「駅前にクレープ専門店が出来たらしいぞ。今度行ってみようか」
「あらそう。相変わらず新しいもの好きなのね。それについては全く否定しないけれど、あなたの場合は新しいものというよりも流行のものに飛び付いているだけのミーハーで中身の無い人に見えるわ。厳重に包まれたクレープの生地を開けたら中に何も入っていなかったみたいなものね」
「どうしてクレープだけでそこまで罵られるんだ!行ってみようか、って提案しただけじゃないか。僕はお前が行きたくないなら別に無理して行こうとは思わないぞ」
「うるさいわね。あなたの中身が無い責任を私に押し付けないでちょうだい。もしくは私を中身にしてしまおうという魂胆なのかしら、いやらしいわね。そもそも私がフライドポテトを売っているお店以外にわざわざ出向いたりするはずがないじゃないの。だからあなたは私の見識を広めるために、提案する時点で強引に私を連れて行くくらいの気構えを持っているべきよ。私の希望を叶えるだけが理想の恋人像だと思ったら大間違いよ」
「なるほど。分かった。じゃぁ今日の帰りはクレープ屋に寄って行こう」
「あらそう。一人で行ったら良いんじゃないかしら」
「そこは無理やり行かない態度をしなくても良いと思うぞ!今の話の展開なら素直に行くって言ってくれても良いじゃないか」
「あら、それでは私が行かないふりをして嫌がらせをしているみたいじゃないの、失礼な。私は素直に正直に率直に行きたくないと直訴しているのよ」
「……素直なのか素直じゃないのか分からないな……でもたまには普段食べないものを食べるのも新鮮で良いと思うぞ。クレープなんて普段あんまり食べないんじゃないのか?」
「ええ、そうね。ハンカチみたいな柔らかい生地の中に、丸めたティッシュのように見えるクリームをたくさん入れた食べ物でしょう?あまり食べたいとは思わないわ。更に固まって赤黒くなった血のようなチョコレートソースをクリームにかけたり……」
「ちょ、ちょっと待った。表現の仕方によってはずいぶんと不味そうに聞こえるもんだな……クレープは好きじゃないのか?」
「さぁ、どうかしらね。好きかどうか食べる前から判断して欲しいのかしら?でもそれはお店の人にとっては最も腹立たしい行為でしょうね。どれほど外観がお化け屋敷みたいに古くなってしまった料理屋でも、出している料理は美味しいかもしれないじゃないの。逆に完璧に清掃が行き届いてモデルハウスのように綺麗なレストランでも、出している料理はお化けも震え上がるよう不味さかもしれないわ。食べる前に外観だけで判断したり、他に客が一人もいないからといって入らなかったり、他の人が不味いと評価していたから食べなかったり、それは重大な機会の損失だと思うわ。まず食べてみてから自分で判断すれば良いのよ。それでもし長い人生のうちの一度の食事が失敗に終わったって良いじゃないの」
「まぁ言ってる事は物凄く共感出来るんだけど、食べる前からハンカチとかティッシュとか血とか言って判断してた人の発言だとは思えないぞ」
「うるさいわね。口を開けばすぐに私の揚げ足取りばかりしたりして、失礼な。私を他の人と一緒の生地の中に包もうとしないでちょうだい。そもそもそのお店はどんなクレープが特色なのかしら?」
「ウワサでは定番の甘いクレープ以外にも色々とあるらしいぞ。ハンバーガーとまではいかなくても、サンドウィッチとかに近い感覚の商品はあるのかもしれないな」
「あらそう。それならフライドポテトクレープもあるかしら」
「ポテトサラダじゃなくてフライドポテトか……僕の予想では売ってないと思うぞ……」
「あらそう。一人で行ったら良いんじゃないかしら」
「だからどうしてそうなるんだ!長い人生のうちの一度の食事が失敗でも良いって言ってたじゃないか!しかも食べる前から判断するのは良くないって言ってたクセに」
「うるさいわね。私を他の人と一緒の生地の中に包もうとしないでちょうだいと言ったじゃないの。フライドポテト以外のものは食べずに判断しても良いのよ。私のはお腹がイモだもの」
「意味が分からないぞ!いつも見てるけど、フライドポテト以外は食べられないってわけでもないじゃないか!」
「違うわよ。私にはあなたがいるもの、って言ったの。今までの経験上、私はあなたの味覚を信頼しているわ。だから私だけは食べずに判断しても良いのよ」
「それって僕がお前と全く同じ味覚の持ち主って事なのか?確かにそう思える人がいれば自分が食べなくても良いんだろうけど……まさかお前がそんな風に思ってくれてたなんて嬉しいな」
「ええ、そうね。あなたがあまり美味しくないと言っていた料理はフライドポテトよりも美味しくなかったし、あなたが美味しいと言っていた料理はフライドポテトより美味しくなかったわ。更にあなたが嫌いな料理でさえフライドポテトより美味しくなかったもの。だから今回も信じているわよ」
「僕の味覚は全くお前の判断に関与してないじゃないか!」
「フライドポテトの次に美味しいのはあなたのクリックかしら」
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