マンガ「娘の友達」を読むに際して、
僕は「鼻」という部位に目を止めざるを得ませんでした。
この作品は「鼻」で複雑な心情や状況までも表現していることがあるのです。
このシリーズ前回のブログ
でも言及しましたが、
「娘の友達」は線描のわずかな違いによって、
複雑な思いや状況を表すことに秀でています。
特に「鼻」が大きな役割を果たしているのでした。
上の場面では、少し照れ気味の古都の様子が顔の線描で、特に線を略された「鼻」によって、見事に表現されています。
最後は一瞬の戸惑いが鼻の消失で示されていることに気づくことができるでしょう。
上の図の晃介の鼻は鼻梁と鼻穴がすっと直線で描かれていますが、少しカリカリとんがったその気持ちが、目や眉と相まって、読み手に効果的に伝えられるのです。
僕が最も心揺れた鼻の描写は、下の図版のものでした。
現実世界のヒトの鼻梁ではないようにも映ります。
写実性から外れた鼻です。
ファンタジーマンガを読み慣れた人なら、もしや異世界の民では?と思う人もいるかもしれませんね。(耳や鼻だけヒューマンと異なるキャラクターが結構出てきますよ)
あるいはこれに類するものを古典美術に探すとしたら、国宝源氏物語絵巻に出てくる女性たちの鼻の描写でしょうか。
一見違和感のある鼻梁ですが、しかし、「娘の友達」を読みなれた目には、この古都の鼻は自然に受け止められてしまう。
この丸みを帯びた、逆U字型の鼻の描写によって、古都の戸惑いと受動的な心情が見る者にそれとなく伝わってくるのです。
この表現に僕はやられました。
そして、作者萩原あさ美さんのマンガ家としての矜恃を強く感じました。
作者の技量をもってすれば、リアルに描きこむことは容易なはずです。
しかし、敢えてそれとは違う道を歩む。
ある時には足し算のように丹念に描きこみ、またある時には引き算のように必要最小限の線描で応じる。
大事な場面に引き算が立ち現れ、強く印象づける。
そこに見えるのは、線描への真摯な姿勢。
「鼻」の線描一つで変容する意味。マンガというジャンルの醍醐味をこの「娘の友達」で僕は改めて味わうのです。
あなたがこの作品を読む際にはぜひ「鼻」の描写に注目してみてくださいね^ - ^