Vol.141 『ササッと派』 | 猫又小判日記

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石井綾乃が綴るブログエッセイ。精力的に短歌を詠む。第一歌集「風招ぎ」、次いで第二歌集「猛禽譚」を上梓した。また「文学さろん 美し言の葉」を主宰。筋金入りの猫好きである。最近はプール通いで健康維持を図る。そんなつれづれを、日々思うままに書いていきたい。

Vol.141 『ササッと派』

角野ヨゴレインさんは、

136話に登場した、

黒田ホコリーヌさんの友人です。


ヨゴレインさんも掃除が大キライでした。

マンション住まいのホコリーヌさんと違い、

こちらは日本家屋の一軒家に住んでいます。

一部リフォームしてフローリングになっていますが、

基本は畳敷きです。

そこには埃や髪の毛が、

どこと言わずあちこち落ちていました。


ヨゴレインさんも、掃除機は何年使っていないか分かりません。

「よしっ!今日こそ掃除を…」と、思うときもあるのですが、

重たい掃除機を出すのが億劫です。

ヨゴレインさんは結婚していて、

子どももいますが、

その2歳になる娘がおもちゃを散らかすので、 

掃除をする気が萎えるのです。


ある日、久しぶりにヨゴレインさんはホコリーヌさんと、

ファミリーレストランでお茶をしました。

2歳の娘を、座席で遊ばせていたヨゴレインさんは、

ホコリーヌさんが前より綺麗になっていることに気付きました。

なんだろう?

コーヒーを飲みながらこっそりと観察しますが、

分かりません。


ヨゴレインさんは、とうとう単刀直入に聞きました。

「ねえ?ホコリーヌ。あなた、何だかずっと綺麗になったけど、なにかやってるの?」

「ヨガとか、ジムとか、あ、美容法を替えた?高い化粧品とか?」

ホコリーヌさんは、ほんのり笑うと、

友人のヨゴレインさんに、 包み隠さず話しました。


「運動もお化粧もしてないわ。たった一つ前と違うのは、掃除を毎日するようになったことなの」

ヨゴレインさんはびっくりしました。

「え?掃除をするだけで綺麗になるの?」

「ほんとうよお。ヨゴレインさんもやってご覧なさいよ」

ホコリーヌさんの美貌が証明している気がして、

やはりハーフで美人ですが、

何となくくすんだ感じのヨゴレインさんは心に決めました。

「私も掃除をして綺麗になろう」


と言っても、壊れかけた掃除機があるだけの、

ヨゴレインさんの家には、

掃除道具がありません。

困りきってヨゴレインさんは、

ホコリーヌさんの携帯電話に電話をしました。

「箒とちりとり、〇〇ワイパー、コロコロカーペット、この3つがあればOKよ」


ホコリーヌさんの力強い言葉で励まされたヨゴレインさんは、

キッチンに座って、

その3点をホマゾンで注文しました。


翌日の昼。ホマゾンの置き配で届いた掃除道具を取り出し、

ヨゴレインさんは、長い金髪をゴムで束ねました。

そして、エプロンをして、 

さっそく箒とちりとりで、

畳の部屋を掃きはじめました。


掃除は思ったよりはかどり、

つぎはフローリングの部屋に、

〇〇ワイパーをかけていきました。

埃や髪の毛だけでなく、わけの分からないゴミまであります。

最後に、狭い箇所の髪の毛などに、

コロコロカーペットをかけて、

終了です。


ヨゴレインさんの毎日で、

劇的に変わったことがありました。 

いつもは埃にまみれた桟や、

落ちた髪の毛が溜まったところなど、

きれいにしなきゃ、とは思っても、

(ま、いいや。今度やろう)

と、先送りにしていました。

でも、ホコリーヌさんに教えてもらった3点セットで、

ゴミに気付くや否やヨゴレインさんは、

即これらの道具を使って、 ゴミを片付けるようになったのです。

いわば、「ササッと派」。


毎日ササッとゴミを片付ければ、

日ごとの掃除も、そんなに気張らなくて済みます。

 

そうして1ヶ月後、ヨゴレインさんはホコリーヌさんを、

家に招きました。

ヨゴレインさんの前の家の様子を知っているホコリーヌさんは、

それはもうビックリしました。


「ヨゴレイン、あなた綺麗になったわね。

お部屋もピカピカ。アロマの香りもして素敵」

「ホコリーヌのおかげよ。すごいわ、あのお掃除3点セット。掃除機を引っ張って歩かなくてもいいし。ありがとう、ホコリーヌ」


気のおけない友人同士、話は尽きません。

最後に、独身ですが恋人のできなかったホコリーヌさんが、

婚約者が現れたことを打ち明けると、

その晩は、ヨゴレインさんの旦那さんや娘も交え、

大宴会になりました。


掃除っていいですね。