日本刀の炭素濃度は 平均0.7%といわれている。
熱処理の教科書を熟読すると亜共析鋼の焼き入れは A3線よりも上の温度にするように書いてあり、過共析鋼ではA1線の直上にするように書いてある。
共析鋼の炭素濃度が 0.77%なので、日本刀は亜共析鋼であり、焼き入れはだいたい740℃以上必要ということになる。
740℃がA3線直上に来るからこの温度なら焼きが入ることになり、これが教科書どうりのやり方である。
それではA1線727℃と740℃の間の温度では焼は入らないのであろうか?
亜共析鋼でA1線とA3線の間の温度では組織は オーステナイトとフェライトの混合である。A3線以上になるとオーステナイトだけになる。
オーステナイトは急冷されるとマルテンサイトになる。これが焼き入れ組織である。
A3線以上の場合のほうがマルテンサイトの量が増えて完全焼き入れになるが、A1線とA3線の間の場合には一部分だけマルテンサイトになり、残りはフェライトになる。
このとき焼は半分以上入ることになり、しかし完全焼き入れでないので、近代産業上は不完全焼き入れで不十分な焼き入れとみなされ、失格の烙印が押されることになる。
だがこの焼き入れ組織は本当に失格なのであろうか?
マルテンサイトとフェライトの混じりあった組織は硬さは足りないかもしれないが粘りがあってマルテンサイト一色の組織よりも衝撃に強いはずである。
どうも古刀の焼き入れはこの温度範囲でなされていたようにおもわれてならない。
古墳刀の炭素量は0.5%程度といわれていて、この鋼にA1線直上の温度で焼き入れするともっと粘りのある焼き入れが出来るはずである。
実際に亜共析鋼の焼き入れ実験をしてみたいが、まだしていない。
材料はS55C炭素鋼でこの直径30ミリの丸棒が手元にあるので、電気炉で正確に730
℃にして焼き入れすると私の見解が確認できるはずである。
その前に 鍛造して何か刃物の形にしなくてはならないがそれがまだである。
焼きの入った部分はおそらく沸出来になるはずである。
現代の名工藤安将平刀匠が前々からこの温度での焼き入れを提唱しているが、誰も追随しないようで、相変わらず高温から長い加熱時間をかけて焼き入れして、切れない刀をつくっている刀鍛冶が多すぎる。
ちなみに焼き入れ温度に加熱するのは極く短時間が最高で、長い時間焼き入れ温度にして沸を人工的につくっているようでは刃物として最低の刀をつくっていることになる。
この場合は刃はポロポロかけやすく、砥の仕上げが出来にくいと研師にいわれている。
見てくれだけの現代刀に評価が出ないのは当然で、必ず鉄管などを切れるものか実験してみなくてはならないことは明らかである。
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