本能寺の変 その時光秀は… 14 | 始めのはじめは一(ハジメ)なり

始めのはじめは一(ハジメ)なり

先祖・家系調査の具体的な方法をご紹介します。
大好きな新選組隊士・斎藤一を調べていたら
自分の先祖に関係があった!
そして知った先祖とは、なんと明智光秀だった!
そこから広がる史実と閨閥の世界。

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※「光秀冤罪説を考える」シリーズの記事をはじめて
お読みくださる方は、まずこちら の「はじめに。」から
お読みください。




前回の記事に、本能寺の変の記録が日本人の記したものと
外国人の記したものとでは差異があると書きました。
今回からは、その件について考えてみます。
本能寺の変研究に使われる代表的な資料をいくつか

見ていきながら考察を進めるつもりですので、また長い

シリーズとなりそうですが、よろしくお付き合いください。

まずは太田牛一『信長公記』から。




天正10年(1582)月29日、信長は安土城から御小姓

二、三十人を召し連れて上洛しました。




直(すぐ)に中国へ御発向なさるべきの間、御陣用意仕候て、
御一左右(いっさう)次第、罷立つべきの旨御触れにて、

今度は御伴これなし。




この「御一左右」(ごいっそう)の箇所の解釈について、

研究者の間で解釈が分かれています。
昭和42年(1967)、八切止夫(やぎりとめお)という作家がその
著書『信長殺し、光秀ではない』 の中で、「御一左右」を
「御一掃」すると解釈した説を発表しました。

当時の漢字の用法は、発音が同じ漢字を当てはめて

用いており、一つの熟語に定型はなく、様々な漢字が

用いられました。
そこで八切氏は牛一が「一左右」と書いたものに「一掃」と
当てはめて、信長は京都で誰かを「御一掃」=「排除」する
つもりだったのだという説を提出しました。
その誰かとは、長年自分を尻に敷いてきた正室・

帰蝶(お濃の方)だという奇説です。


八切氏は小説という形で史実を書いていると公言していた

作家で、次々と作品を発表し、一時はベストセラー作家

だったそうです。
わたしもその作品を読んでみましたが、まず文体がアクが

強く独特で、本筋にまったく関係のない場面が頻出し、

非常に読みにくく、二度と読み返す気になりませんでした。
内容も文体と同じく奇妙キテレツで、博識らしいことは

伺えますがまともに取り合う気にはなりませんでした。
一時は大変もてはやされた作家だそうですが、今では

ほとんど忘れ去られています。
わたしも最近まで八切氏のことはまったく知りませんでした。




2005年、茶道研究家の井上慶雪氏が著書

『明智光秀冤罪論』 の中で、やはり「御一左右」を「御一掃」と

する解釈を発表しました。
井上説では真犯人は秀吉で、黒田官兵衛と千利休が

それを扶けたことになっています。

八切氏と井上氏の提唱した「御一掃」に異を唱えたのが、
鈴木眞哉・藤本正行著『信長は謀略で殺されたのか』

(2006年)です。
鈴木氏・藤本氏は、辞書を引けばすぐにわかるが「御一左右」
というのは「御一報」という意味である、八切説と井上説は
意味を誤読している、としています。
信長は誰かを「一掃」しようとしていたのではなく、誰かからの
一報を待っており「一報があり次第出発せよとの陣触れで…」

と読むのが正しい解釈である、いうのが鈴木・藤本説です。



これに井上氏が近著『秀吉の陰謀』 (2015年)で

反論しています。
信長は西国へ出陣するためにすでに京都に来ているのに、

いったい誰からの「一報」を待っていたのか。
むしろ「余の命令次第出陣する」なら意味がわかるが、

誰かからの「一報があり次第」では意味が通らなくなると、

反論しています。
井上氏は、その場にいなかった牛一が記したものだから、
この「御一左右」もいいかげんなものであろう、とも

書いています。



信長が上洛したことは牛一以外にも複数の公家などが

記録していることから確かなことであり、6月1日には本能寺へ

公家、茶人、商人などが大挙して訪れています。
牛一のこの日の記録は正確なものであったと判断してよいと
考えます。

「左右」(そう)には一報以外に指図・命令という意味が

あるので、「すぐに中国へ出立するので陣の用意をし、

上様(信長)からのご命令があり次第出立するようにとの

陣触れがあった」という解釈はどうでしょう。
八切説の「御一掃」はあまりに荒唐無稽で論外として、
この「御一左右」という記述にはあまりこだわらなくてもいい
ように思えます。
単に、信長が中国へ出陣しようとしていたという記録として
取れば、それでよいのではないでしょうか。



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