食堂で昼食をとっているときに、昔、同じ職場で働いていた仲間が、たまたま目の前に座った。
「どう最近?」
「残業してるよ。」
「大変そうだね。」
世間話をした後、彼はソフトボールの話を始めた。
「年に2度、出入りの業者2社とソフトボールの対抗戦があって、まだ1回しか勝ってない。最高で2位なんだ。いつも同じ負けパターン。四球を出してランナー溜めたところで打たれるんだ。大体、うちのチームは打てるんだけどピッチャーがストライク入らないんだ。」
「へえ。ソフトボールかあ。…俺、速球は投げられないけど、ストライクは入るよ。」
「じゃあ、うちのチームのピッチャーやってよ。」
「いいよ。」
「一度でいいから優勝したいんだよね。」
「大丈夫。勝てるよ。」
俺はあまり根拠がないまま、そう言った。
小学生の頃から、ソフトボールのピッチャーをしていた。
理由は簡単。他のポジションは守れないからだ。
内野をやっていると、ボールを前にこぼすし、外野をやっているとフライの時の遠近感がよくわからない。
その点、ピッチャーは楽だ。ショートフライのときだけは問題だけど、勝手にマウンドを降りてしまえば、きっとサードやショートが取ってくれる。
朝、デュラン・デュランを聴きながら、試合会場に行く。
会場につくと、もう練習が始まっていた。
全員、ショートのポジションでノックを受ける。一応、こなすことができた。
第一試合は他チームの試合の審判だった。
僕は1塁の塁審をしていた。
そのとき、後攻のサウスポーのピッチャーが四球を出し、めった打ちにあっていた。1回を終わるまでに10失点。
小さい頃から、いつもサードに言われていた。
「ソフトボールは、四球が最悪。打たれてもいい。ストライクを入れろ。」
だんだん、怖くなってきた。塁審を代わってもらい、ピッチング練習をする。
大丈夫。ストライクは入る。
試合は3回で21得点入れたチームがコールド勝ちをした。
その勝利チームは3連覇がかかっているという。
そして、僕たちの最初の試合はそのチームとの対戦だった。
ピッチング練習でも大丈夫だったのに、いざ、試合になったら、ストライクが入らなくなった。
2球続けてボール。
「大丈夫。1球入れば大丈夫。何で緊張しているんだ。今までこんなこと何回でもあっただろう。」
そう自分に言い聞かせた。汗が、落ちる。みんなが何をしているんだという目で見ているような気がする。そのとき、ふと気付いた。ソフトのピッチャーは後ろ足に体重が残るということを。野球とは反対なのだ。
それを思い出して気分が楽になった。
マウンドからバッターを見下ろす。ソフトボールは最後まで見下ろしたまま、投げればいいのだ。
ようやくストライクが入り始め、3者凡退で切り抜けた。
試合はその後、もつれにもつれたけれど、結局、そのチームに勝った。
僕を誘ってくれた人は、ものすごく喜んでいた。
「勝てたよ。緊張でしびれたけど、すごくよかった。外野にもボールが来なかったし。」
彼は彼で、先頭打者ホームランを打ってくれて、気分をいっそう楽にしてくれた。
2試合目はマウンドを譲ってセンターを守った。
打線が爆発して16対5だったので、楽勝ペースかと思って油断していたらピッチャーが突然崩れだし、連続四球の後、めった打ちにあった。
ソフトボールはこれがあるから恐ろしい。
それでも16対14で勝った。
2試合目のピッチャーは、14点取られたところでフォームを変え、変化球主体から速球主体に切り替えた。
「最初からそうやって投げればよかったのに。」
試合後にいうと「本当は投げれないんですよ。でももう、みんなに何を言われるかと思って、最後は必死でした。1人相撲してすみません。」と言った。その気持ちはよく分かる。ピッチャーは孤独なのだ。
そうやって、優勝した。3連覇をくい止めて、偉いと総評を受けた。
優勝商品はビールで、僕は4缶もらって帰った。
試合の直後から、雨が本格的に降り出した。なんとか終わってほっとした。運転しながら勝った余韻に浸っていた。
途中、家の近所にある中尾山温泉に行く。
ここは女性の露天風呂から女性が紐をひくと、男性の露天風呂がのぞけるというお見合い風呂として有名だ。
そのせいか、露天風呂にはなかなか男性が来なかったので、僕は独り占めをしていた。
紐も引かれず、雨の中の露天風呂は気持ちよかった。
家に帰って、ビールを3缶ほど飲むと、疲れていたのか酔いが一気に回った。気付いたら9時を過ぎていた。5時間ほど寝ていたことになる。でも、なんだか幸せな気分だった。










