譲渡担保の設定者は,譲渡担保の目的物を無権原で占有する者に対し,その返還を請求することができるとされています(最判昭57.9.28)。

 

 

譲渡担保の設定者が「実質上の所有者」と考えられる理由を、簡単に整理!

 

 

 譲渡担保の仕組み

 

譲渡担保は、担保目的のために財産の所有権を担保権者(通常は債権者に形式上移転する仕組みです。ただし、この移転は担保のためだけであり、実際にその財産を利用し利益を受ける権利(実質的な支配権)は設定者(通常は債務者)に留まります。

 

 設定者が実質上の所有者とみなされる理由

 

譲渡担保の設定者が実質上の所有者とされるのは、以下の理由によります。

(1) 所有権移転の形式性

譲渡担保における所有権の移転は、担保目的のために必要な形式にすぎません。担保権者(譲渡担保を受けた側)は、債務が履行されれば所有権を設定者に戻す義務を負います。そのため、所有権の移転はあくまで形式的なもので、実際には設定者が所有者としての支配・利用を続けることが前提となっています。

(2) 実質的な支配権

担保目的物(例: 土地や建物)は、譲渡担保を設定した後も通常は設定者が利用・管理します。これにより、設定者は事実上、その財産を所有しているのと同じ状況にあります。

(3) 担保権者の権利の限定性

担保権者は、債務の履行がない場合に限り、担保目的物を処分して債権を回収する権利を持ちます。つまり、担保権者の権利は限定的であり、通常の所有者が持つ全面的な権利とは異なります。

 

 返還請求が認められる理由

 

譲渡担保の設定者(借金してる人)が目的物を無権原で占有する第三者に対して返還請求をできるのは、実質的にその財産を所有していると認められるからです。具体的には以下のように説明できます:

  1. 不法占有者の排除
    設定者が目的物を利用・管理する実質的な所有者である以上、不法に占有している第三者(無権原占有者)を排除する権利があります。

  2. 判例の立場
    最高裁(昭和57年9月28日判決)は、「譲渡担保の設定者は実質的な所有者として、不法占有者に対し返還請求できる」と判断しています。これは、形式的な所有権移転を担保の範囲内で制限し、実質的な利用権を保護する立場によるものです。

 

 例えで考える

 

たとえば、Aさんが自分の土地を銀行に譲渡担保として提供し、その土地を引き続き耕作しているとします。このとき、Bさんが無断で土地を占有し始めた場合、Aさんは「自分が実質的な所有者だから土地を返して」と請求できます。銀行が形式上の所有者でも、実際に土地を管理・利用しているのはAさんだからです。


 

まとめ

 

譲渡担保の設定者は、形式的に所有権を移転しても、実質的にはその財産の利用・支配を続ける権利を持つため、実質上の所有者とみなされます。そのため、無権原占有者に対して返還請求をすることが可能なのです。