ジリジリと蝉の声が響く。
あの夏の日・・・
「はぁ~、暑い。ジュンス、アイス食べようよ。」
「駄目!!ユチョン、先生に見つかったらヤバいだろ~
それに、明日から夏休みなんだから、
いくらでもたべられるじゃん。」
「今じゃないと駄目なんだよ!
ほんっと、ジュンスは分かってない!」
学校からの帰り道。
僕とユチョンはジリジリと照らす真夏の日差しと蝉時雨の中。
「買い食いは駄目だって、こないだも言われたろ!
それに、ユチョン・・・早く帰らないと、夕立がくる。」

振り返ると、まるで僕たちを追いかけるように
徐々に大きくなる積乱雲。
湿った空気の据えたような匂い。
空が低く唸るように遠雷が聞こえて、
雨が近い事が分かる。
ふと広げたユチョンの手に、ポツリと雨粒がひとつ。
「ジュンス、もう降って来たよ。」
諦める様にユチョンが言って、
瞬間、
ユチョンと僕は、脱兎のごとく走り出す。
汗で濡れる制服に、乱れる呼吸で重くなる身体。
通学路の河川敷を、ひたすらに走るけど、
雨はあっという間に僕たちを染めて行く。
「だめだ、ジュンス、一旦雨宿り!」
轟々と降る雨の中、怒鳴るようにユチョンが言って、
河川敷の外れにぽつんと建っている小さな木の小屋を指差した。
「あそこ・・・入れるの?」
「前に、ジェジュンと二人で入ってみた事があるんだけど、
ただの倉庫みたいで、鍵は掛かってないんだ。」
言いながら、小屋のドアに手をかけるユチョン。
道に迷った旅人を受け入れるように、ドアはすんなりと開いた。
小屋に入って内側からドアを閉めると、
雨の音が少し遠のく。
シンとした小屋の中は、二人の荒い息づかいと、
湿った木の匂いだけ。
「もう!ユチョンが道草しようなんて言うから!!」
そう言ってずぶ濡れのスクールカバンを放り出す。
ユチョンはいじけるように唇を尖らせて、
窓に嵌った木の格子の隙間から外を眺めている。
「見て、ジュンス、すごい雷。」
ユチョンにつられて見ると、無数の閃光と轟音が轟く。
ガッシャーーーーン!!!!
ピカッと一際大きく空が光って、
耳を劈くような音と共に、
驚いたユチョンが僕にとびついてくる。
「ちょっと・・・ユチョ、ン・・・・・」
咄嗟に掴んだユチョンの肩。
ユチョンの、甘い匂い。
薄暗い部屋の中で、
雷の閃光に照らされた濡れたシャツと、
ユチョンの白い肌。
「・・・ジュンス・・・?」
その日、
僕はユチョンに、キスをした。
窓際にユチョンの身体を押し付けて、
手首を掴んで舌を絡ませる。
んn・・っ・・・!!
はぁ、あ・・はっ・・・・・
まだ上がっているユチョンの息が、
僕の鼓膜を震わせる。
んっ・・はぁ、あ・・ジュンス・・・
ユチョンは僕の名前を小さく呼ぶ。
その声には、軽蔑も、同情も含まれない。
ユチョン、
今だけ、
この一瞬だけ、
僕は君が欲しい。
きっとこれは、夏の夕立のような、
一瞬の儚い感情・・・
唇を離すと、大きく吐息が漏れた。
ユチョンの前髪から雫が垂れて、
まるで涙の様に僕の顔を伝う。
「ユチョン、ごめん・・・」
そう言って、僕は懲りずにまたキスをする。
ユチョンの指にするりと指を絡ませて、
貪るように唇を愛撫する。
はぁ・・・あ、ん・・っ・・・
これはきっと夕立が見せた夢。
気がつくと、雨は止んでいた。
僕はハッとしてユチョンから離れる。
「ユチョン・・・ごめん・・・その・・・っ」
「ジュンス・・・。かえろっか。」
ユチョンはそう言っていつもの笑顔を作る。
それ以上なにも言えない、情けない僕。

雨の止んだ河川敷は、
むせ返るようなアスファルトの匂いと、
草の匂いに包まれている。
濡れたシャツの裾が、
もう少し歩いたら乾くよ、
とでも言いたげにパタパタと舞い上がる。
きっと、さっきの事は無かった事になる。
僕はなんだかそんな気がした。
でも、それでいい。
だってあれは、夕立が見せた夢なんだから。
「ジュンス・・・」
「・・・ん?」
「やっぱり・・・アイス食べたい!」
「はは、わかった。でも、ユチョンの奢りね!」
そう言って僕らはまた駆け出した。
夕闇の迫る夏の河川敷を、
真っすぐ走って行く。
前を走るユチョンの背中が、
消えてしまいそうに見えて、
僕は走るスピードをあげた。
これからはじまる短い夏を、
君と一緒に楽しむ為に。
突然思いついて書いてみました。
一話読み切りです。
学生時代のユス?いやこれはスユ?
初スユでかなり頭を抱えましたが、
大好きな夏の夕立の一瞬のように、
儚い感じの物語になっていたら幸いです^^

