無敗の牝馬三冠となったデアリングタクトは、小さな牧場から生まれた馬です。
最近は、大牧場の馬がG1レースを席巻していただけに、これがあるから競馬は面白のよって思った競馬ファンも多いことでしょう
そして、馬主として口取り写真(勝馬と関係者がウィーナーズサークルで記念写真を撮ることです)を撮ることは、まさに馬主冥利につきるのではないでしょうか。
私が競馬のお仕事をしていたときにあった、馬主さんと愛馬のエピソードを
その方はSさんと言いまして、まだ馬主の資格を取って間もなく、これから馬を買おうと考えているところでした。
私が働いていた会社ではアメリカのセリでサラブレッドを購入することもあったのですが、その馬主Sさんも外国産馬を買ってみたいということになり、アメリカと日本で電話しながらセリに参加し、ある牝馬を落札することができました。
その牝馬Fちゃんですが、何とデビューのときに新馬戦を3回使うという、今では考えられない荒業をしまして
今は新馬戦は、初出走の馬のみということなので、2走目以降は未勝利戦での競走となります。
でも、当時は同開催中ならば2走目でも新馬扱いで走れたので、1回目で勝てなければ普通は2回使うことが多かったのです。
ところがどっこい、このお嬢さんはなんと開催1週目と2週目に連闘で走って、さらに4週目に中1週で使うというスゴ技
裏技使って新馬勝ちみたいな(笑)
普通は2歳馬にデビュー戦でこんな無茶はさせませんが(苦笑)、それでもこの馬は大丈夫だと使った調教師もすごい決断ですよね。
その後もFちゃんは、堅実に走り続け、勝鞍こそ3勝でしたが入着が多くて、賞金をコツコツ稼いだ孝行娘でした。
今思えば、ただ単に丈夫だとか調教師の腕がいいとか(笑)ではなく、たぶんFちゃんは限界ギリギリまで走るタイプではなく、どこかで少し余裕を持って走っていたのでしょうね。だからこそ無事是名馬だったんじゃないかなーと。
ともあれSさんにすれば、馬主になってすぐに新馬を勝ってくれてたくさん競馬場で走る姿を見せてくれたFちゃんが可愛くて可愛くて仕方ない。
そのFちゃんもついに引退、繁殖牝馬になったのですが、さて初年度は何を種付けしようかとなったとき、Sさんが「サンデーサイレンスを着けたい」と言い出してザワザワ…
サンデーですか…
当時でも種付け料は2000万円をくだらない状態です。しかも初めての種付けとなりますからうまく受胎するかどうか
このときFちゃんを預かってくれたのは、家族経営の小さな牧場。放牧地もあまり大きくない静内の端っこにある牧場なのですが、手まめをかけてくれるので何頭か私の勤めていた会社も馬を預けていたのです。
その牧場へ電話しまして、Fちゃんの馬主さんサンデー付けたいって言ってるんですけどと言うと
「えっ、サンデー」(←しばらく言葉が続かず
)
「そりゃ、馬主さんが付けたいって言うんならどこにでもFちゃん連れてくけど…サンデーかぁ。緊張するなー。
絶対受胎させなきゃなんないってプレッシャーあるし、無事に産ませなきゃなんないし、仔馬に怪我でもさせちゃなんないしねぇ」
そうなんです。絶対受胎させなきゃってのはですね、サンデーサイレンスくらいの種馬になりますと種付けをして不受胎でも返金はされません。つまり2000万円よ、さよーならーなんです。
ただ、当時でも牡馬が生まれれば最低5000万円、牝馬でも最低3000万円の取引きになるんですから、いかにすごい種牡馬かということなんですなー。
ちなみに、そのシーズンごとに種付け株が売りに出されまして(全部の馬じゃないですけどね)、権利を売りに出す人によって条件が付けられます。例えば、不受胎だったら全額返金とか。中には牡馬が生まれたときだけ入金で可とかもありました。1年後に入金って…それでもやっぱり子供が競走馬として多く走ってくれないと実績が作れないですからね。
さて、そのサンデー騒動ですが、八方手を尽くしたものの種付け株をどうしても手に入れることができず、残念ながらSさんの希望を叶えてあげることはできませんでした。
しかし、それからすぐにそのSさんは病に倒れてしまいます。
それでも翌年にはSさんの会社のパーティーで、奥様に支えられながらも笑顔で皆さんを迎えていらしたのに、しばらくしてお亡くなりになりました。
Fちゃんの子供が競馬で走る姿を見たかっただろうな…
しかし、その後SさんのFちゃんへの愛が本当に深かったことを知ることとなります。
Sさんが亡くなった後、今後Fちゃんをどうするかというお話になったとき、息子さんから
「実は父が入院中に具合が悪いなか言ったんです。Fちゃんのために当面の預託料と種付け料として2000万円用意してある。だからこれからもFちゃんのことを頼む」
と言われていたのだと聞かされました。
Sさんは、病気の後遺症でちょっと記憶があやふやなときがあったのです。それでもちゃんとお金を用意して息子さんに託すなんて…本当にFちゃんのことが可愛くて仕方なかったんだなって。
競走馬は経済動物なので、G1を勝った馬でも引退後の人生が保証されていません。
そんな世界だからこそ、Sさんが息子さんに託した思いとお金に深い愛を感じてしまうのです。
その後、息子さんは馬主となり、ちゃんとお父さんとの約束通りFちゃんの子供たちを競馬場で走らせました
私はFちゃんが繁殖牝馬として初仔を出産した後に、牧場へ会いに行ったことがあります。
放牧地の中に入って牧場の方と馬を見ていると、大体は野次馬で側に来るのにFちゃんは離れた場所でガン無視
そのうち馬たちに囲まれる我々を見て、Fちゃんの仔馬がトコトコやってこようとした瞬間、Fちゃんが鳴きながら仔馬の進行方向へ走ってきて道をふさぐっていうね
そのまま放牧地の奥へ去って行くFちゃん親子の姿を見ながら、そんなに私のこと嫌???って…ちょっと傷ついたケド
Sさんは、自分で会社を立ち上げて一代で大きくしただけに、豪快でちょっと下ネタ好きで(笑)、取引先のただの社員の私にも気さくに話しかけてくれてるステキなおじさまでした。
あちらの世界でFちゃんと会えているといいな
ホットレモネードを飲みながら、ふと思い出した温かな思い出…
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2020年10月20日 23:00