「いつの世も不老不死ってのはテーマとして取り上げられるな。もし不老不死になれるならなってみたいと思うか?」
「さぁ、別に思わないわ。人は必ず死ぬのよ。そしてそれこそが人なのよ。【人】という言葉の中にはもう【いつか必ず死ぬ】という意味合いが含まれていると考えた方が良いと思うわ。だから【人間】は【生まれてから死ぬ間の存在】とも言えるわね」
「な、なるほど、じゃぁ質問を変えて……」
「あら、何かしら。まるで私が期待外れの答えをしたような反応じゃないの、失礼な。誰もが不老不死を願っていると思ったら大間違いよ。そもそも人が死ななかったら今頃世界の人口はどうなってしまうのかしら。きっと住む場所も食料もなくて大変な状況になっているでしょうね。不老不死といっても老いたり死んだりしないだけで、痛みや苦しみや飢餓は味わう身体かもしれないわ。そうなったらもう地獄絵図よりも最悪の世の中よ」
「い、一体どうなるんだ」
「まずは人口過多で疫病が大流行して、食べ物も水も酸素も、暑さ寒さを凌ぐ場所もないのに誰も死ぬ事が出来ない、という最悪の事態が巻き起こるでしょうね。苦しみや痛みだけが永遠に続くのよ。いずれどうやったら人が死ぬのかの実験を人類は始めるはずよ。身体を切り刻んだり、火をつけたり、押し潰したり、氷付けにしたり、水に沈めたり。それでも不老不死の人はその状態の苦しみを味わい続けながら死なずに生きているのよ、そんな身体にどうしてなりたいと思うのかしら」
「そ、それは最悪だな……下手すると死ぬより辛い状態がずっと続くのか……ってそんな救いようのない方向に考えないで欲しいんだけどな。もっと気軽に考えて欲しい質問だったんだぞ」
「あらそう。でも不老不死になったら大変という理由を抜きにしても私は不老不死には興味ないわね。先程も言ったように、いつか死ぬからこそ人は輝くのよ。果たして死なない人が今この瞬間の人生を頑張る気になるかしら。なるほど、分かったわ、あなたは今輝いていないから不老不死になりたいとか言い出しているのね。残念だけれど、他の人より長く生きられるからといって輝く機会が増えるわけではないのよ。あなたのような人が今より努力しなくなったらそれこそ何億年間もずっと輝かないまま無為な時間を過ごすだけだと思うわ」
「おい!僕は質問しただけで別に不老不死になりたいと思って相談してたわけじゃないぞ!しかも酷い言われようじゃないか!」
「うるさいわね。こんな夢物語のような質問をしてくるからには、あなたが不老不死になるような希望を抱いているのかと思っても仕方がないじゃないの。せっかく起こりえない状況を想像するなら、夢のような世界ではなくて身の毛もよだつような絶望の世界を想像した方が良いわよ。そうすれば今いる世界が少しはマシに見えてくるわ」
「なるほど……まぁ何とも刺激的なポジティブシンキングってヤツなんだろうか。じゃぁもし死ぬまでずっと同じ年齢でいられたら、って事になったらどうする?」
「しつこいわね。色んな年齢を経験するから楽しいんじゃないの。例えばずっと10歳の肉体のまま突然寿命で死んだら、死んだ本人が一番驚くと思うわ。それに想像しているよりも早く自分の変わらない身体に飽きてしまうんじゃないかしら」
「まぁ家族や友達はどんどん年をとっていくわけだし、時間が経てば経つほど悩みが深くなるかもしれないな。やっぱり人は人らしく普通に一生を終えられればそれが一番幸せか」
「そうね。考えるだけ無駄なくだらない質問は辞めてちょうだい、失礼な。もう死別よ」
「おい!まさかこれから僕が普通の人らしくなく殺される、って言いたいのか!」
「違うわよ。私は別よ、って言ったの。私達はこんな事は考えるまでもなく永遠に15歳の……」
「それを言ったら何もかも台無しになるだろ!」
「面白いと思ったなら私の顔に触れても良いわよ」
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