気がついたら、読書感想の連投が続いてますね。
夏アニメは全て脱落してしまったし、ゲームも詰み気味なので、
自然と、出退勤の合間にできる読書に重きがいきがちなのデス。
今回、レビューするのはこちら。
恩田先生の十八番、閉じられた園での秘密を巡るミステリー。
「夏の城」に招かれた女子の視点で町の謎に触れる前編、
男子の視点で謎の存在「みどりおとこ」を紐解く後編の二部構成になっている。
『夜のピクニック』や『蜜蜂と遠雷』のようなカラッとしたメジャー作品よりも、
冷たさと切なさで切り裂かれそうな作風で、
学生時代に恩田作品にのめり込んだ私としては、
待ってましたとばかりの新作だ。
『三月は深き紅の淵』を想起させる表題、
『麦の海に沈む果実』と同様の装丁、
そして、仄暗い世界で薄氷の上を恐る恐る進むような
冷たいナイフを背に突き付けられているかのような世界観。
日本が舞台のはずなのに、恩田先生の世界はどことなく
中世ヨーロッパを想起させる不可思議な印象をもたらし、
果てしなく広がる稲穂の海の描写には、
否応なしに『麦の海に沈む果実』を思い起させる。
夏の城に集められた少年少女の共通点は
「親の死が間際に迫っている」というものだったけど、
全員が全員、今わの際にいる肉親のが「両親」という設定は気になった。
実際、緑色感冒に感染した人々について「子をなくした人」という説明があったので、
子供の死期が迫っている、または兄弟姉妹の臨終が近いという
設定があってもよいのではないかと思ったのだが、
死期が近い身内を「親」だけに限定したのは、
「置いて逝かれる子供たち」が本作のテーマだからだろうか。
そして、謎の伝染病は時期が時期だけに、コロナを連想させる。
結末は、『三月は深き紅の淵』『麦の海に沈む果実』同様、やりきれない幕切れ。
子供たちは残酷な真実をどうすることもできず、
夏の一時の思い出として秘め事を抱えたまま、秘密の園を去っていく。
この胸のうちの苦い痛みこそ、恩田作品の真骨頂。
どうにもならない思いを抱えたまま、振り返ることも許されず、
少年少女は旅立っていくのである。