愛別外猫雑記 笙野頼子 の感想 | 翠日記

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イラストレーションを描いてます。本を読んだり映画を見たり走ったり食べたりするのが好きです。
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最近移動中の暇なときに笙野頼子の「愛別外猫雑記」という身辺雑記を読んでいる。


この本は、色々あって猫を7匹も買う羽目になる作者が、事の顛末を饒舌な毒舌で語りつくすエッセイである。
エッセイというほど軽くも明るくもないが。自分の不運を呪いながらも、猫に対する(というか小さな命に対する)憐憫を捨てきれずどんどん溜まってゆく猫…ただの猫好きでは片付けられない真剣さで、筆者は周囲とたたかい、近隣の変人と戦い、猫の世話に追われ、体力の限界まで頑張りつくす。
なぜそこまでして…と、絶句するほどの勢いだ。


そもそもなぜ私がこの本を選んだかというと、笙野頼子の文章を一度見てみたいと思ったから。プロの本読みの方の座談会などで結構良い評価をされていたのと、滅び行く日本の純文学を地で行っている珍しい女流作家に興味を引かれたため。


そもそも、ミステリーや恋愛小説など売れそうな本でない本を書いて、
それでも10年以上生き残っている人というのはたいていの場合、文章自体がものすごくウマイ。
ウマイ文章というのは、私にとっては、読んでてイライラしないということだ。
イライラしない文章というのは、どうでもいいことに行数をつかわないで、どうでもいいことをクダクダ述べない、
その場その場で語るに値することだけを語り、内容に応じた密度で論理展開ができる文章ということだ。
…あくまで、私にとっては、ということですが。


確かにこのひとの文章は、イライラしない。これだけ達者な毒舌は、一つの芸なんだろう。
ノワールを書いたらうまそうだが、まあ普通に読んでいて幸せ感のある売れそうな本はないんだろうなあ…
でも、ただの毒舌上手に陥っていなくて、そこに激しいパッションが伴っているのがこのひとの文章の良いところで、文章に嘘がなく、そういうところがとても気持ちよい。今の時点の代表作「金比羅」も読んでみようかな。
読後感が悪いのは覚悟のうえで読む必要があるが、気味良い文章を味わいたい。


あと、「愛別外猫雑記」を読んでいたら、猫というのは、ある種の人にとって本当に特別な存在になりうる動物なのだということが分かった。
犬好きは、猫もまあまあ許容するが、猫好きは、犬が嫌いなケースが多いし、猫だけを偏愛する傾向がある。


創作の進捗ですが、絵はまあまあ進んだ。
最近ものすごく調子が良い。良い絵なのかは他人が判断することだけど、自分自身は描いていて気持ちが良い。本当にアクリル絵の具でぐいぐいと色をつけることは気持ちの良い行為です。