「医師からは、お気の毒ですが…。…それだけです。」
小埜瀬。
「まぁ~~、私も…、朝から晩まで仕事漬けで…。」
愛結美、
「課長は…、前に…。この会社入る前には…。仕事は…。」
隣の菜帆子、そして佐津香を見て、
「どんな…。」
菜帆子、コクリと、
「うんうんうん。」
佐津香は黙ったままで…。
順平、
「あ。そこ…、俺も知りたいっすね。」
「私…、ですか…???…前の会社…???」
愛結美、菜帆子、コクリと、
「うんうんうん。」
「スポーツ関係の…、トレーニングセンターに勤務してました。」
愛結美、
「スポーツ関係の…。」
菜帆子、
「トレーニングセンター。」
小野瀬、コクリと、
「えぇ。まぁ…、ジムも経営しているんですけど…。健康マシーンとかも…。それに…、トレーニングの機器なんかも…、販売。…運動用品なんかも…。」
順平、
「メーカー名は…???…どこなんです…???…課長。」
「トラスビーです。」
「…って、滅茶苦茶大手じゃないっすか~~。」
愛結美に菜帆子も、
「うんうんうん。確かに。」
「有名~~。」
そして菜帆子、佐津香に、
「ねぇ~~。」
佐津香、コクリと、
「うん。」
順平、
「えっ…???…でも…、そんな大手から…。」
思わず目を流したように…。僅かに顔を前に、
「どうして…???」
目をキョロキョロとさせながらも…。
順平の声に小埜瀬、何気に照れ臭くもありながら…。
「まぁね~~。いろいろと…。はは。すったもんだがありまして。」
そして、またおかずを食べて目を丸く、
「いや…。これ。本当に美味しいですね~~。はは。うん。旨い。」
愛結美も菜帆子も笑顔で…。
佐津香、
「あっ。」
いきなり椅子から立ち上がり、
「おっとっとっと~~。」
そんな佐津香を菜帆子と愛結美も…、
「…???」
カウンターからカップをふたつ。そして、既に沸かしてあるコーヒーを。
愛結美、それを見て、
「あは。忘れてた。かかかか。」
菜帆子も、
「ぷっ。…確かに。私ら、お弁当、食べてたから~~。」
そして佐津香、小埜瀬と順平の前にコーヒーを。
「はい。どうぞ~~。…って、ごめんね。お重のご馳走にコーヒーなんて…。お茶だったらいいんだけど…。」
順平、頭をコクリと、
「すんません。あざっす。」
小埜瀬、佐津香に、
「申し訳ない。ありがとうございます。」
そして、
「まっ。確かに。世には知られたスポーツメーカーですけど…。経営者が変われば…。」
順平、その声に、
「えっ…???…トラスビーの経営者が…???」
「まっ。今はまた経営者、変わって、業績、取り戻しているみたいですけど…。私のいた頃は…。…と、言うか、私が辞める決断をしたのがその経営者で…。それまでは結構業績。…まぁ…、ある意味、有名メーカーでしたけど…。あれはいかん。顧客のニーズ関係なし。売れればいい。単にそれだけの経営。クレームだらけの日々でした。しかも、経営者は全く表面には出ずに、その下が謝罪するだけ。」
愛結美、菜帆子、そして佐津香は黙って聞いている。
小埜瀬の隣で順平もまた同じく。
小埜瀬、続ける。
「まっ。部長にも、この事は初日に話しましたけど…。かかかか。そんな経営者の胸倉掴んで、辞表を叩きつけて、辞めました。やってられるか~~って。かかかか。10年も前の話です。…それから転職活動。40も過ぎてから…。かかかか。正に、自虐行為。」
コーヒーを飲んで小埜瀬。
「まっ。40も過ぎてから転職なんて、無理だとは、思ったんですけど…。とにかく、やってられませんでしたから。職場の人間からは、辞めないでって言われてたんですけど…。…まぁ~~。社長室に怒鳴り込んで、胸倉掴んで罵倒したんですから…。仕方がないって言えば、仕方がないんで…。」
そして、
「堪忍袋の緒が切れた。…って奴ですよ。」
そして順平を見て、ニッコリと。
「ははは。」
そして小埜瀬。
「まっ。一緒に働いていた社員には、申し訳なかったと思ってます。…こっそりと…、送別会、開いてくれて…。内々に…。良い社員たちでしたよ。…実に。うん。」
「えっ…???」
順平、
「課長って、前の…、そのトラスビー。管理者…だったん…???」
愛結美、菜帆子、佐津香は黙って聞いている。
順平の声に小埜瀬、
「係長です。」
瞬間、愛結美と菜帆子、
「へっ…???…係長っ…。」
顔を見合わせて…。
愛結美、
「じゃあ~~。その上の…課長とか、部長…。」
小埜瀬、キョトンとしながら、そして顔を左右に振り、
「全然、動きません。ふたりとも、社長派ですから。だからみんな、私の方に。」
愛結美も菜帆子も目を丸く、
「へぇ~~。」
「…と、言うか…、私は…、実は、その時の経営者の前の社長派なんです。…実際、可愛がられました~~。その社長、ラグビーが好きで…。」
好きになれない。 vol,112. 愛結美、「課長は…、前に…。この会社入る前には…。」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※