「ウチのですか…???…女房…。」
小埜瀬。
愛結美、チラリと小埜瀬を。佐津香も同様。順平も口に入れながらも小埜瀬をチラリと。
小埜瀬、
「おっと。こんな美味しいの…、立ちっぱなしで…。」
その声に愛結美も、
「あは。」
すぐさま近くからダイニングチェアを…。
「はいはい。」
順平も、
「おっと。」
愛結美は菜帆子の隣に。
菜帆子、少しずれて。
佐津香も、
「ほぃほぃ。」
小埜瀬。愛結美から貰った椅子に、
「すみません。」
順平も椅子に。
小埜瀬、また皿におかずを…。
「ウチの女房も…。随分前になりますが…。」
4人共に小埜瀬を見て…。
「亡くなりました。…25の歳で…。」
瞬間、愛結美、菜帆子、佐津香、共に、
「あら。」
順平、口を尖らせて…。
菜帆子が…、何かしら、申し訳なさそうに口を搾って、
「すみません。変な事、聞いちゃった。」
顔だけコクリ。
けれども小埜瀬、口をへの字にして、顔を左右に、
「いえいえ。…そんな…。…もぅ…、かなり前ですんで…。全然。」
愛結美、
「…でも…、奥様…、25の歳でって…、言う事は…。」
瞬間、愛結美、申し訳なさそうに、
「あら、私…。随分…。」
舌をチロリと。
その声に小埜瀬、
「あ~~。いえいえ、お気になさらず。…もぅ~~。30年も前になりますから。」
愛結美、菜帆子、
「さ…、30年。」
おかずを食べながらの順平もそんな小埜瀬を見て、
「……。」
小埜瀬、
「えぇ、30年になります。…ウチのは…、癌で…。」
愛結美、菜帆子、また一緒に、
「癌。」
「えぇ。ウチの場合は…、甲状腺癌です。」
瞬間、順平、おかずを口に入れたままで、
「……。」
愛結美と菜帆子、
「甲状腺癌。」
菜帆子、すぐさま佐津香を見て、自分の喉に手を。
佐津香、そんな菜帆子を見て、顔をコクリと。
菜帆子、今度は愛結美を見て。愛結美も自分の喉に手を。
佐津香、小埜瀬に、
「結構…、厄介だったんですね~~。」
小埜瀬、その声に、
「えぇ。…倅が産まれて、まもなく。」
愛結美、顔をグシャリとさせて、
「う~わ~~~。」
菜帆子、
「25歳で…、甲状腺…、かぁ~~~。」
そして、顔を小刻みに震わせて、
「う~~~~。」
瞬間、左右に目をチラリと。
「あ。…ごめんなさい。」
小埜瀬、そんな菜帆子にも、
「いえいえ。そんな…。だから…、昔の事で…。全然、全然。」
愛結美、小埜瀬を見て、
「えっ…???…あ、いや…。課長…。」
キョトンとして、
「…じゃあ…。奥様が亡くなってから…。…もしかして…。今まで…。…ただ、…全くの…、おひとりで…。」
小埜瀬、思わず目をパチクリと…。
「え、ぇ。そうなりますけど…。」
いきなり佐津香、小埜瀬に、
「小埜瀬課長。」
小埜瀬、いきなりの佐津香の声に、
「あ、ぁ。はい。」
「先ほど、課長から謝って頂いたんですけど…。私たちが…、課長の家、知ってるって言う事…。」
愛結美と菜帆子、そして順平を見ながら…。
「あ、ぁ~~。はい。…え…と…。部長からです。」
瞬間、愛結美、菜帆子、何とも力を抜いたような姿勢で、顔も垂れるように、口を真一文字に、
「ふ~~ん。」
「…だよね~~。」
佐津香、目を丸く、ニッコリと、
「…でしたか~~。うんうんうん。」
小埜瀬、あらためて4人に頭を下げて、
「すみませんでした。そして、ありがとうございました。」
いきなり愛結美も菜帆子も、体をシャキッとさせて小埜瀬に両掌を前にヒラヒラと、
「いえいえ。そんな…。」
小埜瀬、申し訳なさそうな顔で、
「…けど…。本当に、申し訳なかったんですけど…。…全然、その時の事、覚えてなくって。」
その声に4人、瞬間、
「ぷっ。」
そしてまた4人共に、
「あ。」
それぞれ、
「いや。」
「ごめんなさい。」
「…つぅか~~。」
「うんうんうん。確かに。」
最後は佐津香。
菜帆子、
「いや。課長~~。…驚くほど。…全く…、起きなかったです。とにかく、目が覚めなかった。…あれだけ動かされても…。…それに…、気持ち悪くなってしまうような事も…。」
顔を左右に振り、
「全く…。」
「あっ。でも…。」
愛結美。
「トイレで床に座って、佐津香さんから起こされて。その時は、しっかりとシャキッと。」
菜帆子と佐津香を見て、
「…されては、いたんです。…だから、私たちも、てっきり、大丈夫だなって…思って…。」
語尾を小さめに。
「…でも…。…外、歩いていて…、急に佐津香さんが…、後ろを…。」
愛結美、菜帆子と佐津香を見て、
「…それ…から…。…だよね。」
いきなり声を大きく、
「課長、正座したままでダラリと…。」
愛結美、右から倒れるようなゼスチャーで、
「こんな…、そのまま、地面にダラリと。…だから、び~~っくりしちゃって~~~。3人で、課長~~って。大きな声で…。」
佐津香、
「小埜瀬課長。」
小埜瀬、
「あ、はい。」
「失礼ですけど…。今まで、あんな経験は…???」
好きになれない。 vol,106. 「ウチの女房も…。随分前になりますが…。」
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