一方で、日本自閉症協会は1989年に設立され、相談事業、研究調査、研修会などの開催、機関誌などの発行、ホームページでの情報提供など、支援システムの構築を目指して活動している。有料の面接相談、無料電話相談、機関誌の発行、「自閉症の手引き」などガイドブックのシリーズ化、助成金によるペアレントメンター育成等にも取り組んでいる。

日本自閉症協会、アスペ・エルデの会などにより2005年には日本発達障害ネットワーク(JDD Net)も発足した。しかしながら、日本自閉症協会として当事者を生涯にわたるシステムを構築するには至っていない。(高木隆郎他 (2006) 自閉症と発達障害研究の進歩 Vol.10、清和書店、422-426)

このように、PDDに特化した宿泊などを受け入れられる施設やサービスはニーズに対して充足しているとは言い難く、今後の発展が望まれるところである。

 

発達障害者の雇用の問題に関しては、障害者雇用率(法定雇用率)の設定(1998年7月1日施行)より、『雇用の進展、職域の拡がり等を踏まえ、雇用する労働者数が56人以上の事業主は、身体障害者又は精神薄弱者を1人以上(全労働者の1.8%相当数以上)雇用しなければならない。(中略) 
(2)  法定雇用率が1.8%になることに伴い、報奨金は、各月の常用労働者数の4%(現行3%)相当の年間合計数又は72人(同60人)のいずれか多い数を超えて身体障害者又は精神薄弱者を雇用している中小企業事業主に支給される。』とされているが、

(雇用の促進等に関する法律第1節 身体障害者又は知的障害者の雇用義務等
(身体障害者又は知的障害者の雇用に関する事業主の責務)
第10条)実際の雇用レベルでは1%ないしはそれ未満といわれている。
 

 地域レベルでの自助グループは先ほどあげたAutism Speaksほどのものは見受けられないが、日本自閉症協会支部が49、更正入所施設や授産施設は68カ所存在している(2005.12.1現在)

 インターネットではメンタルヘルスブログ(http://mental.blogmura.com/hatatsu/)のようなサイトが現在ほぼ唯一の大きなブログリンクサイトである。ここのホームページやブログで体験談などを紹介しているサイトもある。自閉症協会のサイトでも初心者から研究者まで参照できる資料が備えられている。 

 遺伝子レベルでの病因論が盛んになりつつある広汎性発達障害は、その報告も多様なものになってきている。高齢出産の場合、PDDの子どもの生まれるリスクが高まるという報告もある。(Advanced parental age and the risk of autism spectrum disorder. (2008) Durkin MS et al., Am J Epidemiol, 168(11),1268-76)

 このように、今後予測される日本での超高齢化社会において、広汎性発達障害を抱えるものの割合はさらなる診断や早期スクリーニングの発展も含めて増加するものと予測される。当事者が支援を受ける権利はもちろんのこと、定型発達者の理解を得ながら自由にアクションを起こせる環境調整は必要と考えられる。

★このあたりのアクションはとみにここ数年、急激に進歩している。他国ではこのあたりを研究していることも少なくない様子なので引き続き追っていきたい。

 
 

 

 日本は1967年に東京を中心とした自閉症児の母親らが結成した自閉症児親の会が推進力となり、1968年に全国組織「自閉症児親の会全国協議会」(現社団法人日本自閉症協会)へと発展した。しかし自閉症の障害の多様性により、社会の理解が急速に広がることはなかった。1989年、自閉症児親の会全国協議会は自閉症問題の抜本的な改革を目指し、親以外の専門家や協力者を広く会員に迎え、国の公認団体「社会法人日本自閉症協会」としてスタートした。  

 1980年代までは、当事者が併せ持つ知的障害に対しては当時の精神薄弱者福祉法の中での福祉サービスの提供であった。1981年、イギリスでアスペルガー症候群の概念が発表され、自閉症の一概念として国際的に注目されるようになってきた。1996年、ウイングにより自閉症スペクトラムの概念が提唱される。1993年、心身障害者対策基本法が改正されるが自閉症が身体・知的・精神のいずれにもあてはまらないことから当事者とその家族が国会に陳情し「転換および自閉症を有する者並びに難病に起因する身体上の障害を有する者であって長期にわたり生活上の支障がある者はこの法律に含まれる」とされた。1994年時点ではPDD(ASD)は知的障害のカテゴリーとされてきていたが、1997年からは知的障害より人間関係の障害のための生活不適応傾向のPDDの特性をふまえて精神保健法の範囲内で対応されるようになった。1999年には「自閉症は基本的には知的障害福祉施策の中で対応しているが、(中略)生活に困難を有する発達障害については今後さらに心理的・社会的な処遇方法の開発など施策の充実を図る必要がある」と提言されている。(高木隆郎他 (2006) 自閉症と発達障害研究の進歩 Vol.10、清和書店、419-412) 

