避難所生活2日目その2~命を大切にしなきゃダメだよと叱られる
道が開けたので、昼過ぎに支所よりも高いところに位置する集落へ、地震被害
の調査に行きました。この地域は、地震被害はかなりあるが津波からは免れたと
ころです。何軒かの家に大工が入り、壊れた家の修理を開始していました。
《とにかく、日本人は取り掛かりが早い》と感じました。
女川へ向かう道を2キロほど歩いて行くと、湧き水からポリタンクに水を汲ん
でいる40歳くらいの男性に出合いました。
この道は女川へ行く道ですか?、と確認すると、「どこへ行くのかね?」と、
逆に尋ねられました。これまでの経緯を話して、今はどこへも行くつもりはない
が、いずれは石巻を通って仙台まで帰らなければならないと答えると、「近日中
に歩いて行くのは絶対にやめた方がいいよ。俺は若いんで石巻からここまでどう
にか帰れたが、あんたたちの年齢の人なら死にさ行くようなもんだ。せっかく金
華山で助かった命を大切にしなきゃダメだよ!」と、真剣に怒鳴られた。
彼は震災当日、用事で石巻市内に出かけたが鮎川の両親安否が心配なので、無
理を承知で翌12日の朝に石巻を出発して鮎川まで歩いて帰って来たとのことだ。
そのときの様子を語ってくれた。――石巻を出るときは、水が腰の近くまであ
った。牡鹿半島の浜辺の集落はどこも壊滅して、集落はがれきの山で埋まり、
人っ子一人出会わなかった。“集落の人は全滅したんだなあ”、と思いながら歩き
続けた。時にはひざ以上もあるドロの中をズブズブとはまりながら、喘ぎ喘ぎ歩
くこともあった。9時間以上かかった。鮎川に着いて、見渡す限りのがれきを目
前にしたときは、思わず《両親も家もダメだな》と確信して、失望のあまりひざ
が崩れて座り込んでしまった。気を取り直して自宅へ向かうと、家は地震で大分
壊れたが運よく床下浸水だった。
両親を探して、家の近くの避難所を2か所回ったが見つからなかった。増々落
胆が大きくなったが、念のため回ってみた総合支所で、やっと両親を見つけるこ
とが出来た。そのときは、安心してすっかり気が抜けた。支所で一泊した後、今
朝3人で壊れた家に戻った、と語りました。この人と我々は12日の夜は同じ避
難所にいたことになります。
そして最後に、「家を失くした人たちに対して後ろめたい気がするんだよね」
とぽつりと言いました。自分自身がつらい思いをして、さらには他人への気遣い
でつらい思いを重ねている姿は、本当に気の毒だと思いました。
後にみちのく巡礼の活動で被災地を回った時にも、《家が残った人たちが流さ
れた人たちに対して、引け目を感じている姿》を多く目にしました。
また、筆者は震災後に多方面で震災体験や防災に関する心構えなどに関する講
演を依頼されましたが、――自分自身が3度も命拾いし、家族や身内も亡くしま
せんでしたので、そんな自分が講演してよいのか?と、多少の引け目を持ってい
ました――。その気持ちも正直にお話させていただき、避難の大切さや日常の防
災に対する心構えを話させていただきました。
講演の内容
今後、首都直下型地震や南海トラフ地震も予測され、北海道から東北にかけて
東日本大震災に匹敵する地震が起こることも予想されています。
自分自身の体験や知見生まれた地震や津波の避難心得をお伝えすることによっ
て、「自然災害における命を守る行動」に少しでもお役に立てれば幸いです。
[津波の予測]
(1) 地震=津波
演者地震被災地での活動時に何度も余震に見舞われました。
大きな地震でも小さな地震でも、揺れを感じたら「津波が来る」可能性があるこ
とを意識していました。
現地に到着したら先ずどこへ避難するかを、探したり現地の人に聞いたりして避
難場所を決めていました。みな様も、地震=津波を意識して行動して自分の大切
な命を守ってください。
(2)津波注意報や津波警報を見聞きしたら…
自分がいる場所から離れたところで地震が起きた場合、自分がいる場所が揺れて
いなくても、津波が来ることがあります。私が高校生の時発生したチリ地震津波
が例です。できるだけ早く安全な場所に逃げることが大切です。
(3)津波前に海の波が引くとは限らない
津波は海の波が引くことなく来る場合があることを、子供の頃から大人に聞いて
いましたが、高校生の時、チリ地震津波で実体験しました。
東日本大震災後、鮎川で避難所生活をしていた時津波警報が鳴りました。皆が逃
げる中、一人の男性が原付バイクで海へ向かいました。消防団員が追いかけて、説
得して連れ戻しました。東日本大震災でも津波確認で多くの方が亡くなりました。
津波確認のために海を見に行くことはやめましょう。
ある会場でのスライド130枚から抜粋してご紹介します。
この記事を書2,024年8月8日、17時過ぎ、宮崎県等の九州方面、四国方面で震度6弱の地震が起こりました。
津波には十分注意が必要との警報が出されています。