現在、国立新美術館で開催されているルノワール展を、5月2日に見にいき、これまで、何回かにわたって、感想等を書いてきました。

今日は美術館巡り(黒田清輝展、ルノワール展)

ルノワール展から思うこと 「3人の女性とルノワール」

ルノワール「ピアノを弾く少女たち」 仲代郁代氏(ピアニスト)から感銘

そして、もうひとつ、どうしても触れたい絵がもう一枚あります。それは、「ジュリー・マネあるいは猫を抱くこども」です。

 

次の作品です。(図録から携帯で写真を撮りました。)

この絵に登場する少女は、ご覧の通り、上品で、大変愛らしい少女です。しかし、それだけではなく、大変聡明そうで、凛とした印象があります。ルノワールの絵画に出てくる数多い少女の中では、少し際立った存在感が感じられます。

そして、抱かれた猫の笑っているような表情も大変印象的です。

  

実は、私は、この少女の絵について、これまで何も知りませんでした。それは、私が、いかにも、にわか「ルノワールファン」であり、絵画について知ったかぶりをしていることを、ばらしてしまう事なのですが、この絵については、見たことがある程度の認識しかありませんでした。

 

今回、調べてみて、この少女の存在は、ルノワールと印象派、フランスの絵画史を語る上で、大変興味深い人物であることがわかりました。

 

この少女、ジュリー・マネの母親は、印象派の女性画家ベルト・モリゾ、父親はウジューヌ・マネ、ヨーロッパ近代絵画の草分けともいえるエドヴァール・マネの弟です。

 

ベルト・モリゾは、1868年にエドヴァール・マネに始めて会い、彼のモデルをしつつ、彼から絵を学びます。その関係は、恋仲をうわさされたといわれています。

マネが、1872年にベルト・モリゾを描いた次の絵は、あまりに有名です。

 

「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾの肖像」1872年

 

結局、ベルト・モリゾは、1874年にエドヴァール・マネの弟と結婚しましたが、二人の夫婦仲はとても良く、1878年に娘ジュリーを出産しています。ベルト・モリゾは、印象派の画家として、娘や家族の絵を数多く残しています。また、ルノワールとも大変親交が深かった。

 

ベルト・モリゾが、娘ジュリーを描いた、次の作品をご覧ください。私が、印象に残った作品です。

 

「ブージヴァルの庭のウジューヌ・マネの娘(田舎にて)」1881年

 

「マンドリンを弾くジュリー」1889年

この絵を見ても、ベルト・モリゾは、一人娘のジュリーを大変愛し、大切に育てていたことが感じられます。

 

さて、そこで、ルノワールのこの作品、「ジュリー・マネあるいは猫を抱くこども」です。

この作品は、1887年の作品で、ジュリー・マネが、9歳のときの作品です。ルノワールは、大切な友人の娘の絵を描くに当たって、何枚も準備素描を行うなど、かなり気合が入っていたといわれています。

おそらく、ジュリー・マネも大変気立ての良い娘だったのでしょう、ルノワールは、良い作品を描きたいという強い気持ちの中で、この印象に残る作品を完成させたのだと想像してしまいます。

 

さて、その後、ジュリー・マネは、父親と母親を相次いでなくし、16歳で孤児になりますが、ルノワールをはじめ印象派の画家たちが彼女を暖かく支援していきます。

 

母親のベルト・モリゾがなくなる前にルノアールが、ジュリー・マネを描いた作品があります。

「ジュリー・マネの肖像」1894年 マルモンタン美術館

この作品を見ると、9歳のときの猫を抱いた少女が美しく成長した姿を、ルノワールは見事に描いていることがよくわかると思います。

◯ルノワール「ジュリー・マネの肖像」から思うこと。

 

ジュリー・マネは、自らも画家になり、また、ドガの弟子のエルネスト・ルアールと結婚します。

なお、彼女が残した少女時代の日記「印象派の人びと ジュリー・マネの日記」には、印象派の人々の親交の様子が克明に書かれており、資料的な価値も高いといわれています。

 

こうやって、絵の背景や、登場人物を知ると、大変興味深く、また、絵の見方も深まってくると実感した次第です。さらに、機会があれば、ジュリー・マネについて知りたいと感じているところです。

今日は、ここまでとします。

 

【追記(平成29年1月1日)】

このルノワールの「ジュリー・マネあるいは猫を抱くこども」の記事について、この記事を書いた以降、現在に至るまで、多くの方に読んでいただいています。

私の未熟な記事を読んでいただけるということは、この絵が、多くの方に愛されているということの証だと思うのですが、この記事を書いた以降、今日まで、関連する若干の知識を入手しましたので、追記しておこうと思います。

 

まず、ルノワールが描いた猫の絵が、日本においてどのように紹介されているかです。

ルノワールの猫の絵は、かならずしも多いとは言えないのではないでしょうか。

ジュリー・マネのこの絵が展示された昨年のルノワール展において、「猫と少年」(1868年)が展示されていました。

次の絵です。(図録から携帯で写真を撮りました。)

この絵は、ルノワールの絵としては、きわめて珍しい男性裸体であり、歴史的にも、マネの「草上の昼食」(1863年)、「オランピア」(1863年)に至る、「神話的な文脈の不在」という流れに位置づけることが出来ると図説の解説にはあります。

ただ、猫の安心した表情、姿を見ると、ジュリー・マネの猫の絵が画かれた1887年から20年ほど前に描かれた絵でありながら、猫の絵としては、共通する気持ち(おそらくルノワールは猫好き)で描かれた作品と私には思われます。

 

それと、もう一点。一昨年、ルノワールの猫の絵が、日本に紹介されています。

それは、一昨年(2015年)の2月から5月にかけて三菱一号館美術館で開催された「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」でポスターにも使われた「猫を抱く女性」(1875年頃)です。

次の絵です。

(出展 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-39-8e/ya0515530/folder/483888/47/7743447/img_0)

この絵は、日本で公開された際、結構人気があったようです。

ルノワールらしい白い肌に赤いほおの女性が、いとおしく猫を抱く姿は、なかなか魅力的な絵と思います。ただ、猫の表情は、少し、ぎこちない感じがしますが、これも、また猫の表情としては自然な表情かもしれません。

 

ちなみに、現在、三菱一号館美術館では、「拝啓ルノワール先生-梅原龍三郎に息づく師の教え」(2016.10.19~2017.1,9)が開催されており、ルノワールの絵を見ることが出来ます。私が、見に行ったときの記事です。

「拝啓ルノワール先生」展(於 三菱一号館美術館)に行ってきました。

 

猫を抱く子供の絵として、魅力的な作品としては、先月、府中市美術館で拝見した藤田嗣治の「猫を抱く少女」(1949年)です。

この絵は、猫の絵を得意とする藤田の猫の作品としては、絶品だと思います。

猫のこの甘える表情は、素晴らしいと思うのですが、ルノワールの作品と比較していただくと、その違いもまたおもしろいと思います。

藤田嗣治展(於 府中市美術館)に行ってきました。猫の表現に感動!

 

更に、参考として、ベルト・モリゾの絵を、先般、ひろしま美術館で拝見しました。

「若い女性と子供」(1891年)という作品です。

ひろしま美術館 コレクション展「フランスの近代美術」を見てきました。

 

また、ベルト・モリゾと同じく、印象派の女性画家として、アメリカのメアリー・カサットの特別展が、横浜美術館で開催されていましたので、そのときの記事を紹介しておきます。

メアリー・カサット展(於 横浜美術館)の感想 桟敷席・沐浴する女性・母の愛撫など

 

以上、追記させていただきました。