・・はい、ちゃんとお家まで送り届けますので・・・・」
ケータイが私の手に戻ってくる。
「も・・・・もしもし?お母さん?」
「ジヒョク君て、日本語がよく出きるのねぇ。それに礼儀正しくていい子じゃないの。彼が一緒なら安心ね。楽しく遊んでらっしゃい」
「・・・・は、はい・・・・」
私はケータイを閉じて、ジヒョク君に向き直った。
「ジヒョク君って・・・・すごいですね」
「ん?」
「私の母親、ちょっと門限に厳しいんですけど、今日はとてもご機嫌で・・・・」
「そういって貰えると嬉しいな。俺は麗ちゃんのお母さんに気に入られたくて、一生懸命だっただけだよー」
「きっと母はジヒョク君のこと、すごく気に入ったと思いますよ」
「ほんとに!?やったー!」
「ジヒョク君なら安心ねって言ってました」
「良かったーお母さんがOKしてくれて!今夜はずっと麗ちゃんと居たかったからさ」
「・・・・・え?」
「いや・・・・何でもないよ」
「えっ、うそ、何か今言いかけましたよね?」
「それより!早く出かけようよ!」
ジヒョク君が私の手を取って立ち上がる。
「わっ、待ってください!」
「さぁ、今から麗ちゃんに新大久保を案内してあげるよ!」
ジヒョク君に手を引かれ、私は新大久保の夜に足を踏み入れた。
ジヒョク君が新大久保の狭いストリートを足早に、私と手をつないで歩く。
両脇のハングルの看板。
韓国料理のメニュー。
韓国コスメショップ。
(久しぶりにきたけど、本当に韓国に来たみたい・・・・!)
街中が韓流一色になっているなかを、私達は進んでいった。
「ジ・・・・ジヒョク君、どこ、行くんですか・・・・」
「ふっふっふ、ヒミツー!あ、ねぇ、麗ちゃん、5分だけここで待ってて!」
「えっ、ここでですか?」
そう言い残して、ジヒョク君は駆け出してしまった。
(ジヒョク君・・・・・どこに行っちゃったんだろう?)
あたりには、韓流タレントのCDショップがある。
(待ってる間、CDでも見てようかなぁ)
私はCDショップの中に入り、商品をチェックしてみた。
そこは韓流アーティストのCDばかりが所狭しと売られている、新大久保ならではの専門店だった。
(超新星もあるかな・・・・?)
私はきょろきょろと棚を見て回る。
「あっ・・・・あった・・・・・」
いつも見かける6人のCDやDVDが、何十枚も売られているコーナーを見つける。
壁には大きなポスターも飾られていた。
(すごい・・・・やっぱり人気あるんだなあ・・・・)
ほんの2、3分前まで私と手をつないでいたジヒョク君が、真っ赤な衣装を着て、色っぽい目つきで、ジャケットにプリントされている。
(このジャケット撮影の頃は・・・・まだ私とジヒョク君は、出逢っていなかったんだよね・・・・)
「麗ちゃん、お待たせ!」
振り返ると、ジヒョク君が微笑んでいた。
「おっ、俺がいる」
ポスターの前で、ポスターと同じポーズをおどけてとるジヒョク君。
スターだから当たり前なのだけど・・・・とてもキマってて、とても目立った。
「ちょっと・・・・あれ、もしかしてジヒョク?」
「キャー!やだ、カッコイイ!」
店の入り口のほうから女性達の華やいだ声がした。
「おっと・・・・・」
「ジヒョク君、こっちに隠れて!」
私は慌ててCD他なの裏へジヒョク君を連れ込んだ。
「気づかれちゃったかな・・・・・・?」
「も・・・・・もうッ!ジヒョク君がバレるような事するから・・・・っ!」
でも彼女達は、ジヒョク君を見つけて喜んでいたのではなかった。
「あー、この特大ポスター、持って帰りたいわね」
「このポスターのジヒョクのポーズ、いいよねー」
「ねぇ、こっちに超新星のCDもあるわよ!」
彼女達は超新星の特大ポスターに気を取られていたので、そうっと店を出た本物のジヒョク君は、気づかれなかった・・・・・。
(ふぅ・・・・・びっくりした)
私とジヒョク君はこそこそとCDショップを後にした。
「ふぅ・・・・・びっくりした」
「でも、良かったです。ばれてパニックにならなくて」
「そうだね。でも、せっかく俺達のファンに会えたのに、お話できないのは寂しかったなぁ・・・・」
ジヒョク君がしょんぼりとした顔を見せる。
(本当にジヒョク君、ファンの人達の事が大好きなんだなぁ・・・・)
超新星のファンの人を大事にする心は本当に強い。
(皆さんの事、本当の家族のように思ってるんだよね・・・・そういう所、本当に尊敬しちゃうな)
「・・・・ところで、ジヒョク君はどこに行ってたんですか?」
ふと思い出して聞いてみた。
「あ、そうそう、すっかり忘れてた。ホットク買ってきたよ!」
「ホットクって・・・・何なんですか?」
「日本で言う『おやき』みたいなものだよー!ほら、食べてみて。すっごくもちもちしておいしいから」
「あっ・・・・この白くて平らで丸い物・・・・街でいろんな子が食べてましたね。行列してませんでした?」
「あーそう言えばそうだねー」
「・・・・もしかしてさっき並んで買ってきてくれたんですか?」
「・・・・・麗ちゃんを驚かせたくてさ」
「私も一緒に並んだのに・・・・すみません」
「ううん謝らないで。麗ちゃんの笑顔を見るのが俺の幸せなんだから、遠慮せずに食べて食べて!」
一口くらいの大きさにちぎったホットクをジヒョク君が私の唇に近づけてくる。
「はい麗ちゃん、あ~んして」
「ありがとうございます・・・・・」
口の中で、もちもちの生地の感触を味わう。
そしてシナモン入るのハチミツが中から溢れてくる。
「お・・・・おいしいですっ!もちもちで、中がとろとろで、すっごくおいしいです!」
「でしょー?」
「しかも、できたてだからほかほかで・・・・こんなにおいしんじゃ、行列もできるわけですね」
「麗ちゃんが気に入ってくれてよかった。はいもう一口、あーん!」
ジヒョク君が、真ん丸いホットクを近づけてくる。
私が口を開けてかぶりつこうとした瞬間、ジヒョク君も一緒に唇を寄せてくる。
2人同時にかぷりとしたので、お互いの唇まであとほんの少しの距離だった。
「きゃっ・・・・!」
「麗ちゃん見てたら、俺も食べたくなっちゃって」
ジヒョク君はいたずらっぽい顔で笑った。
「も、もう!驚かせないで下さい」
「はーい」
ジヒョク君がクスクス笑いながら私から離れる。
「あーあ、後ちょっとでキスできそうだったのに・・・・」
ジヒョク君が何か言ったみたいだけど、私の耳には届かなかった。
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