TP53欠失(17p染色体欠失)の治療ミス | 慢性リンパ性白血病(CLL):奇跡の処方せん

慢性リンパ性白血病(CLL):奇跡の処方せん

自分とは到底無縁の病気だと思っていた慢性リンパ性白血病になりました。20万人に1人という確率です。しかも、かなり進行速度が速いようです。

 ここ10年でCLL治療薬は大きく進歩しました。数年前までは、日本では、TP53欠失(17p染色体欠失)のCLLに対する有効な治療薬はありませんでした。数年前までは(今でも第1選択薬となっている可能性あり)、CLL全般の標準治療薬はフルダラビン(フルダラ)単剤か、フルダラビン、シクロフォスファミド、リツキシマブ(リツキサン)の3種(FCR)または2種(FR)併用療法でしたが、フルダラビンとシクロフォスファミドはDNAに作用して異常を起こす、いわゆる発癌物質でもあります。おまけに、この併用療法は、TP53欠失(17p染色体欠失)のCLLにはほとんど効きません。TP53欠失に効くのはイブルチニブ類とベネトクラックスのみで、これらは、DNAには作用しないので、二次ガンの心配もなく、非常によく効きます。

 フルダラビンとシクロフォスファミドによりDNAに異常(変異)を起こしたCLLリンパ球は、免疫系により異常細胞と見なされ、自殺させられます。これに関わる遺伝子がTP53なのです。ですから、TP53遺伝子が欠失している人の場合、 これらの薬ではDNAに異常を起こしても殺すことができないばかりか、悪性度の高い二次ガンの原因となる変異したCLLリンパ球が山のように増えます。極めて危険です。これに加えて、骨髄抑制などの強い副作用が生じるので、薬害あって一理なしなのです。

 さて、血液内科の先生すべてがこのことを知っている訳ではありません。最近、TP53欠失のCLLの人にフルダラビン(フルダラ)が処方されたケースがありました。医師の勉強不足は仕方ないとして、血液内科学会が作っている治療法の簡単なフローチャートすらきちんと見ていなかった、ということです。膨大な血液疾患を扱う医師に、完璧を要求するのは酷なことですが、これはちょっとひどいかなと思います。医師の間違いをフォローするのは患者本人しかいません。情報を共有することで、医師のミスを防ぐことができます。