「蹴り」
中国伝来の「蹴鞠(けまり」は、貴族の優美なお遊びとして平安時代に大流行しました。
中国では軍事訓練のひとつとして、蹴鞠が行われていた時代もあったようです。
江戸の町では、仕事そっちのけで蹴鞠に夢中になる人のことを「馬鹿」と呼んだそうですが、それは鞠(まり)の革が馬と鹿の皮で出来ている事から、そう呼ばれたそうです。

蹴鞠がその起源だと言われているサッカーも、今や世界中で愛される最も人気のあるスポーツです。
今も昔も、手より使いづらい「足技」に人々は魅了されてきたのですね。
足技で人々を魅了すると言えば、格闘技の世界もそうです。

空手が源流の「テコンドー」には、何と1000種類の蹴り技があると言われています。
「うしろまわし蹴り」などの華やかな蹴りはフルコンタクト空手にも影響を与えました。

立ち技最強と呼ばれている「ムエタイ」は、強烈な「まわし蹴り」や首相撲からの「膝蹴り」や「肘打ち」が武器です。
「中段まわし蹴り」は、腰の回転を使って全体重を乗せて蹴ります。
接近線ではあまり使わないので、膝を抱え込む必要もありません。
試合ではガードの上からでも「ポイント」がつく為、バンバン蹴り合います。
選手の試合数は凄まじく、20代半ばでも200戦、300戦が当たり前のようです。(故にお互い壊しに行かないと言う暗黙のルールもあるそうです)

別名「フランス式ボクシング」と言われている「サバット」も、その歴史は古く、靴を用いた蹴りが最大の特徴です。
サバットは路上のストリートファイトが「護身術」へと発展したもので、その伝統的な戦い方は、遠い間合いでは「ステッキ(武器)」を使い、ミドルの間合いでは「足技、手技」を用い、接近戦では「投げ技」を使ったそうです。
現代のサバットでは、ステッキが「前蹴り」、投げ技が「パンチ」へと変化しました。
固い靴を使用しており、遠くからでも、あるいは腰を入れなくても威力のある蹴りが出せるのが長所です。
試合では靴以外の部分で蹴ると反則になります。

多彩な蹴り技と言えば、ブラジルの「カポエイラ(カポエラ)」も忘れてはなりません。
僕が初めてその名を知ったのは、若い頃に読んだ「世界ケンカ旅行」という本の中でした。
アクロバティックな蹴り技に度肝を抜かれたのを覚えています。

カポエイラはブラジルが植民地だった頃に、奴隷達の間で広まった「闘争術」が始まりです。
支配者階級にバレないように「音」と「踊り」を使ってカモフラージュしたと言われています。
アクロバティック蹴り技が多いのは、そういった事が背景にあるからです。
カポエイラは、後に「ブレイクダンス」に影響を与えたと言われています。

「狩猟」がその原点だと言われている「中国武術」は3000年の歴史があるそうです。
生死をかけた「狩り」の中で、闘争術としての原型が出来上がってていったのでしょう。

中国武術の蹴りの概念は、遠い間合いでは「相手の出鼻を止める」、ミドルの間合いでは「基本的に蹴り合わない」、接近戦では「掴んだり体当たりしながら蹴る」です。
蹴り合わないのは、身体が不安定な状態になるのを嫌うためですね。
体当たりされたら吹っ飛んでしまいますからね。

中国武術にも「旋風脚(せんぷうきゃく)」のような大きな蹴り技はあったのでしょうが、それは武器を持った相手に対してのフェイント技として使われていたようです。

中国武術もカポエイラもサバットもムエタイの前身、古式ムエタイも、実戦から生まれた伝統ある格闘技はすべて、蹴りは「前蹴り」を使っていたようです。
戦場では、足を取られる可能性のある「まわし蹴り」は即命取りになったのです。
金的有りのルールでスパーリングをやってみるとわかりますが、コンビネーションは影を潜め、直線的な攻撃が多くなります。

空手もその昔は、蹴りは「へそ」までと言われており、高い蹴り技はご法度で、急所や膝を狙っての「前蹴り」しかありませんでした。
しかも今のように中足で蹴るのではなく、カカトを返して足裏全体で蹴っていたようです。
沖縄空手には、つま先で蹴る
「前蹴り」もありますが、空手が影響を受けた中国武術(拳法)が靴を履いているで、それらの蹴りの形は、本来靴を履いてのものなのでしょう。
「中段まわし蹴り」は今では脛で蹴ることが多いですが、昔は中足が基本でした。
これも靴を履いた蹴り方だと考えれば、しっくりきます。
足の指が怪我をしてしまえば戦いもなにも、ないですからね。

「まわし蹴り」が普及しだしたのは、格闘技がスポーツ化され始めた頃からだと考えられます。
特に極真空手はムエタイやテコンドーの影響を受け、脛や背足、カカトなどで蹴る「まわし蹴り」が発達しました。

顔面への突きが禁止されている私達の空手は、接近戦での攻防がメインです。
今までに、色んな角度や場所を狙っての「下段まわし蹴り」も考案されてきました。
「まず近くから」「まず下から」の戦い方がセオリーとなっていったのです。

伝統派空手の試合では、この「下段まわし蹴り」は禁止され、かわりに「足払い」が許されています。
「足払い」は足裏やふくらはぎの下や脛を使って相手の足を払いますが、脛での「足払い」と「下段まわし蹴り」との区別がむずかしそうですね。
ちなみに足裏で払う「足払い」が上段にくれば「外まわし蹴り」になります。
もっと下にくれば、石コロを払うのに便利です。

ところで、古流の空手には二段階攻撃なるものが存在しました。
例えば前述の足裏全体で蹴る「前蹴り」はカカトで金的を蹴り、足首をのばしながら中足で更に金的を押すのです。
正拳突きにも同じようなものがあり、いきなり拳頭で突くのではなく、少し手首を上に返して人差し指と中指の第2関節を当て、すぐに手首を下に返し拳頭で更に突くのです。
また、技は違うのですが、同じ腕の「肘打ち」から「裏拳」は抜群に相性がよく、連続技として型によく登場します。
相性がいいと言えば、同じ手の「下段払い」から「フック」もバッチリです。
「内股蹴り」からの「内まわし」なんかも繋げやすいですね。