【正拳中段突き】
「突きだ!突き一発で相手を倒せ!」と、ある流派の大家は言い、「ぶん殴るんだよ、こう、ぶん殴るんだよ!」と極真空手の創始者は大きな拳を突き上げました。

「正拳中段突き」
その突きをひと目見ただけで、実力がわかると言われるくらい、この一見シンプルな突きの中には空手のエッセンスが詰め込まれています。

運動やスポーツには3つの要素が必要だと言われています。
「反動」「ひねり」「バネ」です。
「反動」は押し返す力(反作用)の事で、例えばジャンプする時は、足で地面を強く押すその反動でジャンプします。
地面を押す前に必ず膝を曲げますが、そうする事によって太ももとふくらはぎの筋肉が伸縮し、より高くジャンプ出来る訳です。
これを筋肉の「伸長反射」と言い、早く伸ばすと早く縮み、ゆっくり伸ばすと伸びきってしまって縮まなくなるという性質があります(ストレッチはゆっくり伸ばします)。
「ひねり」は、いわゆる「タメ」と言われるもので、身体の各部分のひねりを使って、体幹にパワーをためます。
「バネ」は、その「タメ」を一気に解放して、末端の手足に伝えるものです。
スピードとパワーの決め手は手足の「脱力」です。
「正拳中段突き」には、この3つの要素がすべて入っています。
膝や腰の回転で身体を「ひねり」、引き手で「反動」を使いながら、体幹で生まれた力やスピードを末端の「拳」にのせるのです。

「引き手」の役割は反動(上腕三頭筋の伸縮)以外に身体のバランスを保つ役割があります。
人間の身体は拳を前に出せば後傾し、肘を後ろに引けば前傾します。
突きと引きを同時に行う事で、絶妙なバランスをとっているのです。

更にもうひとつの役目は、「技」としての「引き手」です。
引き手が、そのまま相手を引き込む手になります。
目の前の相手を掴んで引き込みながら、同時に突くのです。
この「引き込む手」は昔私が通ってた道場(極真芦原道場)にもありました。
基本稽古の「騎馬立ち下突き」の中で、突いた拳をそのまま「掛け手」に変え、薬指と小指で相手の着衣を引っ掛けて引き寄せながら突くのです。 このひと手間があるかないかで技も随分と違ってきます。
今は突いた拳は掛け手にせず、そのままひっくり返して、牽制や目標としているところが多いようですね。(少しずつ形が変わっていく、わかりやすい事例です)

そもそも「突き」はいつ頃から広まったのでしょう。
突きの原型は「押し」なのでしょうか?

元々「武術」は武器を手にした戦いを想定しており、空手の「受け」や「突き」が武器を手に身体操作そのままで出来る理由は、その為なのです。

「引き手」は腰のあたりに引く流派(首里手系)と脇に引く流派(那覇手系)があります。
腰は武器の「棒」を構えた位置です。
脇は「サイ」や「トンファー」を引き取る位置です。

このように古武術と空手は密接に繋がっており、切っても切れない関係なのです。

腰と脇に引くふたつの「引き手」は動かす筋肉も微妙に違ってきますが、最も異なる点は脇の開閉です。
腰にとる引き手は、あまり脇は開きませんが、脇にとる引き手は意識しないと脇が開いてしまいます。
脇が開くと肩が上がってしまい、突きに勢いがつきません。
何故突きに勢いがなくなるのかと言うと、脇が開くとヒットマッスルの「前踞筋(ぜんきょきん)」などが使えなくなるからです。
その確かめ方は、脇を開けて脇腹のあたりに力を入れてみて下さい。 
次に脇を閉めて脇腹のあたりに力を入れてみて下さい。 
締まり方の違いがわかると思います。
正拳突きの際には、よく「肩を入れるな」「肩を振るな」
と指導されると思いますが、それは肩を先に振ってしまうと、身体が流れてしまい、ヒットマッスル(前踞筋、広背筋、大円筋、小円筋など)が使われなくなるからです。
同じ事が「腰」にも言えます。
腰を大きく回転させてしまうと、あるいは突きと同時に腰を切っててしまうと、やはりそれらの筋肉は半減してしまうのです。時間差がパワーを生むのです。
前屈立ちの後ろ足のカカトを上げても、まったく同じ事が言えます。
締めるべき筋肉が締まらないと、効果的な突きやパンチは打てないのです。

