【失神】
もうずいぶん前ですが、道場の組手稽古で先輩がボディを打たれて失神した事がありました。
相手の下突きがタイミング良くミゾオチに入ってしまったのです。
軽い突きだったにも関わらず、泡を吹いて倒れこんでしまった先輩を見て右往左往した私達でしたが、先輩はすぐに気を取り戻し、何事も無かったかのように立ち上がりました。
すぐさま先輩に状況を説明したところ、「突かれた瞬間は覚えているが、そのあとの事は全く覚えていない」との事でした。
この一件は「頭部」や「頚部」だけでなく、「ボディ」への衝撃でも人は失神する事があるんだと言う事を学ばせてくれました。

「失神(しっしん)」とは一時的に意識を失い、数秒から数十秒で改善することを広くそう呼んでいます。
失神に至る原因は様々ありますが、「てんかん」や「精神的なもの」を除けば、そのほとんどは「脳への血流」が一時的に減ったことで起こるものだと言われています。
わずか6~7秒血流が途絶えるだけで人は気を失ってしまうのです。

失神には「迷走神経」と呼ばれる非常に入り組んだ神経が関係しており、「強い痛み」や「過度のストレス」「長時間の立ち、座り姿勢」、そして「排便」などによっても神経は過敏に反応するようです。
「迷走神経」は自律神経(副交感神経)のひとつで、これが刺激されると身体はたちまち休息状態におち入り、脈が遅くなったり、血圧が下がって血流の流れが悪くなったりする訳です。
電車の中などや密閉空間で過度のストレスによって気分が悪くなるのも、長い朝礼で突然倒れるのも、恐怖のあまり気を失ってしまうのこの「迷走神経」が絡んでいるのです。
迷走神経は脳神経のひとつですが、首や胸、お腹の内臓にも広く分布していて、先輩がボディを叩かれて気絶してしまったのも、この「迷走神経反射」によるものだったのでしょう。

打撃系の格闘技、武道では頭部を強打されて失神するケースがほとんどです。
脳が大きく揺れる事で迷走神経が過剰に反応して血圧が下がり、血流が急激に減少してしまうのです。

打撃の「ダメージ」は、その強さもさる事ながら、「角度」が大いに関係しています。
人は「見えない所」からの攻撃には滅法弱く、例えばしっかりと身構えた上で相手の攻撃が見えている場合と、身構える間もなく、思いもよらぬ方向から飛んで来る攻撃とでは負うダメージが数倍違うのです。
特にKOは、ほとんどが見えていない場合に起こります。

対戦時、お互い向き合うなかで「角度をつける攻撃」を仕掛けるのは簡単ではありません。
例えばボクサーなどは「角度」を付けるために前足を大きく相手の外に踏み出して右のパンチを打ち込んでいるのがわかります。
角度がついたパンチは当然威力が増し、相手にも見えづらい為にKOのチャンスは広がります。
空手の場合は、相手の腕を掴んで引き寄せながら死角に入り、「見えない所からの蹴り」を作り出す事が出来ます。
あるいは、打ったパンチをすぐに引かず残したまま、蹴りの軌道を見づらくすると言うスタンダードなやり方もあります。
いずれにしても相手の視覚を奪う技術があるかないかで勝負はかわってくるのです。

「迷走神経」による失神は
頸動脈を圧迫する事でも起こります。
のど仏の左右(首筋の奥歯の下あたり)にある「頸動脈洞(けいどうみゃくどう)」と呼ばれる場所を5~10秒ほど圧迫するだけで失神してしまうのです。
いわゆる「落ちる」と言うやつですね。
正確にはこれを「頸動脈洞反射(けいどうみゃくどうはんしゃ)」と呼ぶそうです。
頸動脈洞には血圧をコントロールする受容体が多く分布しており、そこを圧迫する事で迷走神経が過剰に反応し、血圧が急激に下がって血流が滞り、脳が酸素不足に陥って失神を起こします。
ちなみに、両手で首を絞め気道を塞ぐ「窒息(ちっそく)」とは、まったくの別物です。

寝技系格闘技などでは首を極められても、タップ(参ったの合図)することで「失神」を回避する安全な仕組みがありますが、それらが間に合わず万が一落ちてしまった場合は仰向けに寝かせる事で、すぐに意識は回復します。
その際足を高くして血液が頭部に流れるように補助すると、なおいいようですね。
昔は背中などに「喝(かつ)」を入れていましたが、身体を傷つける恐れがあるので、今はそれをしないのが一般的です。
もし、意識を失った人が脱力しておらず、身体がこわばっていたり、痙攣している時はただの失神ではない場合もあるので、救急車を呼んで慎重に様子を見る事が大切です(痙攣の時間や回復の時間や様子を細かく隊員に伝えます)。
ひと昔前は痙攣してる人が舌を噛まないようにと、口の中にタオルなどを入れていましたが、逆におう吐を誘い、吐いた物が喉につまって危険な為、今ではNGだそうですよ。

打撃による「失神」は倒れた際に身体を負傷している事も考えられるので、動かさないのが基本です(しかし呼吸の確保は必要)。
ほとんどは数秒で自力蘇生しますが、気を失ってる時間が長かったり、動きに異常がある場合は要注意です。

もしKOされた場合には、完全に回復したとしても、振動を伴う激しい運動はしばらくの間は控え、組手やスパーリングも1ヶ月程は行わないのが無難です。
そして特に大事なのは「失神」している人の「呼吸」です。
もし呼吸を感じないならば、迷わず胸骨圧迫から始まる「心肺蘇生」を行いましょう。
素早い判断が命を救うのです。
  
       【花咲く空手教室】
  《2022年稽古納め》
 皆様に協力して頂き、今年も無事に一年を終える事が出来ました。





 最後は恒例の板割り!

この一年でまた力強くなりました!

  明るく!
    楽しく!
       強く!
 すみだ生涯学習センター
  ユートリヤ内
   【花咲く空手教室】
 ありがとうございました。
 来年もどうぞよろしく
   お願いいたします!
       織田