 文部科学省では、2001年にLD・ADHD・高機能自閉症等を特殊教育の対象とした乳幼児期から学校卒業までの一貫した支援、自閉症の特性に応じた対応を検討してほしいなどの提言がなされた。2003年「今後の特別教育支援の在り方について」が公表され、上記の要望に応えるような提言がなされた。  

2004年、発達障害者支援法が成立。この法律によって発達障害への理解の促進、早期発見・早期~成人期の地域における一貫した発達支援促進、専門家の確保、発達障害者支援センターによる支援、民間団体への支援、普及啓発活動などが目指されている。 

  

発達障害者支援法 においては、 

第一章 総則 (中略)

(国及び地方公共団体の責務) 

第三条
 国及び地方公共団体は、発達障害者の心理機能の適正な発達及び円滑な社会生活の促進のために発達障害の症状の発現後できるだけ早期に発達支援を行うことが特に重要であることにかんがみ、発達障害の早期発見のため必要な措置を講じるものとする。 (中略) 

4 国及び地方公共団体は、発達障害者の支援等の施策を講じるに当たっては、医 療、保健、福祉、教育及び労働に関する業務を担当する部局の相互の緊密な連携を確保するとともに、犯罪等により発達障害者が被害を受けること等を防止するため、これらの部局と消費生活に関する業務を担当する部局その他の関係機関との必要な協力体制の整備を行うものとする 

(国民の責務) 

第四条
 国民は、発達障害者の福祉について理解を深めるとともに、社会連帯の理念に基づき、発達障害者が社会経済活動に参加しようとする努力に対し、協力するように努めなければならない。 

第二章 児童の発達障害の早期発見及び発達障害者の支援のための施策 (中略) 

3 市町村は、児童に発達障害の疑いがある場合には、適切に支援を行うため、当該児童についての継続的な相談を行うよう努めるとともに、必要に応じ、当該児童が早期に医学的又は心理学的判定を受けることができるよう、当該児童の保護者に対し、第十四条第一項の発達障害者支援センター、第十九条の規定により都道府県が確保した医療機関その他の機関(次条第一項において「センター等」という。)を紹介し、又は助言を行うものとする。(中略) 

(早期の発達支援) 

第六条
 市町村は、発達障害児が早期の発達支援を受けることができるよう、発達障害児の保護者に対し、その相談に応じ、センター等を紹介し、又は助言を行い、その他適切な措置を講じるものとする。 

2 前条第四項の規定は、前項の措置を講じる場合について準用する。 

3 都道府県は、発達障害児の早期の発達支援のために必要な体制の整備を行うとともに、発達障害児に対して行われる発達支援の専門性を確保するため必要な措置を講じるものとする 

(保育) 

第七条
 市町村は、保育の実施に当たっては、発達障害児の健全な発達が他の児童と共に生活することを通じて図られるよう適切な配慮をするものとする。 

(教育) 

第八条
 国及び地方公共団体は、発達障害児(十八歳以上の発達障害者であって高等学校、中等教育学校、盲学校、聾(ろう)学校及び養護学校に在学する者を含む。)がその障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるようにするため、適切な教育的支援、支援体制の整備その他必要な措置を講じるものとする。  

2 大学及び高等専門学校は、発達障害者の障害の状態に応じ、適切な教育上の配慮をするものとする 

(中略)

(地域での生活支援) 

第十一条
 市町村は、発達障害者が、その希望に応じて、地域において自立した生活を営むことができるようにするため、発達障害者に対し、社会生活への適応のために必要な訓練を受ける機会の確保、共同生活を営むべき住居その他の地域において生活を営むべき住居の確保その他必要な支援に努めなければならない。 

(以下省略)

 

といった内容が謳われているが、権利擁護など社会の底辺からの意識改革などはイギリスやアメリカといった人権意識の強い国に比較するといまだ困難を抱えている現状にある。






★奇しくも1960年代は世界的に自閉症研究が活発であった時代であり、その時期に自閉症当事者のための会が立ち上げられたことは感慨深い出来事である。しかし1990年代の法改正では発達障害の位置づけや扱いは不明瞭であり、発達障害者にとっては混沌とした時代であっただろう。2004年に発達障害支援法が立ち上がった一方で、前回紹介したアメリカの場合ではもっと早期に発達障害への政治的立場や支援体制が確立していたというこの開きは、医療全般に於いて「アメリカは日本より30年進んでいる」といった噂があながち的外れではないことを反映しているようだ。


