私が小学生の時、国語の教科書に宮沢賢治の『やまなし』という童話が載っていました。
谷川の底に棲む蟹の兄弟が見る世界を書いていて、太陽の光が川の水面を通って水底を照らす様子やら魚やらカワセミやらなんやらが描かれています。
原稿用紙10枚ほどの短い話です。
読んだことない人は青空文庫で読めますのでご覧になってみてはいかがでしょう。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/46605_31178.html
で、その蟹の兄弟の会話の中に、クラムボンなる謎の生物が出てきます。
謎の生物というか、作中でその正体について全く言及されないため、そもそも生物なのかどうかすら不明。
クラムボンについて蟹の兄弟が交わした会話をまとめると以下の通りです。
1、クラムボンは笑う。
2、笑い声は「かぷかぷ」である。
3、クラムンは跳ねる。
4、クラムボンは死ぬ。というか、死んだ(と思われる)。
5、クラムボンの死は自然死(老衰)ではない可能性がある
これがクラムボンについての全てです。
読者はこの情報から、クラムボンの正体を推測するしかありません。
一応いくつか今までに支持されてきた説はあるそうなので、興味のある方はhttp://www.yamanasi.net/kuramubon.html を参照してください。
さて、ようやく本題。
私なりのクラムボンについて”想像”していきます。
結論から言うと、クラムボンの正体はずばり”貝”だと思ってます。
貝。
あれです、味噌汁とかに入ってる貝です。
みなさんクラムチャウダーって食べたことありますでしょうか。
そのクラムチャウダーの中には何が入っていたか覚えてますか?
もし『エビが入っていた!』という方がおられたら、あなたの食べたそれはクラムチャウダーでなくエビチャウダーです。
給食の献立表の校正ミスとか、本当はクラムチャウダーを作る予定だったけど仕入れを忘れてしかたなく冷凍庫の奥で眠っていた剥きエビを使ったとか、そういうなんらかの間違いがない限りあなたの食べたクラムチャウダーの中には貝が入っていたはずです。
クラムとはつまり、貝のこなんですね。英語でClamと書きまして、二枚貝(アサリとか)のことを指します。
そう、まさしくクラムボンのクラムです。
そして二枚貝は淡水で棲息してるやつもいます。
次にクラムボンのボンですが、このボンは”坊”、つまり幼い子供を指しているのではないでしょうか。
関西だとたまに「坊ちゃん」ではなく「ボンちゃん」って言ったりしますし。
また、クラムボンが「かぷかぷ」と笑うのは、二枚貝が殻を開けたり閉じたりする際の擬音だとすると、すっきりします。
あと、二枚貝って実はたまに自分で移動しまして、その際は”殻を開閉させて跳ねる”ように泳ぎます。
ですので、「クラムボンは跳ねて笑ったよ」というのは、貝の移動する様子を表現しているのでしょう。
そして、
「クラムボンは死んだよ」
「クラムボンは殺された」
――中略――
「わからない」
魚はまたツウと戻って下流のほうへ行きました。
の後に、再び「クラムボンはわらったよ」と続きます。
で、思うのですがこの兄弟にとって死というのは、動かなくなることじゃないでしょうか。
つまり、さっきまでかぷかぷと殻を開閉していた貝が動かなくなり”死ぬ”。そしてしばらく経って、また殻を開けて”笑う”。
貝って殻閉じてるとぱっと見生きてんのか死んでんのかわかんないですし。
ただ、そうだとすると「クラムボンは殺された」というのに違和感があります。
まあ、「殺された」って言ってるのは弟蟹のほうだけで、兄はむしろ「それなら何故殺された」と、弟の主張に対して疑問をぶつけています。
兄の疑問に対して弟の言った答えも「わからない」。
てきとうか!弟てきとうか!
(クラムボン=貝であると仮定して、何故弟蟹は貝の動かなくなった様子を「殺された」と表現したのか。それはそれで色々考えてみるのも楽しいと思いますけど、また別の機会にします。)
この『やまなし』という御話、他にも謎なことがいっぱいあります。
謎過ぎてちょっと意味不明なぐらいです。
物語として面白いかと問われれば、首を捻る人がほとんどじゃないでしょうか。
ですが、この手の話の面白さっていうのは、物語そのものよりもずばり想像することにあるんですね。
いや、まあこういう話に限らずどんな物語でもそうなんですけど。
書き手がどんな意図でその話を書いたにしろ、その作品を解釈するのは好きにしていいのです。
こうだったんじゃないか、ああだったんじゃないかって考える、その過程が一番楽しい。
逆に言えば、極端な話どんな物語でも楽しく解釈することだってできます。
だから夏休みの読書感想文書くの面倒臭いからって『畜犬談 読書感想文』とかで検索してこないように(夏休みの特に最後のほう、アクセス解析見てたらそれで検索してくる人が結構いましたw)
とにかく、『やまなしは』そんな解釈の自由度が非常に高い作品です。
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