昨年末書いてたミラモナの小説の続きです。


①〜③過去の連載はこちらから


 探偵社ピピットに依頼して、高橋さんの自宅はわかった。

自宅から休日の調査をしてもらって、一日調査をした報告ももらった。


 何かお話するきっかけを見つけられたら、と黒川さんには言ってもらってたけど、正直なところ、この報告書をもらったところで、何を話しかけたらいいのかわからない。


 今日も遠くから見つめていただけ。


 休日、高橋さんは朝から洗濯をしてベランダに干して、昼前に家族で車で幕張のイオンに出かけた。

 休日は車で出かける可能性あるからとか、朝から出かける可能性あるからとかいろいろ黒川さんに言われて調査の開始は朝8時からだったし、車両費用とかなんかいろいろ取られて20万円以上かかった。結局、昼前に出かけて、帰ってくるまでの8時間調査費用もかかった。使わなかったのに自転車も用意してその費用も取られたし。

私の一か月の給料よりずっと高い。一生懸命パートしていても、探偵に依頼したら一瞬でお金なくなる。こんなに生活を切り詰めてるのに。自分で依頼したことだからしょうがないけど、お金のこと思い出したら憂鬱。



 ご主人と、中学生の娘さんと三人で昼前にイオンに車で出かけて、帰ってきたの夕方の4時ぐらいだった。

 朝、自宅から自転車で出かける制服姿の女の子も確認されていたので、たぶん上の娘さんは部活か塾か何からしい。


 ご主人の写真も見たけど、なんだか普通のおじさん。特徴というものもない。

 実際にご主人の姿を見たら、どんな感想がわくかなと思ったけど、意外と何も感想はなかった。あんまりおじさんに興味ない。

でもなんとなく、そうかーと納得した。



 娘さんは、なんだか、かわいかった。若くて。青春ってかんじ。真面目そうだった。二人とも細くて小さくて、あまり高橋さんには似てない気がする。


 家族に向ける優しい笑顔はいつも見ている高橋さんそのもので、本当に、普通の、幸せな家庭の主婦でお母さんなんだな、って改めて実感した。


 別に元からその家庭に割り込むつもりも、そもそもそんな余地もないし、何をしようという気持ちもないし、ただ

「思ってたとおりなんだな」

って確認できたかんじ。私の思ってたとおりの高橋さんだった。それは嬉しいし、調査で知れて良かった。



 お昼ご飯はとんかつのさぼてんでとんかつ食べてた。キャベツのおかわりをしたみたい。

 帰る前にサーティワンでアイスを娘さんと食べてた。アイスを舐める高橋さん、かわいかったな。娘さんは期間限定や新発売のアイスで悩んでいたけど、高橋さんは迷う様子もなく、大納言あずきという味のアイスだったみたい。

 高橋さんはよく社割であんこを使った和菓子を買っているみたいだし、ほんとにあんこが好きなんだな。私も今度大納言あずき、食べてみよう。あんまりサーティワンなんて食べたことないけど。真似してみたい。



 あと、なんか、娘さんと服を見たり、靴を買ってあげたり、ペットショップで子犬とか見てたみたいだけど、今まで全然話したことないのにそんなことをきっかけにいきなり話しかけられない。

「猫より犬派なんですか?」

とか?

無理。絶対無理。


 もちろん黒川さんには、不審がられないようにと釘をさされてるし。そんなこと言われてもどうしたらいいの?

こういうとき、会話が上手な人なら自然に話しかけられるんだろうな。



 今日も、ただ、高橋さんのこと、見てただけ。


 なんのために20万円使ったのかわからない・・・泣きそう。


 仕事中、そんなこと考えててぼんやりしてたのかも。まんじゅうの粉を少し床にこぼしてしまった。

 社員の金子に見られた。見られてることに気付いたから、どうしようこっち見てるって思っちゃって、粉を片付けるときもたもたしてしまった。

 注意してくるわけでもないけど、こっち見てた。社員だからって偉そうにしていて、金子、ムカつく。おやじ。ガマガエルに似てる。

毛の生えている太い指も本当に嫌だ。ざらざらの日焼けした肌も。

でも、金子がゴミを見るように私を見る目が一番嫌い。


 帰り際、近藤さんに

「あー雨降りそうじゃん。いやだねー。おつかれー、ナカジマさん」

 と言われた。私が挨拶を返す前に、もう近藤さんは別の人におつかれと言っていた。みんなに挨拶してくれるのだ。いい人。


 近藤さんは、同じ自転車通勤だから高橋さんと駐輪場のほうに一緒に行くみたい。私はマイクロバス利用だからあまり知らないけど、調査でも、一緒に駐輪場から出てきてる写真あった。

 近藤さんが高橋さんに

「あ、戸田よえ子の新刊買った?あたし読んでんだけど、結構面白いよ。読み終わったら貸す?」

と言ってるのが聞こえた。


 高橋さんも何か答えていたけど、周りががやがやうるさくてよく聞こえなかった。近藤さんは声が大きくてよく通るから聞こえたけど。


戸田よえ子

全然知らないけど、帰りにスマホで検索してみたら、何か小説とか書いてる人で、やわらかい文体が読みやすいとかオシャレとかで女性に人気の作家さんみたいだった。高橋さんも好きなのかな?


 高橋さんが読むんだったら、私も読んでみようかな・・・というか、読むのかな?近藤さんから貸そうかと言われてたけど、高橋さんがほんとに読むのかわからない。



それに私、あんまり小説とか読んだことないけど・・・


どんな小説なのかな。読んだ人の感想とかあれば、ちょっと見てみよう・・・


と思い、Xで検索してみた。



 新刊の『おいしいコーヒーとドラムロール』は、ドラム教室を舞台にした小説で、ドラムレッスンの生徒たちのプライベートとドラム発表会までの挑戦や出会いをテーマにしたもので、幅広い世代に人気のようだった。

なにそれ、全然興味持てない・・・読みたくない・・・



 指をスワイプさせて、流し読みで感想などを眺めていたら、ピピットさんの報告書で見覚えのある単語を使ったアカウント名のツイートが目に入ってきた。


アカウント名は

「大納言あずき」


 高橋さんの好きなアイスの味だ・・・



「戸田よえ子さんの『おいしいコーヒーとドラムロール』図書館で予約したけど人気で順番全然回ってこないみたい😅早く読みたいな🥰」

というツイート。


大納言あずき・・・まさか高橋さん・・・?



〜続く〜

ちなみに、私は、リアルタイムで何か検索したい時用のXはあるけど(今なら当選者には2/20ごろ発送と書いてたプリマハムの宝塚貸切公演が、誰も届いた様子なくてめちゃくちゃムカムカしながらしょっちゅう検索してる。いつ届くんだ!!
!まずいハム!)
ツイートとかは一切してないし、フォローもほとんどしてなくて全然見てないんですが、

昨日、障害があり普段ほとんど喋らない長男が風呂で勝手に温度変えて冷たい水のシャワーを浴びていきなり
「みず!!!」
と発語しており、ヘレンケラーかよ!!と思った。
という、なんだか「ツイートしてえな…」と突然思う出来事が発生した。




今読んでる本

イラク水滸伝

著者 高野 秀行

めちゃくちゃ大ファンの辺境作家高野さんの最新作。

めちゃくちゃ分厚く気合十分です。