恩田陸『七月に流れる花/八月は冷たい城』(講談社文庫) | 雪花の風、月日の独奏

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気がついたら、読書感想の連投が続いてますね。

夏アニメは全て脱落してしまったし、ゲームも詰み気味なので、

自然と、出退勤の合間にできる読書に重きがいきがちなのデス。

 

今回、レビューするのはこちら。

 

 

恩田先生の十八番、閉じられた園での秘密を巡るミステリー。

 

 

 

「夏の城」に招かれた女子の視点で町の謎に触れる前編、

男子の視点で謎の存在「みどりおとこ」を紐解く後編の二部構成になっている。

『夜のピクニック』や『蜜蜂と遠雷』のようなカラッとしたメジャー作品よりも、

冷たさと切なさで切り裂かれそうな作風で、

学生時代に恩田作品にのめり込んだ私としては、

待ってましたとばかりの新作だ。

 

『三月は深き紅の淵』を想起させる表題、

『麦の海に沈む果実』と同様の装丁、

そして、仄暗い世界で薄氷の上を恐る恐る進むような

冷たいナイフを背に突き付けられているかのような世界観。

日本が舞台のはずなのに、恩田先生の世界はどことなく

中世ヨーロッパを想起させる不可思議な印象をもたらし、

果てしなく広がる稲穂の海の描写には、

否応なしに『麦の海に沈む果実』を思い起させる。

 

夏の城に集められた少年少女の共通点は

「親の死が間際に迫っている」というものだったけど、

全員が全員、今わの際にいる肉親のが「両親」という設定は気になった。

実際、緑色感冒に感染した人々について「子をなくした人」という説明があったので、

子供の死期が迫っている、または兄弟姉妹の臨終が近いという

設定があってもよいのではないかと思ったのだが、

死期が近い身内を「親」だけに限定したのは、

「置いて逝かれる子供たち」が本作のテーマだからだろうか。

そして、謎の伝染病は時期が時期だけに、コロナを連想させる。

 

結末は、『三月は深き紅の淵』『麦の海に沈む果実』同様、やりきれない幕切れ。

子供たちは残酷な真実をどうすることもできず、

夏の一時の思い出として秘め事を抱えたまま、秘密の園を去っていく。

この胸のうちの苦い痛みこそ、恩田作品の真骨頂。

どうにもならない思いを抱えたまま、振り返ることも許されず、

少年少女は旅立っていくのである。