 PDDを含めた他国の障害者支援の現状として、アメリカでは1976年発達障害者権利法(1963年がオリジナル、現在は2000年が最新法改正)が法的措置として挙げられる。(Developmental Disabilities Assistance and Bill of Rights Act (DDA) of 1976 (Public Law 94-103))法制定当時3,000,000人の発達障害者のニーズに応えるためにできたものであり(Administration on Developmental Disabilities, 1994)今の推 計は4,500,000人になっている。(http://www.workworld.org  http://www.acf.hhs.gov/programs/add/   Administration for Children and Families , of the U.S. Department of Health and Human Services . )この法律は、重度障害者の競争的雇用を促進するためのSupported Employment援助付き雇用を世界に先駆けて最初に法制度化したものとしても有名である。Information Technologyの応用とでは、Rehabilitation Engineering and Assistive Technologyでも関連する文献も存在するようである。(http://www.nimh.nih.gov/health/publications/autism/complete-index.shtml )(http://www.autismsource.org/
 ちなみにNIMH(国立精神保健施設)のHPには発達障害に関連する情報やリンクが盛り込まれている。( http://www.nimh.nih.gov/health/topics/)Medline PlusとNIHからの医学情報サイトには、発達障害に関する研究、法律、統計などが含まれている。(http://www.nlm.nih.gov/medlineplus/developmentaldisabilities.html#cat44 )CDCにある厚生労働省のページには多くの発達障害に関するリンクがある。(http://www.cdc.gov/ncbddd/dd/default.htm

 プライベートレベルでの支援として、発達障害へのNPOローカルサービスサイトが存在する。(http://www.nichcy.org/Pages/Home.aspx ) メンタルヘルスと発達障害に対しての基金もある。(http://www.develop.bc.ca/home.html  http://www.thetowerfoundation.com/Home ) 自閉症研究とサービス提供のNPOもホームページを持っている。(http://www.ladders.org/ ) アメリカの自閉症協会は財団法人でありサービス提供組織として有名である。(http://www.autism-society.org/site/PageServer

 オンラインブログやサポートネットワークとして、自閉症のブログコミュニティ(http://www.autism-blog.com/ )、自閉症当事者とその家族のオンラインコミュニティ(http://www.wrongplanet.net/ )、自閉症を持つ子供から大人まで、参加できるチャットルームや掲示板を有するもの(http://www.nas.org.uk/nas/jsp/polopoly.jsp?d=1401&a=13580 )、自閉症への医療や行動レベルの研究に焦点を当てたもの(http://www.translatingautism.com/ )など多岐にわたっている。

 文献や研究のデータベースとしては、NIMHの自閉症関連の文献にリンクするもの(http://www.nimh.nih.gov/science-news/2009/rising-to-the-challenge-nih-will-use-60-million-in-recovery-act-funds-to-support-strategic-autism-research.shtml )、ハーバード大学マガジンにある自閉症関連のページ(http://harvardmagazine.com/2008/01/a-spectrum-of-disorders.html )、自閉症に関する医学的統計的情報が豊富にあるものなど(http://archpedi.ama-assn.org/cgi/content/full/161/4/343?maxtoshow=&HITS=10&hits=10&RESULTFORMAT=&fulltext=autism&searchid=1&FIRS )様々である。

 イギリスでは National Autistic Society(王立自閉症協会)( http://www.direct.gov.uk/en/Dl1/Directories/DG_10014513 )や、発達障害への政策的背景を参照できる(http://www.ripfa.org.uk/evidenceclusters/pdf/Evidence%20Cluster%2010.pdf )。


 アメリカ、イギリス、中東を結ぶ多国間のASD支援ウェブサイトでは環境保健の側面からの研究、当事者がアクションを起こせる場の提供、イベントやその他募金活動などを提供している。

http://www.autismspeaks.org/

 オーストラリアではSST(ソーシャルスキルトレーニング=就労訓練)を前面に出した支援や(http://72.14.235.132/search?=cache:7TdMyVmtj4wJ:a4.org.au/a4/webfm_send/11+australia+government+policy+PDD+ASD+adults&cd=4&hl=en&ct=clnk)、言語訓練を中心にした詳細なレビューなどが出回っている( http://72.14.235.132/search?q=cache:9flFEc_gIcAJ:www.speechpathologyaustralia.org.au/library/Autism%2520Position%2520Statement.pdf+australia+government+policy+PDD+ASD+adults&cd=3&hl=en&ct=clnk )。

