なぜ台湾では人が穏やかに死ねるのか? 看護師僧侶が見た衝撃の光景
看取りの現場
いよいよ、人がものを食べられない状態になったら、家族は、私たちは、どうすればよいのでしょうか。
食べものを受け付けなくなったり、噛めなくなったり、嚥下(えんげ)できなくなったり、いったん飲み込んでも戻してしまうようになったとしたら――。
その体には、もう食べ物は必要ないということ。その人も、食べることに興味がないということです。そうなったらQOLよりQOD(Quality of Death/死の質)を考えるべきときです。
本人の意識がなくなった状態で、家族が治療のフルコースをしていいのか。たとえば点滴を続けてもよいのか。難しい問題ですが、逃げずに考えてほしいと思います。
そんな時期になると、本人は「幻視」を見ることも増えてきます。幻視とは、その名の通り、実際には存在しないものを見ることを言います。
人によっては「光の柱」だったり、「大量のアリ」や「人の姿」だったり。
そんなとき、医者はたいてい「精神安定剤を処方して、心を落ち着かせる」という方法をとります。「□□□が見えた!」などと真夜中に大騒ぎして、家族が眠れなくて困るということもあるからです。
2016年に、台湾の在宅医療の現場を視察させてもらったことがあります。
そのときは、現地の台湾人のHさんという方の看取りに立ち会わせてもらいました。ご家族によると、Hさんは「光の柱が立つ」と何度も訴えられるのだそうです。
すると……。
ここが日本と異なるところなのですが、Hさんのご自宅に、医者ではなく、お坊さんがいらっしゃいました。そしてこう答えられたのです。
「万事、順番通りに、うまくいっています」
すると、Hさんは「そうですか。万事うまくいっているんなら安心しました」と、薬を使うことなく、落ち着かれたのです。私は「すごいなあ」と驚きました。
もしこれが日本の場合、医者は「幻視です」と、症状名を告げるでしょう。
そして、患者さんや家族からそれ以上の説明を求められたら「脳が酸欠の状態のため、幻視が見えるのです。ただし、肺機能が落ちてガス交換がうまくできなくなっているので、酸素を補っても治らない」などと答えなくてはなりません。
患者さんやその家族は、頭では納得できるかもしれませんが、モヤモヤとした気持ちは残るはずです。
その点、宗教家であれば、説明は一切いりません。
「万事、うまくいっています」
これは非科学的なようにも聞こえますが、死に向かって「万事うまくいっている」のは、たしかに事実なのです。
このような方法で終末期のQODを高めることができるとは……。
その光景に衝撃を受けて、しばらく呆然としていたものです。
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