バレたオーディション~世にもケッタイな物語 | みぶ真也 の 職業:怪談俳優

みぶ真也 の 職業:怪談俳優

浪速のユル・ブリンナー

おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。

つい昨日の出来事なんですが……

 

 

 エキストラは別にして、映像出演の仕事をするには基本的にオーディションを受けることになる。

 合格すると事務所から“決まりました”と連絡が来る。

 失格の場合は、“落ちました”ではなく“バレました”と業界の言葉で返信される。

 “落ちる”はゲンが悪いからだろう。

 仕事がなくなることを“バレる”と呼ぶのは、舞台用語の“バラシ”から来ている。

 千穐楽の後、大道具や書割りを片付ける事を“バラす”と言うが、この「有ったものが無くなる」という意味の転用だろう。

 ともあれ、撮影スケジュールがバレるかどうかはオーディション時点ではわからない。

 今日のオーディションは健康食品のCMである。

 詳しい内容は、ぼくも事務所のマネージャーも知らない。

 現場に到着しても、オーディション用のセリフも渡されず、ただ会場に集まった男女が一人ずつ部屋に呼ばれる。

 ニ、三分で終了して出て来る人もいれば、四十分以上中に入ったままの人もいた。

 知った顔も何人かいたので、終了して出て来た時、どんな内容だったか尋ねてみる。

「おれはただ縄跳びをさせられた」

「私は部屋の中をぐるぐる歩かされただけ」

 などと答えが返って来て、何を審査しているのか首を傾げるばかりだった。

 二時間近く待たされた挙句、ぼくも呼ばれた。

 奥に長テーブルがあり、スーツ姿の年配の男性とラフなスタイルの若い男が並んで座っている。

 スポンサーとディレクターだろうか。

 その横にカメラがあり、女の子が操作していた。

「十九番、みぶ真也さんですね」

 若い方が言う。

「はい」

「それでは、上半身裸になって体操してください」

「は……はい」

 言われた通り服を脱ぎ、ラジオ体操をした。

 終わっても何も言われないので、空手の型を続けてやる。

 その途中で、

「はい、もう結構です」

 ディレクターの男が止めてオーディションが終了。

 いったい、何を見たかったのだろうか?

 解せない気持ちのまま帰りの電車に乗った瞬間、

「しまった!」

 と思わず声をあげる。

 胸ポケットに入れていた名刺入れがないのだ。

 さっき、上着を脱いだ時、落としたに違いない。

 名刺入れには、作家やプロデューサーなど仕事関係の名刺が入っている。

 慌てて会場に引き返すと、オーディションは全て終了していた。

 審査室から話し声が聞こえて来る。

 良かった、まだ、人がいるようだ。

「失礼します」

 声をかけて扉を開けた途端、ぼくは体が凍りついた。

 長テーブルの上に、審査員だった年配の男性と若いディレクターの首が並んでいる。

 その顔はゴムマスクのように柔らかく歪んでいた。

 カメラマンの女性はマスクを脱ぎかけるところだった。

 三人とも人間ではなく、トカゲのような顔をしている。

「何をしに戻って来たのだ?」

 年配のトカゲが尋ねて来た。

「め、名刺入れをこの部屋に置き忘れてなかったかと……」

「ああ、あれは君のだったのか。そこに置いてある」

 テーブルの上を指さす。

 ぼくの名刺入れがあった。

「あ……あなたがたは?」

「御覧の通り、我々は地球の人間ではない。そして、このオーディションも普通のオーディションではない。カメラに収めた君たちのデータは目的が達成されたら消去しておく。我々の姿を見られた以上、君の記憶も消去させて貰うことにする」

「あなたがたの目的って何です」

「それは

 

 

 以上の文章を、昨日ぼくがスマホからブログに保存していたのを見つけた。

 昨夜は知り合いの見せて痛飲したので、記憶が定かではない。

 オーディションを受けたのは覚えているが、その後のことは事実かフィクションかはわからない。

 ただ、マネージャーからこんなメールが届いていた。

「健康食品のCMの件ですが、実はCMオーディションではなく、ある組織が人体のメカニズムを調べる為、それぞれの人間の体の動きをカメラに収めることが目的だったということが我々の調査でバレました。従って、みぶさんのスケジュールもバレました」