今日は、銀座の画廊SASAI FINE ARTSにおいて開催されていた「星野有紀展 ニケの涙腺」について触れたいと思います。

(会期2月21日(金)~3月8日(土))

 

星野有紀さんの今回の個展は、4年ぶりとのことですが、私が星野さんの個展を拝見したのは、更にその2年前の2019年の『あのこになれない』(ギャラリーアートもりもと)でした。

その際の印象は、「不条理さが漂う少女」、「戦うような激しさ」、「明るい色彩の美しさ」といったところだったでしょうか。

 

その一方で、今回の個展では、その作風が熟成・深化するとともに、肩の力が少し抜けたような「変化」を感じました。

それは、ご本人に初めてお目にかかり、お話ができたことや、私自身の受け止めが変わったということもあるのかもしれません。

 

それでは、作品を紹介しながら、私の印象をご説明したいと思います。

「汽水はどこまでも温かく」30F(72.7×90.9㎝)キャンバス・油彩

後ろに組んだ女性の手や、足の裏の表情が描かれています。

服や背景の色彩も極めてシンプル。

しかし、インパクトは十分、鑑賞する者に対して強いメッセージも感じます。

 

そして、私は、小さく描かれたこのバッタに注目しました。

こうした小さな生きものを、さりげなく存在させているところに、私は、これまでの星野さんとは異なる肩の力が抜けた側面を見たような気がしました。

 

次の作品にも同じようなことを感じました。

「・0」キャンバス・油彩

こちらの作品は、女性の顔は描かれていませんが、存在感は十分な作品です。

 

そして、こちらの作品にも、私は小さき生きものを見つけました。

 

星野有紀さんの過去の作品を拝見したことのない方もいらっしゃるかと思いますので、ここで2019年の個展の作品を一点掲載します。

「Nice to Meet You」 60.6×50.0㎝ キャンバス・油彩

この作品は、当時でも、強い視線の少女を描いた激しい作品でした。

 

作品の紹介を続けます。

今回は、セーラー服の少女の作品が何点か展示されていました。

「遠雷」8F(45.5×37.9㎝)キャンバス・油彩

 

「Dear Unbirthday」5S(35.0×35.0㎝)キャンバス・油彩

今回のこうした作品に登場する少女には、強い視線は描かれていません。

星野さんの中に、強い視線=戦いという構図があったのかもしれませんが、今回はそうした表現方法とは異なる表現を意識していることが感じられます。

 

さて、今回の個展の副題は、「ニケの涙腺」とされています。

ニケといえば、私はルーブル美術館にある頭部のない「サモトラケのニケ」を連想したので、今回、顔を描いていない作品が多いことと関係しているのですかと星野さんに尋ねたところ、明確に関係があるとの返事が返ってきました。

 

そして、会場には、ニケについて、次のような星野有紀さんのメッセージが書かれていました。

 ギリシャ神話に登場するニケは、勝利の女神と言われていますが

 勝敗の決定権は持っておらず、その結果を伝達するだけだそうです。

 戦いの行く末、ボロボロになった勝者と敗者に

 私の人生の最後に、ニケは現れてくれるのかな。

 

このコメントを拝見するにつけて、星野さんにとって表現することは戦いであることには間違いないと感じます。

この数年の間に、その戦い方が変わってきたのかもしれませんが、根底に流れることは同じなのかもしれません。

今後、ニケという戦いの女神が、星野さんの戦いをどのように見守ってくれるのでしょうか。

 

今回の作品の中には、こんな作品がありました。

「dreamer」20×20㎝

可愛らしいハリセンボンの作品。

ひょっとして、ニケが星野さんの耳元で、いつも戦わなくてもよいからね!

と囁いたのかもしれません。

 

戦っているからこそ、ハリセンボン、そしてバッタやテントウムシが時には必要なのではないかという星野有紀さんのメッセージを受けた気がした私でした。