おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。
あの女優さんの話を聴いてください。
ペコちゃんのことを話そうと思う。
彼女は女優の卵でほっぺがふっくらして不二家のペコちゃんと似ていたのでそう呼ばれていた。
ペコちゃんはぼくのファンで、一緒に芝居をしたいとよく言っていたそうだ。
ある時、そのチャンスがめぐって来た。
ちょっと大きな舞台で、共演することになったのだ。
舞台稽古で最初に顔を合わせた時、ペコちゃんにせがまれて一緒に写真を撮ったのを覚えている。
「みぶさんと同じ舞台に立つ夢が叶いました」
彼女はぼくにそう言った。
しかし、結局、その夢が叶うことはなかった。
コロナ禍でスポンサーが降りてしまったのだ。
その頃からだろうか。
毎晩、ペコちゃんの夢を見るようになった。
夢の中で彼女はいつもシクシク泣いていた。
よほど残念だったのだろう。
同時に、ぼくは体調を崩した。毎日微熱が続き、体中がだるい気がするのだ。
そんな時、ある番組で霊媒師の人をインタビューすることになった。
彼女はぼくの顔を見るなり、
「あなた、生霊に取り憑かれているわよ。祓ってあげようか」
と言う。
おそらくペコちゃんの生霊かなと思い、お祓いをお願いした。
霊媒師が祝詞を唱えると、ペコちゃんの寂しそうな顔が頭の中に強く浮かんで来た。
なんだか可哀想になり、お祓いは中止して貰った。
ペコちゃんの生霊に悩まされ、体調不良の日は続いた。
その頃、あるメジャー映画のオーディションを受けることになった。
高名なプロデューサーや監督の前で“何か芝居を見せて欲しい”と言われ、ペコちゃんと共演する予定だった舞台の演技を一人で披露した。
終了後、プロデューサーが駆け寄って来て、
「さっきいきなり部屋に入って来てみぶさんの相手役をやった女優は誰ですか?」
と尋ねられた。
もちろん、そんな人はいない。
だが、プロデューサーも監督も、審査していた人全員が彼女を見たという。
ぼくはスマホを取り出してペコちゃんから貰ったツーショット写真を開き、
「もしかして、この子ですか?」
「間違いない、この子だ。みぶさん、この女優の連絡先を教えてください」
結局、ぼくはオーディションには不合格だったが、ペコちゃんはスカウトされてその作品に主演をすることになった。
その日から、薄紙をはがすようにぼくの体調は元に戻り、彼女がシクシク泣いている夢を見ることもなくなった。
現在、彼女をペコちゃんという仇名で呼ぶ人はいない。
メジャー作品の主役を引き当てたシンデレラガールとしてすっかり有名になり、今をときめく人気女優だからだ。
不二家のペコちゃんそっくりだったふっくらほっぺは引き締まり、今では面長の美女になっている。