昨日、横浜美術館で開催してるメアリー・カサット展に行ってきました。

メアリー・カサット展は、6月25日(9月11日まで)から開催していたのですが、みなとみらい地区にある横浜美術館の開館時間が6時までだったので、仕事の帰りに寄ることは難しく、ようやく、午後休みを取って、行くことが出来ました。

 

メアリー・カサットは、1844年に米国ペンシルヴェニア州ピッツバーク郊外に生まれ、1877年にフランスでエドワード・ドガに出会い、1879年以降、4度、印象派展に出展するなど、日本の浮世絵の影響を受けつつ、女性画家として活躍しました。

 

印象派の女性画家としては、ベルト・モリゾが有名ですが、印象派好きの私としては、大変興味深く、楽しみにした作品展でした。

 

まず、購入した、図録、絵はがき等です。

 

いくつかの作品に触れながら、感じたことを話したいと思います。

まず、「桟敷席にて」1878年です。写真は、購入した図録のものです。

図録の解説によると、19世紀後半のパリでは、劇場は華やかな社交場であり、そこに集う人々がお互いを観察し合う場だったそうです。特に、若い女性は、着飾り、男性はお目当ての女性を桟敷席に見つけるのを楽しみに来ていたとのことです。

若い女性は、夜は、肌を出した豪華なドレスで着飾っていましたが、昼間の観劇では、当時流行だつた黒いシックな装いで観劇をしていました。

 

この絵は、昼間の観劇で、黒いシックな装いの女性の観劇する姿が描かれています。

解説では、舞台を見つめる彼女は、見られる対象ではなく見る主体としての近代的な女性像を示唆するとしています。

 

男性が描くのであれば、夜の華やかな衣装を着た女性を描く可能性は高く、現にルノワールの「劇場にて~桟敷席」は有名です。しかし、メアリーカサットは、昼間を選びました。

そして、この絵のおもしろいのは、絵の右上に描かれている男性が、この女性を、オペラグラスで見ていることを描かれていることではないでしょうか。

この写真では、少しわかりにくいですが、この絵の現物を見ると、この男性の横には、おそらくはこの男性の連れである女性が描かれているのがはっきり分かります。今であれば、連れの女性がいるのに、堂々と他の女性をのぞき見をしている男性の姿は、何とも、情けない姿です。

メアリー・カサットは、女性の目で、そうした風俗や、男性の姿をシニカルに描いていると思われますし、更に言えば、「しょうがないわね」と思いながら、「男ってそんなものね!」と思っていたのかもしれません。

 

次は、「沐浴する女性」1890、91年です。

この絵は、浮世絵の影響を大きく受けている作品と言われています。

ドガは、この絵を見て、「女がこんなに上手に描けるはずはない」と言ったそうです。

メアリー・カサットは、女性を特段美化することなく、ありのままの姿を、第三者の目で描いたともいわれているようです。また、こうした、女性の日常の姿を描くこと自体、浮世絵の影響があると思われます。

 

それにしても、女性の肩から腰にかけての丸いなめらかな曲線、左腕の表情など、その輪郭線の美しさは、本当に素晴らしい!こうした表情を描けるのは、ドガの言葉を逆説的に言えば、女性だからこそ出来たのではないかとも思います。(なぜなら、私たちは、上村松園の女性画の美しい線を知っているから)

 

また、着ている服の縦縞は、浮世絵に見られる江戸の「粋」を感じさせます。

(哲学者 九鬼周造氏は、「いきの構造」で、縦縞に「いき」を見いだしています。)

 

この絵を見て、高い技術を持つ19世紀の女性芸術家が、日本の浮世絵を深く理解し、自分の作品の中で、見事に昇華させたといえるのではないでしょうか。

 

次は、「母の愛撫」1896年頃です。

メアリー・カサットは、この作品を含め、母子の作品を数多く描いています。

 

この作品は、母子が、お互いに見つめ合い、子供が安心し、信頼しきっている表情を見せています。図録の表紙にえがかれている「眠たい子どもを沐浴させる母親」1880年もそうですが、母親と子どもの視線があい、安心しきった子どもの表情が描かれています。

 

メアリー・カサット自身は、生涯独身で、子どももいなかったようですが、彼女の母性は、身近な母子の愛情を、感受性豊かに受け止め、芸術家としての高い技術と表現力により、見事に描いています。おそらく、母子の作品は、メアリー・カサットの最も特徴を著す作品であると思われます。

 

この作品展の出品作品リストには、メアリー・カサットに加え、エドガー・ドガ、ベルト・モリゾ、喜多川歌麿、葛飾北斎、カミーユ・ピサロなど、112点が挙げられており、大変見応えがありました。

加えて、横浜美術館所蔵作品の展示も行われており、上村松園や鏑木清方の美人画、片岡球子の富士など大作も展示されており、夏の暑い午後、思いもかけず、素晴らしい作品を見ることができました。