われもの注意~世にもケッタイな物語 | みぶ真也 の 職業:怪談俳優

みぶ真也 の 職業:怪談俳優

浪速のユル・ブリンナー

おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。

もしあなたの望みがひとつだけ叶う魔法があったとしたら、よくよく考えてから願い事をしてくださいね。

 

 

 役者の仕事が暇な時は、運送屋で夜勤の荷物仕分けをしている。

 深夜休憩が終わって現場にもどるとデスクの上に“われもの注意”の札を貼られた小さな箱があるのを見つけた。

 そういえば、昨日、割れ物だから後で処理をしようと横のデスクに置いたきり忘れていたのだ。

 送り状には「4月8日必着」と書かれている。

 8日と言えば今日だ。

 しかも、あと2分しかない。

 ぼくが箱を手に取り事務所に向かおうとした瞬間、午前零時のベルが鳴る。

 それを合図にしたかのように、辺りが真っ白な煙に包まれた。

 目の前に大きな黒い影が現れる。

「はじめまして、ご主人様」

 黒い影がぼくに向かって言った。

「ご、ご主人様?」

「4月9日時点でこのランプを持つ人がご主人様だと聞いております」

「誰から?」

「それは存じませんが、私はご主人様の願い事を叶えるためランプから出てまいりました」

「ランプって?」

「この箱の中に入っている荷物です。ランプはわれものです。私はランプの精、さっさと願い事を言ってください」

「断ったら?」

「その場合は残念ですが、ご主人様の体を八つ裂きにしなければなりません」

「ひっ!」

「さあ、願い事を……」

「……じゃあ、時間を戻してくれ。4月7日の夜に」

 前日のうちにランプを忘れず処理すればいいだろう。

「かしこまりました」

 

 気が付くと、ぼくは7日の夜に荷分けの仕事をしている。

 そして、横にはねておいたわれものの箱を忘れて帰る。

 翌日の深夜、ランプの精が出て来て時間を戻して貰う。

 そのループをずっと繰り返しているのだ。

 ランプの力で時間を戻すことは出来るが、過去を変えることまでは何かアクシデントでもないと出来ないそうなのだ。

 その夜も深夜休憩が終わりロッカールームから持ち場に戻ろうとすると、

「危ない!」

 と声が響いた。

 フォークリフトがぼくの横のテーブルにぶつかったのだ。

 テーブルはひっくり返り、置いてあったわれものの荷物が床に叩きつけられる。

 辺りに白い煙が立ち込めたかと思うと消えてしまった。

 時計を見ると、4月8日の十一時五十五分。

 日付が変わる前にランプは壊れ、一瞬にして魔法が解けた。

 幸か不幸か、過去が変わってしまったのだ。

 仕事に着こうとすると主任がやって来た。

「みぶくん、何をしてるんだ?」

「時間ですので、仕事を……」

「君は不注意のミスが多いので昨日付けでクビにしたはずだ」

 過去が変わると、現在も変わるのだった。