12 左右差の原因と対策
乳房再建の仕上がりの良し悪しを決定づける大きな要因は、乳房の左右差と言えます。再建手術をする側としては、左右対称な胸を作ることを目指すわけすが、残念ながら、インプラントによる乳房再建では、自家組織による再建よりも左右差が出やすいと言えます。
インプラントによる再建で左右の差が出る原因を挙げてみますと、①乳房に下垂がある、②乳房が丸いというより横広の形をしている、③わきの部分に脂肪が多い、④胸が小さい、⑤その他の原因があります。しかし、すべての患者さんに共通する左右差の原因となるのが⑥上胸部のへこみです。以下、順番に解説します。
① 乳房の下垂がある場合
インプラントによって、下垂した乳房を再現することは非常に困難です。学会では、この下垂をインプラントで再現するための様々な工夫が発表されますが、実際にはなかなか難しいです。ですので、健側に下垂がある患者さんがインプラントによる再建を希望された場合の選択肢としては、次の3つが考えられます。
(ⅰ)下着をつけた状態で左右がそろう位置でインプラントを留置する方法。この場合、下着をはずせば左右の高さの位置が異なることになります。一見するとインプラントの方が高い位置にきます。
(ⅱ)下着を外した状態で左右の見た目のバランスが合うように、インプラントを低めに留置する方法。この場合、下着をつける時にワイヤーが当たる乳房下溝(乳房の胸壁への移行部)の位置は、インプラント側が健側よりも低い位置にあるので、ワイヤー入りの下着はつけられなくなります。
(ⅲ)下着を装着して左右のバランスがとれる位置にインプラントを留置したうえで、下垂した健側の乳房の挙上術を行い、下がった胸を引き上げて左右のバランスをとる方法。
② 横広の胸の患者さんの場合
インプラントのサイズが何で決まるかと言うと、横幅・縦幅・突出度(起立時のあばらから乳頭の高さまでの距離)この3つのパラメーターでサイズが決まります。インプラントにもさまざまなラインナップがありますので、横幅が広いインプラントもあることはあるわけですが、横広の胸になるほど対称性を得にくいケースがあります。
③ わきのお肉が多い患者さんの場合
乳房切除の際、わきの方へ向かう部分も一緒に切除されます。尾部と呼ばれる部分で、わきに向かって、その言葉のように尻尾のように、またはとんがり帽子のように続いています。ところが、インプラントにはわきにつながるこの尾部の部分がありません。そのため、やせ型の患者さんではあまり目立たないのですが、肉付きの良い方の場合にはわきの部分が凹んだように見えてしまい、これが左右差の原因となります。
④胸の小さい患者さんの場合
健側の胸が非常に小さい方の場合も、その大きさに合うシリコンがないために、再建側の乳房が大きくなってしまうということが起こります。この問題を解消するには、健側を豊胸することが必要となります(残念ながら、豊胸は保険は適用となりません)。
⑤その他の原因としては、インプラントでは、仰向けになった時に自分の胸の肉のように横に流れません。また、健側と異なり老化が起こりません。これらが左右差の原因となっていくこともあります。
⑥上胸部のへこみ
インプラントで再建した全ての患者さんに共通して左右差の原因となるのが、上胸部のへこみです。乳腺の切除は鎖骨から指2本分下あたりまで行われるのが定型的な乳腺切除ですが、残念ながらインプラントはその部分まで補ってくれません。インプラントの高さ(上下方向)を高いものにすれば、その凹みの部分まで補ってくれるように思われるかもしれませんが、それを基準にインプラントを選択すると、どうしても全体のバランスがおかしくなってしまうのです。全体としての完成度を高くしようとするならば、現実的な方法として、インプラントでの上胸部のへこみの改善はあきらめ、その部分の修正は、後日、脂肪注入などを行うという方法があり得ます。
このように書き連ねていくと、インプラントによる再建は悪いことだらけだと言っているようですが、決してそういうわけではありません。体への負担の少なさや社会復帰の早さなど、良い点ももちろんたくさんありますし、中には「完全に左右対称になることまで求めているのではなく、胸に膨らみができれば満足だ」という患者さんもたくさんいらっしゃると思います。重要なことは、インプラントでの再建を選択するかどうかの判断にあたって、そのメリット・デメリットや患者さん個々の整容性の限界等を、患者さんご自身が十分に理解なさっていることだと思います。