カナダでは自閉症協会(http://www.autismsocietycanada.ca/understanding_autism/screening_assessment_diagnosis/index_e.html )、州単位の財団法人や情報提供リソース(下記はオンタリオ州のもの)(http://www.epilepsyontario.org/client/EO/EOWeb.nsf/web/Autism+(links) 、http://www.virtualreferencelibrary.ca/?startingCatNo=9075&_nfpb=true&click=catDisp&_pageLabel=vrl_page_home )、など政府や地方自治体単位での公共のサポートが目立つ。

 フランスでは精神保健福祉士が精神障害の在宅患者に定期的に保護費を配る制度などにおいて自立した生活を促している。



★そのほかにもいろいろありそうだが、先ずは友人のお勧めサイト(アメリカ・カナダ)を中心にまとめてみた。

寄付やそれに支えられる財団の多いキリスト教圏(寄付をしないと罪の意識を感じるらしい)の文化も反映している気がする。


 自閉症をはじめとする広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorder,以下PDDとする)の臨床特性、またPDDが生得的な障害であることは、近年の研究成果によって一応のコンセンサスが得られている。しかし、自閉症とアスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害をどこで区別するのが臨床的に妥当であるのか、幅広い表現型の定義を含めて PDDをどこまで診断するかは未だ議論は十分でない。一方で、ICD-10やDSM-Ⅳによる操作的診断の定着、および薬物療法による治療的介入の効果については、十分な検討は未だなされていない。(Voljmar, F. R., Lord, C., et al., (2004) Autism and perspective developmental disorders. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 45, 135-170)

 

 自閉症スペクトラム(Autistic Spectrum Disorder,以下ASDとする)の有病率は、10,000人あたり4人から、この40年間に30~60人へと増加している。日本の一部の研究では12人程度との結果もある。ASDの境界が曖昧なために、真の発生率は取り出せないとしながらも30~60人のうち4分の一は自閉症の全診断基準を満たしているとされている。理由として、診断基準が整備されたことや専門職種および一般市民の意識が向上したことがあげられている。(Rutter, M (2004) Incidence of autism spectrum disorders: changes over time and their meaning Acta Paediatrica, 93, 1-13)欧米に比して日本での発生頻度の報告が少ないことは、精神・発達障害系へのサポート体制が日本より欧米のほうが手厚いと考えられている。


 PDDの研究においては、対人性の障害、言語の障害、反復的行動などの項目を含む連続的な分布を示す単一の因子が抽出されている。(Constatino et al., (2003) Validation of Belief quantitave measure of autistic traits: Comparison of the Social Resposiveness Scale with the Autism Diagnostic Interview-Revised. Journal of Autism and Developmental Disorders, 33, 427-433) 現在の診断学では「自発的に他人と喜びや興味、あるいは達成の共有を求めることの乏しさ(例えば興味の対象物を見せる、持ってくる、指し示すなどの乏しさによって示される)」とされている。(APA, 2000, p75)




★PDDやASDにとって操作的診断しか今のところ頼れる診断がないことは、医師の力量などで、PDDがBPD、もしくはSまたはBPDがPDDと診断されている危険をはらんでいるのだろう。

医療者・市民ともにPDDやASDへの理解を深めることは今後の課題であろう。


自分は広汎性発達障害&自閉症スペクトラムの研究をしている大学院生です。

そのなかでも、当事者のみなさんが、このアメブロみたいなブログ、そしてインターネット使うこと自体で、どんな点で助かっているのか、に非常に興味があります。


自分がお会いした当事者のかたで、ブログに自分の様子を書き溜めている方がいるんですが、本人と喋るとまるで違う人間と喋っているような錯覚に陥ることがあります。

それは、いわゆる「アスペ的」な特徴で、人間関係ではなかなかうまく行かない場合でも、メモやメッセやブログやコメントであれば、ある程度トラブルのおきそうなところを回避できるのではないかと思います。


また、自分が興味を持っているのは、ブログにPDDやASDのみなさんが書き出した「内容」です。

これを分析することによって、みなさんが日々何を必要として、何に困っており、どんな環境を望んでいるのか、知ることができそうだと考えています。


この考えにいたるまでの経緯は、アカデミックなまとめ方で少しずつアップできたらと思っております。でも、なるべくわかりやすくまとめてお伝えできるように努力します。


PDDやASDの診断を受け、障害者手帳を持ち、日々就労や生活に頭を悩ませている方。

そんな日々をブログに書いている方がおられたら、ぜひ相互読者になって情報交換できればと思います。

今日は、そんなところで、ごあいさつまで。