おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。
知り合いの芸人の中には変わった奴もいて、不思議な体験を普通にすることもあるようで……
泣いても笑っても明日は決勝である。
この日のために先輩のいじめや、「引っ込め」という客のヤジや、ネタの上がらない苦しみにどれだけ耐えて来たことか。
いよいよ明日、全ての結果が出る。
NEWタイプ漫才の登竜門Nー1グランプリの決勝なのだ。
最後にぼくのアパートでネタ合わせをしておこうということになったのだが、約束の時間を過ぎても相方のヒロシはやって来ない。
「あいつ、また忘れて何処か行きよったんちゃうか」
電話してみたが、料金未払いの為使用出来ませんというアナウンスが返って来るだけ。
まあ、これもヒロシにはよくあることだ。
「タイチ~~~」
不意に後ろから声をかけられ飛び上がった。
振り向くと、部屋の真ん中にヒロシがぼんやりと立っている。
「ヒロシか。いつ入って来たんや」
「今、部屋に入って来たとこや」
「鍵、掛かってなかったか?」
「掛かってたけどスーッと入って来た」
「おかしな入り方する奴やな。ホンマにどうしてん?」
「いやな、タイチとネタ合わせすんのに遅れたらあかん思ってバイク飛ばしてたんや。ほな、緑町の交差点で信号無視したトラックとぶつかってポーンと……」
「事故ったんか?」
「ああ、ひとたまりもなかったわ」
「他人事みたいに言うなよ。ケガはないんか?」
「ケガどころか、俺、即死やった」
「即死って……ヒロシ、お前……」
「もう死んでるんや。そやけど死ぬ前にお前と明日のネタ合わせしとかなあかん思ったら、ここへ来てたんや」
「お前、幽霊なんか?」
「そうや、ほなそろそろネタ合わせ始めよか?」
「始めよかって……お前、死んでるんやろう?」
「死んでるからどないやっちゅうねん! 俺らはNー1で優勝する為に今まで頑張って来たんやないか!」
「そら、そうやけど……」
「生きてようが死んでようが、明日は絶対優勝を狙おうやぁ~!」
「お前、幽霊の割に凄い気迫やな」
こうして人間&幽霊という前代未聞の漫才コンビが誕生した。
「どうも~~人魂アタックのタイチでーす!」
「ヒロシでーす」
「お前、しゃべっても誰にも聞こえへんやろう?」
「そうやったな」
「皆さん、Nー1グランプリ決勝やのになんでぼくがピンで出てるか不思議に思ってますよね」
「ピンやないんやけど」
「お前はややこしいから黙ってぇ! ぼくの相方のヒロシなんですけど、昨日、バイクの事故で死によりましてん」
「ホンマ、あっけないもんですな」
「他人事みたいに言うな。死んだものの、ヒロシ、ほんまアホでっせ。自分が死んだことに気ぃつかんと幽霊になってネタ合わせに来よりましてん。ぼくは相方やからこいつの姿が見えてますけど、会場にヒロシの見える人おったら手ぇ上げてください」
「ここでっせ~~」
「お前が手上げてどないすんねん。会場の皆さんの中で……えらいもんやな。3人ほど手上げてる人居はるわ!」
「今日は3人のために頑張ります」
「ところでヒロシ、人間死んだらどんな具合になるんや?」
「まず、体が軽くなるな。ふわーっと浮き上がって、こんな風に空中で逆立ちも出来る」
「おいおい、そんなことしても誰にも見えへんねんから……あ、さっきの三人が拍手してはるわ」
「ありがとうございます。わかる人はわかってくれるんやな」
「それはそうと、お前は死んでるんやから優勝したら賞金は俺一人で使ってええやろうな」
「あかんあかん、そんなことしたら化けて出たる」
「もう化けて出てるがな」
「賞金の半分で上等の線香買って供えてくれ」
「線香でええんか?」
「ああ、生きてる時で言うたら上等の酒飲んだみたいに、こっちでは上等の線香でええ気分に酔っぱらうんや」
「安もんはあかんか?」
「安もんは悪酔いするがな。昨日、お前、部屋で蚊取り線香つけてたやろう? あれで朝からずっと二日酔いや」
「すまん、知らんかった。これから蚊取り線香つける時は、近くにお前がおるかどうか確かめるから。お前も気ぃつけてくれよ」
「蚊取り線香だけにキンチョーするわ」
「もう、ええわ!」
結局、ぼくらは優勝し、一躍人気者となった。
ぼくは相変わらずアパート暮らしだが、ヒロシは一等地に豪華な墓を作り、上等の線香とファンのきれいな女幽霊たちに囲まれ、いまだに成仏していないようだ。