タイトル通り、これまで下川裕治さんが書かれて来た紀行文のあらゆるエッセンスをぎゅっと集めた一冊です。



あらゆる、とは「死ぬかと思った」事や「ほっこり」した事、「びっくりハプニング」「トホホな話」、そして食べ物やお酒について。

それらのエピソードが各章ごとに集められています。



これがまぁ、読めば読むほど「マジか!」とつい呟いてしまうエピソード満載。

こう書くと下川さんご本人はお嫌だと思いますが(「おわりに」でも触れられています)、つい笑ってしまうような出来事も多々綴られていらっしゃいます。


「よくこんな旅に耐えられるなぁ」と思う事も本当にたくさん描写されているのですが、不思議とどんなに大変そうな国・旅先であっても下川裕治さんが書かれた文章を読んでいると行きたくなってしまうという、下川マジック(ただし、ヒマラヤでのエピソードである「ヒマラヤの登山道でヒルんだのは…」と「この世のものとは思えない吊り橋」はさすがに「無理!」と思いましたが…)。


*初出は「12万円で世界を歩く リターンズ」


「食べ物・酒編」に登場する食べ物やお酒は、決して高級なものではなく、地元の人々が普段食べているような何気ないものが多いのだけれど、約数十円〜100円程度で食べられる駅弁や麺などがやたら美味しそうに感じられます。


どのエピソードもそれぞれに旅を愛おしく感じるものばかりなのですが、特に「列車が高度をあげると出現するバー」(初出「鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす」)は何度読んでも自分で体験してみたくなる憧れの旅です。



最も古いもので1970年代に書かれたものから、最近書かれたものまで、下川裕治さんの旅が詰まりに詰まった本書ですが、やはり東南アジアについて書かれたものが多いので、今行っても同じような風景はもう見られないのかも知れないなぁ、と思うと寂しくもあります。


大都会であるシンガポールやタイ・バンコクはもちろん、今や映像や誌面を通して見るマレーシアやインドネシア、カンボジアなどの東南アジアの国々は現在では急成長して発展している国ばかりです。


↑唯一行ったことがある東南アジアの国であるシンガポール。

とても美しく、快適な旅先でしたが、何より嬉しかったのはそこで出会った人々が温かかった事でした。


しかし、そこに住む人の笑顔や吹いている南の風はこれから行く私にも感じられたら嬉しいし、きっとそこは変わっていないはず、と根拠のない確信を抱いている私なのでした。


そしていつの日か、私自身も下川さんのように世界のいろんな国を歩ける日が来ることを願っています。


旅が好きな方なら下川裕治さんの著書を読んだ事がない方にもきっと楽しく読めると思うこの一冊。

手に取りやすい文庫版なので、ぜひぜひ読んでみて頂きたいです!