日本は1967年に東京を中心とした自閉症児の母親らが結成した自閉症児親の会が推進力となり、1968年に全国組織「自閉症児親の会全国協議会」(現社団法人日本自閉症協会)へと発展した。しかし自閉症の障害の多様性により、社会の理解が急速に広がることはなかった。1989年、自閉症児親の会全国協議会は自閉症問題の抜本的な改革を目指し、親以外の専門家や協力者を広く会員に迎え、国の公認団体「社会法人日本自閉症協会」としてスタートした。  

 1980年代までは、当事者が併せ持つ知的障害に対しては当時の精神薄弱者福祉法の中での福祉サービスの提供であった。1981年、イギリスでアスペルガー症候群の概念が発表され、自閉症の一概念として国際的に注目されるようになってきた。1996年、ウイングにより自閉症スペクトラムの概念が提唱される。1993年、心身障害者対策基本法が改正されるが自閉症が身体・知的・精神のいずれにもあてはまらないことから当事者とその家族が国会に陳情し「転換および自閉症を有する者並びに難病に起因する身体上の障害を有する者であって長期にわたり生活上の支障がある者はこの法律に含まれる」とされた。1994年時点ではPDD(ASD)は知的障害のカテゴリーとされてきていたが、1997年からは知的障害より人間関係の障害のための生活不適応傾向のPDDの特性をふまえて精神保健法の範囲内で対応されるようになった。1999年には「自閉症は基本的には知的障害福祉施策の中で対応しているが、(中略)生活に困難を有する発達障害については今後さらに心理的・社会的な処遇方法の開発など施策の充実を図る必要がある」と提言されている。(高木隆郎他 (2006) 自閉症と発達障害研究の進歩 Vol.10、清和書店、419-412) 

 文部科学省では、2001年にLD・ADHD・高機能自閉症等を特殊教育の対象とした乳幼児期から学校卒業までの一貫した支援、自閉症の特性に応じた対応を検討してほしいなどの提言がなされた。2003年「今後の特別教育支援の在り方について」が公表され、上記の要望に応えるような提言がなされた。  

2004年、発達障害者支援法が成立。この法律によって発達障害への理解の促進、早期発見・早期~成人期の地域における一貫した発達支援促進、専門家の確保、発達障害者支援センターによる支援、民間団体への支援、普及啓発活動などが目指されている。 

  

発達障害者支援法 においては、 

第一章 総則 (中略)

(国及び地方公共団体の責務) 

第三条
 国及び地方公共団体は、発達障害者の心理機能の適正な発達及び円滑な社会生活の促進のために発達障害の症状の発現後できるだけ早期に発達支援を行うことが特に重要であることにかんがみ、発達障害の早期発見のため必要な措置を講じるものとする。 (中略) 

4 国及び地方公共団体は、発達障害者の支援等の施策を講じるに当たっては、医 療、保健、福祉、教育及び労働に関する業務を担当する部局の相互の緊密な連携を確保するとともに、犯罪等により発達障害者が被害を受けること等を防止するため、これらの部局と消費生活に関する業務を担当する部局その他の関係機関との必要な協力体制の整備を行うものとする 

(国民の責務) 

第四条
 国民は、発達障害者の福祉について理解を深めるとともに、社会連帯の理念に基づき、発達障害者が社会経済活動に参加しようとする努力に対し、協力するように努めなければならない。 

第二章 児童の発達障害の早期発見及び発達障害者の支援のための施策 (中略) 

3 市町村は、児童に発達障害の疑いがある場合には、適切に支援を行うため、当該児童についての継続的な相談を行うよう努めるとともに、必要に応じ、当該児童が早期に医学的又は心理学的判定を受けることができるよう、当該児童の保護者に対し、第十四条第一項の発達障害者支援センター、第十九条の規定により都道府県が確保した医療機関その他の機関(次条第一項において「センター等」という。)を紹介し、又は助言を行うものとする。(中略) 

(早期の発達支援) 

第六条
 市町村は、発達障害児が早期の発達支援を受けることができるよう、発達障害児の保護者に対し、その相談に応じ、センター等を紹介し、又は助言を行い、その他適切な措置を講じるものとする。 

2 前条第四項の規定は、前項の措置を講じる場合について準用する。 

3 都道府県は、発達障害児の早期の発達支援のために必要な体制の整備を行うとともに、発達障害児に対して行われる発達支援の専門性を確保するため必要な措置を講じるものとする 

(保育) 

第七条
 市町村は、保育の実施に当たっては、発達障害児の健全な発達が他の児童と共に生活することを通じて図られるよう適切な配慮をするものとする。 

(教育) 

第八条
 国及び地方公共団体は、発達障害児(十八歳以上の発達障害者であって高等学校、中等教育学校、盲学校、聾(ろう)学校及び養護学校に在学する者を含む。)がその障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるようにするため、適切な教育的支援、支援体制の整備その他必要な措置を講じるものとする。  

2 大学及び高等専門学校は、発達障害者の障害の状態に応じ、適切な教育上の配慮をするものとする 

(中略)

(地域での生活支援) 

第十一条
 市町村は、発達障害者が、その希望に応じて、地域において自立した生活を営むことができるようにするため、発達障害者に対し、社会生活への適応のために必要な訓練を受ける機会の確保、共同生活を営むべき住居その他の地域において生活を営むべき住居の確保その他必要な支援に努めなければならない。 

(以下省略)

 

といった内容が謳われているが、権利擁護など社会の底辺からの意識改革などはイギリスやアメリカといった人権意識の強い国に比較するといまだ困難を抱えている現状にある。






★奇しくも1960年代は世界的に自閉症研究が活発であった時代であり、その時期に自閉症当事者のための会が立ち上げられたことは感慨深い出来事である。しかし1990年代の法改正では発達障害の位置づけや扱いは不明瞭であり、発達障害者にとっては混沌とした時代であっただろう。2004年に発達障害支援法が立ち上がった一方で、前回紹介したアメリカの場合ではもっと早期に発達障害への政治的立場や支援体制が確立していたというこの開きは、医療全般に於いて「アメリカは日本より30年進んでいる」といった噂があながち的外れではないことを反映しているようだ。