特に子供達は強く打とうとするあまり拳を回転し過ぎてしまい、結果肩が上がってしまうケースが目立ちます。
衝撃力は「質量(拳の重さ)」×「スピード」なので、最後の拳の回転も、このスピードに加えられますが、気を付けなければいけないのは、ボクシングのコークスクリューパンチと空手の正拳突きは別物だと言うことです。
腕全体が同じ方向(内側)に回転してしまうと肩があがります。
肩を上げないようにするには、雑巾を絞るように前腕と上腕を別回転させなければいけません。
つまり前腕を内に回し、上腕を外に回すのです。
そうすれば肩は上がらす、各筋肉もフル動員される訳です。

パワーの根源は「力」だけではなく「スピード」も重要です。
しかし、この力とスピードの関係は、反比例する関係でもあります。
速く動こうとすると力が発揮できず、力を発揮しようとすると速さが殺されてしまいます。
「速かろう弱かろう」「強かろう遅かろう」で、まさに「あちらを立てればこちらが立たぬ」です。
それは、筋肉が速い速度で縮んでいる時ほど小さな力しか出せず、遅い速度で縮んでいる時ほど大きな力を発揮できるという特性があるからです。
スピード重視のボクサーが、ウエイトトレーニングにあまり積極的でないのも頷けますね。

「正拳中段突き」は射程距離が長いですね。
それは、その長い距離の中で、ぶれずに真っ直ぐ拳を出す事を覚えるためでもあり、
また、上半身下半身の筋肉の使い方を覚える為でもあります。
そして、それらをマスターしたなら、次の段階では短い距離からのパンチの打ち方を覚えていかなければいけません。 
今度は「間合い」によって変わる身体の使い方を学ぶのです。
それは肩や腰で調整したり、スタンスで調整したり、身体をスイッチさせたりといった様々な動作です。
「正拳中段突き」でしっかりと下半身の力を拳にのせる事を覚えたなら、組手立ちの次の段階では肩を入れて打つことも覚えなければなりません。
それがパンチにおける最終的な作業だからです。
必要な筋肉を使いながら、同時に肩を入れたパンチこそが伸びのある最も効果的なパンチなのです。

「正拳中段突き」の要点を挙げてみますと、まず「脇が開かないよう、引き手は肘を真っ直ぐうしろに引く」「突きと引き手は同じスピードで」「腰は拳ひとつ分、突きよりやや先行して切る」「突く時同じ側の膝も少し内に入れる」「肩の力を抜いて最後のインパクトの一瞬に拳共々力を込める」「下半身の力を上半身に伝える感覚を磨く」等々といったところでしょうか。

正拳突きには「上段」「中段」「下段」があります。
「下段突き」は相手が倒れたあとに決め打ちとして用いる突きです。 
立ってる相手に対して使う場合はヒットしにくい膀胱より、脚のももに対して使うと効果的でしょう。
移動稽古の「回って下段払い下段突き」は相手の左足を払い、ももに下段突きの要領です。
「中段突き」は一番力が発揮できる高さの突きです。
力強い「三戦の型」はすべて正拳中段突きで構成されています。
「上段突き」は、その昔は拳で攻撃するのではなく、貫手で目を攻撃したり、鶏口拳(指関節を立てる)で顔の急所を狙ったり、一撃で倒す方法を選んでいたようです。

ちなみに「正拳突き」と「裏拳打ち」はインパクト時の拳の力の入れ方が少し違ってきます。
手の中にウズラの卵を握ってるとして、インパクトの瞬間にその卵をグシャッ!と潰すのが「正拳突き」で、潰さない程度に握り込むのが、「裏拳打ち」です。
力を入れすぎると手首の「スナップ」が効かなくなってしまうからです。
「力とスピードの関係」ですね。