自閉症をはじめとする広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorder,以下PDDとする)の臨床特性、またPDDが生得的な障害であることは、近年の研究成果によって一応のコンセンサスが得られている。しかし、自閉症とアスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害をどこで区別するのが臨床的に妥当であるのか、幅広い表現型の定義を含めて PDDをどこまで診断するかは未だ議論は十分でない。一方で、ICD-10やDSM-Ⅳによる操作的診断の定着、および薬物療法による治療的介入の効果については、十分な検討は未だなされていない。(Voljmar, F. R., Lord, C., et al., (2004) Autism and perspective developmental disorders. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 45, 135-170)
自閉症スペクトラム(Autistic Spectrum Disorder,以下ASDとする)の有病率は、10,000人あたり4人から、この40年間に30~60人へと増加している。日本の一部の研究では12人程度との結果もある。ASDの境界が曖昧なために、真の発生率は取り出せないとしながらも30~60人のうち4分の一は自閉症の全診断基準を満たしているとされている。理由として、診断基準が整備されたことや専門職種および一般市民の意識が向上したことがあげられている。(Rutter, M (2004) Incidence of autism spectrum disorders: changes over time and their meaning Acta Paediatrica, 93, 1-13)欧米に比して日本での発生頻度の報告が少ないことは、精神・発達障害系へのサポート体制が日本より欧米のほうが手厚いと考えられている。
PDDの研究においては、対人性の障害、言語の障害、反復的行動などの項目を含む連続的な分布を示す単一の因子が抽出されている。(Constatino et al., (2003) Validation of Belief quantitave measure of autistic traits: Comparison of the Social Resposiveness Scale with the Autism Diagnostic Interview-Revised. Journal of Autism and Developmental Disorders, 33, 427-433) 現在の診断学では「自発的に他人と喜びや興味、あるいは達成の共有を求めることの乏しさ(例えば興味の対象物を見せる、持ってくる、指し示すなどの乏しさによって示される)」とされている。(APA, 2000, p75)
★PDDやASDにとって操作的診断しか今のところ頼れる診断がないことは、医師の力量などで、PDDがBPD、もしくはSまたはBPDがPDDと診断されている危険をはらんでいるのだろう。
医療者・市民ともにPDDやASDへの理解を深めることは今後の課題であろう。