おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。
あなたの部屋に、夜な夜な美女が現れたら夢心地になるでしょうか?
それとも……
「すると、あなたの住んでるアパートに先月から女の幽霊が出るというわけですね」
事務所に訪ねて来た黒川という男にぼくが訊き返した。
「はい。最初は、眠っている時、キッチンから何か音がするので見に行ったんです。
すると、流し台の横に白い服を着た女が立っていたんです。
泥棒かと思い、声を上げようとした時、急に意識が薄れて気がついたらベッドの上で朝を迎えていました」
「どんな女でしたか?」
「それが、美人だったようには思いますが……顔もはっきり思い出せないんです。
それ以降、毎晩のように女が現われ、時には寝ている私を覗き込んでいたりします」
「何か話をしたりは?」
「低い声で“早くここから出て行け”と言われたことはあるような」
「部屋に住み着いた地縛の霊ですね」
「みぶさん、なんとかならないでしょうか?」
「わかりました。知り合いにお祓い専門の男がいますので話してみましょう」
「よろしくお願いします」
そう言って、黒川さんは住所と封筒を差し出した。
「この中に部屋の合鍵が入っています。都合がついたら、いつでもお祓いに来ていただいて結構です。お礼は後ほど」
頭を下げ、ふらふらした足取りで彼が帰って行く。
連日のことで疲れているのだろう。
早速、知り合いの築斉(ちくさい)先生に電話をかけると、
「みぶさんですか。今しがた、お祓い希望の人が来て鍵と住所を書いた紙を置いて行かれましたな」
すべてお見通しのようだ。
さすが、霊能力者。
「先生、凄いですね」
「じゃ、早速行きましょう。現地で待ち合わせでいいですね」
「住所、わかるんですか?」
「もちろんです」
ぼくは黒川さんに電話でその旨を伝え、幽霊の出る部屋へと向かった。
預かっていた鍵でドアを開け、部屋に入る。
「なるほど、これは幽霊が出てもおかしくない。
すさまじい、霊気が漂っておる。
この部屋に未練のある死者がいるようですな」
そう言いながら、先生は白装束に着替え、香を焚き始めた。
部屋に漂う暗い霊気が香のかおりでゆがんで行く気配がする。
築斉先生が祝詞を唱え始めると、そのゆがみがさらに大きくなった。
「遅くなりました」
ドアを開け、黒川さんが入って来る。
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
ぼくと先生に向かって頭を下げるが、築斉先生は目に入らぬかのように一心に祝詞を唱え続ける。
その時、何処からともなく女が現われた。
白い服を着た、肩までまっすぐな黒髪をたらした女だ。
女は低い声で、
「早くここから出て行って…」
とつぶやく。
「この女です」
黒川さんがぼくらに向かって説明した。
「こいつが毎晩、現われるんです」
女は目を見開いて黒川さんとにらみ合う。
黒川さんと女の視線が絡み合い、火花を散らすかと思われる時、築斉先生が、
「破邪!」
と一括した。
たちまち香が燃え上がり、周囲に漂っていた暗い霊気が引き飛ぶ。
同時に…
黒川さんの姿が、我々の目の前から消えた。
「もう大丈夫ですよ」
築斉先生が言うと、
「ありがとうございます」
女が答えた。
「先月、ここに引っ越してきてから、ずっと今の男の人の霊につきまとわれていたんです。これで今夜から安心です」