おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。
毎週ラジオで新しい話を発表していると、こんなお店があったらいいのになあと思うことがあります。
但し、十分気をつけないと……
駅前に“たつ屋”という大きなレンタルショップが出来た。
入ってみるとDVDやCDではなく、店内に小さなチップが並んでいる。
棚は「恋愛」「サスペンス」「ホラー」「アクション」などに分けられていた。
さらに「ホラー」の棚は「ゾンビ」「吸血鬼」「オカルト」「心霊」「サイコ」など小分類されている。
「このチップは何ですか?」
店員に訊いてみると、
「アイデアです。作品のアイデアの原型がここに内蔵されていて、お客様の頭の中で再生されるようになります」
面白そうなので、試しに数本借りてみることにした。
チップと共に額に貼り付ける小さな器具を出された。
「これが再生器具です。これを貼り付けてチップを挿入するとあなたの脳特有の個性に合わせたドラマが作られ体験できるんです。同じアイデアを使用しても、お客様の年齢、性別、環境などにより異なったストーリーが形成されます」
「面白そうですね」
ぼくはわくわくしながらチップと器具を持ち帰った。
それ以来、レンタルチップのやみつきになり、毎日のように新しいチップを借りている。
チップを再生すると様々なジャンルの物語を追体験でき、しかもそれが全て自分の個性で脚色された世界に一つしかない作品なのだ。
例えば……
宇宙空間で火星人と家政婦が戦う話
アフリカのサバンナでライオンと花魁(おいらん)が競走する話
ニューハーフが血止めの薬を売る「カマの油」
キューバでディスカウントストアを開く「ハバナの叩き売り」
などなど。
先週、人妻が人造人間と浮気をする「フリンケンシュタイン」を再生した後、チップを返しに行くと店員が困ったような顔でこう言った。
「実はみぶさん、あなたの脳波が強すぎて、お貸ししたアイデアが全てみぶさんの脳レベルに合った安っぽいお話に上書きされてしまったんです。それで、一度お貸ししたチップはもうとても商品にならないんですよ。申し訳ありませんが、今日をもって会員権ははく奪、上書きしたアイデアは全て買い取っていただきます」