二十四時間の密室~世にもケッタイな物語 | みぶ真也 の 職業:怪談俳優

みぶ真也 の 職業:怪談俳優

浪速のユル・ブリンナー

おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。

最近、なかなか割りの良いバイトを見つけました。

そのお話です。

 

 

 

 少しウトウトしてたようだ。

 時計を見ると、三十分程居眠りしていたらしい。

 棚からレトルト食品を取り出し、軽く食事を摂る。

 無駄な電力を使わないように冷蔵庫も電子レンジもここにはない。

「快適に過ごされていますか?」

 モニターの向こうから美女が話しかける。

 岡村さんという名前らしい。

 定期的に映し出される録画だが、ぼくが「快適です」と応じると先方にその返答が送られる仕組みになっているという。

 

「いいバイトがあるんだけど、みぶさん、やってみない?」

 劇団仲間のアベさんから声をかけられたのは二週間前だ。

「大手メーカーが開発している核シェルターのモニターなんだけどね、丸一日シェルターの中で過ごすだけでいいお金になるんだ」

 とのこと。

 なんでも、いろんな人の生態データを調べているらしい。

 早速応募することにした。

 シェルターの中にはTV もインターネットもない。

 個人的に外部とは連絡はとれないのだが、それ以外は普通に生活を送ることが出来る。

 手当を貰える休暇だと思っていればいい。

 

「快適に過ごされて……」

 ゲームに飽きて電子書籍を読んでいると、モニターが岡村さんに切り替わり定期連絡がはいった。

 何故か途中で画面が暗くなり、室内の灯りも消えた。

 暗黒が五分程続いた後、電灯が点く。

「快適に過ごされていますか?」

 再び、彼女がモニターに現れた。

「さっき、画面が途切れたけど、何かあったんですか?」

 尋ねてみた。

「快適に過ごされていますか?」 

 彼女は答えずに質問を繰り返す。

 考えてみれば録画画面だから返答してくれるはずはない。

「はい、快適です」

 と答える。

 ゴーゴーという音が何処かから響いて来た。

 太陽光で充電された電力が一定以上消失すると、火力発電に切り替わると聞いている。

 その音だろうか。

 

「バイトが終了してシェルターを出ると、本物の岡村さんが“お疲れ様でした”と迎えてくれるんです。感激しますよ。実物はモニターより綺麗ですから」

 アベさんはそんなことを言ってた。

 あと数分で午後一時、ぼくがこの部屋に入ってから二十四時間が経過する。

 古い怪談の電子書籍を読み始めたが、気もそぞろで内容が頭に入って来ない。

 ソリティアでもしようかと思った矢先、扉が開いた。

 時計は十三時を示している。

 外に出ると、美しい女性が立っていた。

「岡村さん!」

 声をかけた途端、彼女はよろよろとぼくの胸の中に倒れ込んで来る。

「だ、大丈夫ですか?」

 岡村さんの体を抱きとめて、顔を上げる。

 彼女の背後には、核戦争で崩壊した瓦礫の街が広がっていた。