今回ご紹介する本は、旅作家である下川裕治さんがこれまでに旅をされて来た数々の国のいろんな場所を「桃源郷」として綴られている一冊です。


下川裕治「旅する桃源郷」




☆これまでの旅の様々なエピソードがぎっしり詰まった一冊はこちら


「桃源郷」とは、『俗界を離れた別世界。仙境。理想郷(陶淵明「桃花源記」に描かれている桃林に囲まれた平和で豊かな別天地から)』の事だそうで、どこをそう感じるのかは全くもってその人の感性によるものだし、生まれ育った環境や現在の心境などによるのではないでしょうか。


美しい風景、快適な気候、優しく温かな現地の人々…。

私のイメージでは何となくそんな場所が「桃源郷」であるような気がします。


そして、今まで私が行った国・エリアの中ではハワイがまさしくそんな場所であるように思う…のですが、ハワイは今の私にとっての桃源郷では無いように思います。


*理由はいろいろあるけど、それはここでは触れません。


下川さんがこの本で「桃源郷」として書かれている場所は、もしかしたら私を含めた読者には共感を得られない場所もあるかも知れません。


これまでに国内外をたくさん旅されて来た下川裕治さんが「桃源郷」だとして触れられている場所は私にとってはどこもとても興味深い所ばかり。

そして、下川さんのご本を読んだ時はいつもなのですが、思わず行ってみたくなってしまいます。


下川さんもこの本の中で何度も書かれていましたが、コロナ禍で旅をする事が出来ないという時間は自分の人生や日常生活とずっと向き合わないといけない時間でした。


私は旅作家である下川さんのように毎月どこかへ出かけるような生活はしていませんが、本当にあの時間は辛かったです。

知らない間に身体はストレスに蝕まれ、とうとう体調を崩して入院する事にまでなってしまいました。


今もしょっちゅう旅が出来るような環境ではありませんが、「行こうと思ったら行ける」という事はどれだけ私の心を軽くしてくれている事か!


コロナ禍を経て再び旅が出来るようになった今ですが、人々の腰は重くなっている…とも書かれています。

とても印象的に感じたのはこの一文です。


『旅に出なくてもやっていける……という言葉を耳にすると、「皆、そんなに強いのか」と呟きたくなってしまう。旅に出ない日々の中で出合う世界は生々しい。人生と一体化している』(「旅する桃源郷 はじめに」より)


という文章でした。


人にはそれぞれ事情もあるし、環境も違うので、テンション高く「旅に出ようよ!」とは私にはとても言えませんが、旅に出られないがんじがらめの日々の中で体調まで崩した私にとっては大いに頷ける言葉です。


旅先で「信じられない」ような美しい風景を見たとき


旅先でその街の人々に紛れながらぼんやりとお茶を飲むとき


旅先でそこに住む人の温かい気持ちに触れたとき


旅先で今までの人生を思い返して泣きたくなるぐらい不安な気持ちになったとき


だけど、旅先の喧騒や日常の風景がその不安を和らげてくれたとき


私はそこを「桃源郷」だと感じてしまうのかも知れません。


下川裕治さんが「桃源郷」として綴られているのは、チェンマイ、多良間島、エーゲ海・パロス島、シルクロード、安曇野、香港、バンコク、シンガポール、ダラット…等等です。


この本で下川さんの桃源郷を旅してみませんか?