Vol.136 『ホコリーヌの闘い』
黒田ホコリーヌさんは、
某国と日本人とのハーフです。
目も青く、澄んでいます。
髪だけは、日本人のお母さんの血を引いて、
漆黒の艷やかなながい黒髪でした。
ホコリーヌさんは結婚していません。
見た目はうっとりするほど美しいのですが、
掃除が大キライなのでした。
恋人はよりどりみどりというほど寄ってくるのですが、
ホコリーヌさんがあまりにも掃除をせず、
埃のふわふわした部屋でも平気でいるので、
男性はみんな離れていってしまうのでした。
そんななかでも、ホコリーヌさんが愛した男性もいました。
しかしながら、
「君は本当に掃除嫌いなんだね。結婚しても、子供ができてもきっとそうだろう。そんな君と生涯を共にする気は、僕にはないよ」
そう言って、ホコリーヌさんを冷たく一瞥して出ていきました。
ホコリーヌさんは初めて泣きました。
他の恋人が離れて行ったときは、
なんとも思わなかったのに。
ひとしきり泣くと、ホコリーヌさんは、ある決断をしました。
「掃除をしよう!」
そう思ったのです。
しかし、掃除の道具がありません。
掃除機はとうの昔に壊れてしまっています。
ホコリーヌさんは決心して、
荒物屋さんに出かけていきました。
箒とチリトリのセット、
〇〇ワイパーという、床掃除の道具、
コロコロカーペットという、
粘着性の埃取り機。
その3点を購入すると、急いで家に帰りました。
ホコリーヌさんの部屋は賃貸マンションです。
何年も開けていなかった窓を、ギシギシと開けると、
部屋中の埃がうわ~っと舞い上がり、
ホコリーヌさんは呆然としました。
でも、やらねばなりません。
ホコリーヌさんは諦めませんでした。
まず、45Lの大袋を用意し、
手で掴める埃のたばを手づかみで、
つぎつぎ大袋に入れていきました。
大袋は、3つにもなりました。
ようやく掃除を始めようという段階に来て、
ホコリーヌさんは箒とちりとりを手にしました。
なんど掃いても、ちりとりはあっという間に一杯になり、
腰痛まで生じました。
でも、ホコリーヌさんは負けません。
食べかすの落ちたダイニングの床に、
丁寧に〇〇ワイパーをかけていきます。
そして、寝室のベッドサイドの髪の毛や細かいゴミを、
コロコロカーペットで辛抱強く絡め取っていきました。
夢中で格闘すること4時間、
気付いたときには日が暮れていました。
ホコリーヌさんは、「ふうっ」
と息を吐きながら立って、
改めて部屋を見直しました。
埃がないのです!
換気をしたから部屋の空気も新鮮です。
ホコリーヌさんは、きれいなキッチンで、
簡単な夕食を作ると、
久しぶりにワインを開けて、
明日の計画を練り始めました。
バスルームやトイレなどの水回りがまだなのです。
水回りの掃除は、洗剤なしには無理です。
明日はドラッグストアに行って、
洗剤を買い込んで来よう!
ホコリーヌさんはうっとりとワインの酔いに身を任せ、
家じゅうがピカピカになるところを想像しました。
(出来る、私は出来る)
ホコリーヌさんはうとうとしながらも、
自分に言い聞かせていました。
こんな大仕事をやってのけるホコリーヌさんなら、
近いうちきっと素敵な恋人ができるに違いありませんね。