ちょうど8年前の7月31日、人間ドッグで血液の異常が発覚(白血球数2万)、すぐに血液内科を受診するよう健診医から言われました。家に帰ってすぐにネットで調べると、どう考えても白血病。次の日に診療やっているところ探して受診。かすかな望み虚しく「おそらく慢性白血病でしょう」と。「どれくらい生きれるのですか?」ときくと、先生は、「詳しい検査してみないと何とも言えません」と。外を見ると、病院の外の木々の新緑がむなしく風にゆれていました。2週間後に慢性リンパ性白血業(CLL)と確定。
当時、ネット情報も学術論文も、失望するようなことしか書いてありませんでした。当時はFCR(フルダラビン、シクロフォスファミド、リツキシマブ)の併用療法が最強の標準治療と言われていました。海外の有名な血液内科学雑誌に掲載された論文には、「フルダラビン(フルダラ)単剤療法は生存年数を延長しない。生存年数を延長することができる唯一の治療法はFCRのみである」と書かれていました。日本では、この治療法がやっと始まったばかりでした。海外では、終わりかかっていましたが。しかし、論文には、このFCR療法をもってしても、治療開始後(再発・難治性CLL患者対象)、たった6年(17p染色体欠失の場合は2年)しか生きることができないという統計データが示されていました。僕は、現代医学に失望し、科学者のくせに1ヶ月くらいでしたが、民間療法に頼ったこともありました。CLLを治す奇跡の味噌を作るという薬膳料理の人を頼ったのでした。溺れる者ワラをもつかむ、まさにその通りです。
しかし、すぐに我にかえり、CLLの論文を片っ端から読みました。50〜100編くらい英語論文を読んだでしょうか。その結果、CLL治療は現代医学では無理だという失望と、実験室で開発されたばかりの2つの新薬への微かな期待が残りました。もはや、CLLの進行を止める薬を自分で探す以外には方法はありません。当時、CLL細胞を殺す効果がある物質(天然の食品や植物から得られたもの)は複数知られていました(研究室のシャーレの実験レベル)。どうやって入手するかというと、サプリメントです。試したもののうち、効果があったのが、緑茶成分のカテキンの一種のEGCGです。EGCGは臨床試験までいった薬です。実際、EGCGで進行を止めることができました。その時は永久にCLLの進行が止まると思いました。このブログのタイトル「奇跡の処方箋」はその時つけたものです。残念ながら、進行を止めることができたのは1年間だけでした。ただ、量にもよりますが、EGCGは強い副作用があります。おすすめできません。EGCGで進行を止めるくらいなら、イブルチニブを少量飲む方がいいと思います。僕がEGCGに頼った理由は、当時イブルチニブはまだ日本では使えなかったからです。そして、最強の標準治療FCRをもってしても、たった6年しか生きれないという厳しい現実。
8年前、1つだけ明るいニュースが飛び込んできました。それは、アメリカで行われたイブルチニブの臨床試験の結果です。臨床試験が始まって1〜2年でしたが、CLL治療に革命を起こす治療薬であることを予感させる結果がでたのです。ちょうどその頃、実験室レベルで開発されたABT-199という薬の臨床試験が始まりました。それが、ベネトクラックスです。
この2つの新薬は、CLLの最強の標準治療薬となりました。特に17p染色体(17番染色体p腕;p53遺伝子が乗っている)欠失のCLL患者にとってはかけがえのない薬です。イブルチニブとベネトクラックスは、17p染色体欠失(p53遺伝子欠失)のCLLにもよく効きます。それまで、17p染色体欠失のCLLの治療法は、骨髄移植以外にはなかったのです。フルダラビン単剤療法もFCRも、17p染色体欠失CLLに対しては効果がないことは、10年くらい前からわかっていたのです。
日本でも、今は治療開始前に、p53遺伝子(17番染色体p腕に乗っている)が欠失しているかどうかを調べるのが普通です。もし、欠失していれば、フルダラ単剤、FCR(フルダラ、シクロフォスファミド、リツキサン)などの化学療法は無意味だからです。イブルチニブなどのBTK阻害薬やベネトクラックスが第1選択薬です。