ちび子の職場は、ちび子を始めたくさんの職員がいる。そのなかで、ちび子のほかにもう一人先輩社会福祉士がいるのだが。これがまた何かとお騒がせなトラブルメーカーなスパイ先輩である。
児童デイサービスという職場にもかかわらずナゼか子どもを苦手としており、もちろん利用者の親からは不安視ぶっちぎりナンバー1。本人は表情も乏しく、明るさは無く、ボソボソと小さな声で人と視線も合わせない。このため障害児ですら訝しげな視線で遠巻きに避ける始末。
サボり癖だけはひどく、無断欠勤するわ職場放棄して隠れて寝ていたことも何度かあり、今や職員全員から総スカンを食っている人である。
そのくせ、上昇志向は誰より高い。会議となれば毎回空気を読まないトンチンカンな提案をブチ上げて出席者から怒鳴られたことも数知れず。支援者会議の席では、とうとう相談員から〝おまえは喋るな!黙っていろ!〟とキレられ。
毎年、新入職員がくるたびに『私に指導官をやらせてください』と手を挙げるのだが、なぜか指導官はいつも後輩のちび子になる。
しかし、メンタルは強いのか。何度叱られても、周囲から苦言を呈されても。これまで一度も失態を詫びたことが無かった。
繰り返す職場放棄。ある日、スパイ先輩はデイサービスの時間内に子どもたちを放置し、仮眠室に鍵をかけて寝ていた。その日ちび子は休日で不在、他の仕事をしていた職員が偶々デイサービスの部屋を覗き、事態が発覚。大騒ぎになった。
スパイ先輩は、仮眠室のドアをノックされても鍵を開けない。夜、全ての仕事が終わった後になって部屋から出てきた。冷たい目で自分を見つめる職員たちに知らん顔で『お先に失礼しまーす』と堂々と帰って行ったそうな。
そして翌日。何ごともなかったように、出勤してきたのだった。
事態に激怒した法人代表に呼び出されたスパイ先輩。何か言うことがあるだろう?と言われて、さぁ、と首をかしげた。
〝あなた、おかしいですよ?〟
そう言われて、ひどい!と泣きじゃくり。2時間以上も泣き続けたそうな。
〝失態を、なぜ詫びないのか。〟
そう言われて、スパイ先輩は黙っていた。何も言わない。
〝何時間でも、あなたが答えるまで待つよ?〟
そう言われて、ようやく口を開いたスパイ先輩。
『謝るとか、意味わからない。なんで?』と。
仕事で、迷惑をかけたでしょう?
『私は迷惑だと思わない』
じゃあ、どうして職員全員が怒ってると思う?
『分からない』
代表は、懇々と話したそうな。
誰もケガなくて本当に良かった。だけど、児童デイサービスの業務は、子どもたちの放課後の時間を責任持って預かること。だから、職員はその責任を負うのは義務でしょう。
あなたは義務を放棄した。そのために、他の職員たちであなたの仕事を兼務することになったのよ。
みんな忙しくて、それなのに仕事を放棄して詫びもせずに、そんな身勝手な仲間を受け入れてくれるはずがないでしょう。
『どうしたら、いいのかわからない』
まずは、職員たちにお詫びするベきでしょう。
『できない』
じゃあこの仕事は続けられないですね?
『仕事は好きだから辞めたくない』
でもこのままでは続けられないです。
延々と続くやり取りに、法人の責任者たちは皆さんアタマをかかえたらしい。
この非常識な、30にもなろうかという大人女性は。
謝りたくない。
リーダーはキライ。
ネコヤマさんにはアタマ下げたくない。
みんなが休むと自分だけじゃ仕事出来ないからみんなは働いてほしい。
などなど。もうとんでもなく3歳児並みの要求を続けたらしく。
最後はブチきれた代表に怒鳴られ。
いいかげんにしなさい!社会人としての常識が無いということです!詫びてもう一度やり直す、ができないなら、働いてもらうわけにはいきません!
そしてとうとう、、、
全職員にお詫び行脚をすることになったそうな。
本当にすみませんでした。二度と仕事放棄はしません。これからも一緒に仕事を続けさせてください。
ちび子にも、そうアタマを下げたスパイ先輩。ちび子は、次は無いですから、と答えたそうな。
で、そんなスパイ先輩が今年の職員面談を受けるとき。
リーダー:あのさぁ…。すげぇ相談寄せられてんだけど。
ちび子:私にそんな話を聞かせるでない( ` 口 ´ )
リーダー:聞いてくれよぉ。オレ、ネコヤマさんくらいしか悩み相談出来ないだろぉ。
ちび子:…( ` ー ´ )
リーダー:…最近思うんですが、私は社会人に向いてない気がします、って書いてあった。
ちび子:…最近?…最近になって、そこに気づいた?( ` ー ´ )
リーダー:オレもそう思う、って言っていいかなぁ。でも、仕事のことならまだしも、こんな思い相談をどうすりゃいいのか…。
ちび子:…本部に連絡して事務長にやってもらえばいいじゃん( ` 口 ´ )
リーダー:ハッ!そうか!さすがネコヤマさん♩そうするよ!
後日、無事にスパイ先輩の面談は終わったらしいのだが。
…スパイ先輩は、利用者のためにも、何よりも本人のためにも。
この仕事は辞めたほうが良いと思う( ` ー ´ )
と、ちび子が伝えた言葉に、事務長さんまで深く同意していたらしいのは、ヒミツである。