「よく【お金のなる木】の話になったりするけど、もし実際にそんな木があったら皆買ったりするのかな?」
「何よ、突然。気持ち悪いわね。どんないかがわしいホームページを見たのか知らないけれど、あなたが悩んでいるような請求はほとんど詐欺だと聞いた事があるわよ。だからそんな夢のような話に縋るほどお金を欲しがらなくて良いと思うわ。でも少なくとも彼女という肩書きを持つ私にこんな話をし始めた挙句、冷静かつ厳正に正論でたしなめられたという状況については謝罪が必要なんじゃないかしら」
「え?何の話だ?僕はただ、もしホントに【お金のなる木】があったらいくらくらいするのかな、と思っただけだぞ」
「あらそう。請求はされたけれど、あくまでいかがわしいホームページは閲覧していない、と言いたいのね。今度からはその手の履歴もしっかりと手元に残るように細工をして私が管理する必要があるかもしれないわね……それにしてもまさかこんな短絡的な内容で私の嫉妬心を煽ろうとするなんて思わなかったわ。それとも本当にお金を振り込んでしまって困っているのかしら」
「おーい、何をぶつぶつ言ってるんだ?例えば【お金のなる木】が100万円だとしたら……」
「うるさいわね。あまりにも私が話に乗ってこずに恥ずかしくなったからといって突然違う話題を押し進めようとするのは辞めてちょうだい。私は一つ一つしっかりと最後まで納得のいく形で終えなければ気が済まないのよ。周りにどれだけ美味しそうな料理を並べられても、今食べている目の前のフライドポテトをお腹が一杯になるまで平らげるタイプよ」
「何を言ってるのか分からないぞ!それに僕は【お金のなる木】の話題しかしてないし。お前こそ一体さっきから何を話してるんだ?」
「あらそう。私はスペイン人が持つ地域の意識の差は、日本の県民性の差以上に違う、と話していたのよ」
「間違いなくそんな話はしてなかっただろ!目の前のポテト、目の前の話題だけをちゃんと平らげるタイプじゃなかったのか!」
「うるさいわね。あなたがつまらない詐欺被害に遭うのが悪いのよ。私がいつものように独自の作戦で陰ながら解決するために発言をカムフラージュしていたというのに、失礼な」
「え?詐欺?別に僕は実際に【お金のなる木】を買ったりしてないぞ?」
「あら、珍しく面白い表現をするわね。たくさんのいかがわしい画像を【お金のなる木】に見立てて転売して儲けようとしていたのね。でもあなたのような人がそんな商売に乗り出してもすぐに捕まってしまうんじゃないかしら」
「何となく話が見えてきたけど……どうして僕がそんな事をしてる展開になったんだ……?えーと、じゃぁ誤解の無いように僕から訊けば良いわけだな。お前はもし【お金のなる木】を売ってたらどうする?」
「それはどういう概念で捉えた【お金のなる木】なのかしら?あなたが使っていた比喩表現としての木じゃないでしょうね。私がそんな物を購入するほど変態だと思われていたとは思わなかったわ」
「そんなのじゃないぞ!……って言うとまるで僕の頭の中にある【お金のなる木】が妙な存在になっちゃうな……とにかく、1万円札とか千円札とか、そういうお金がなる木だよ。僕はずっとその話をしてたんだ。せっかくだから条件をつけると、物凄く栽培が難しい上に、購入するために100万円が必要って事にしようか。お前だったらどうする?」
「いらないわよ、そんなの。そもそも私が栽培に失敗するはずがないじゃないの。危険過ぎるわ」
「え?何で?栽培に成功するならお金を失う危険なんて無いじゃないか」
「お金の事じゃないわよ。私がそんな木を育てている事が知れたら、毎日のように怪しい人影が家の周りをウロウロするようになるわよ。例え犯罪でも安易にお金を手にするチャンスがある事を知った時、人は人ではなくなるのよ」
「まぁ全員じゃないだろうけど、確かにそういう人間が一人も現れないというのは考えづらいな……」
「そうね。私が人間不信になったらあなたも困るんじゃないかしら?人を空気として扱うわよ」
「ううっ、僕に対してまでそんな態度になったら嫌だな。いるのかいないのか分からない、全く接してくれない空気のような存在になるのは寂しい」
「違うわよ。【人を食う木】だって扱うわよ、って言ったの。【お金のなる木】の周りにたくさん植えて、全ての不届き者を一網打尽にするのよ。その時はちゃんとあなたにも協力してもらうわ」
「いくらなんでも行動が酷過ぎるぞ!僕を協力者として考えてくれるのは嬉しいけど」
「うるさいわね。あなたは最初の【人を食う木】の実験台だから先の事なんて気にしなくて良いのよ」
「協力者どころか、一番最初に切り捨てられる人間になっちゃってるじゃないか!」
「面白いと思ったなら私の顔に触れても良いわよ」
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