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『戻ってこないのか? どうして? 俺は怒ってない』
『あなたが怒ってるから戻らないんじゃないわ。戻りたくないの。
浮気してるんじゃないくて あなたと離婚して彼と一緒になりたいのよ!』
『俺は なかったことにする。許せるよ。 戻ってくるって約束するなら.
誰だって 一度くらい迷うことはあるさ』
2人の会話がまるで噛み合うことなく かといって平行線も描いていないことは
茜も気づいていた。けれどこんな会話しか成立しないのだ。ずっと前から。
そしてこれからも。
『会社は?』
『茜が来るっていうから午後出勤に変えたんだ』
『午後来れば良かったわ。もし離婚届出さないなら弁護士に相談して
調停にしたほうがいい?あなたがちゃんと話を聞いてくれるなら協議で済むのに』
紗江子が茜のブラウスの裾をひっぱった。
『ちょっと上がるわね。メールしたけど実印と通帳が必要なの』
『いくら欲しいんだ。茜!いくら欲しいんだ?』
紗江子と茜が見つめる男は履いていたスリッパを蹴散らかしながら叫んだ。
『いくらでもやるから 戻って来い!何もかもやる! 』
茜は小走りに2階へ駆け上がり あっという間に戻ってきた。
そして紗江子を促すと玄関から逃げるように走り出た。
紗江子もその後を遅れることなく走ってついていった。
真夜中の学校に忍び込んで逃げ出す女子中学生のようだわと
紗江子が真顔で言ったほど、2人の頬は紅潮していたし、足が震えていた。
紗江子が
『まだ心臓がばくばくしてる』
と言うと 茜はハンドルを握りながらバックミラーを何度も確認してから停車した。
『もう大丈夫よね。気持ち悪い思いさせてごめんね』
『それにしても 会話がまるで噛み合ってなかった。ごめん びっくりしちゃったの』
これが 昨日の浮気許せる?のネタの答えだけど・・・
もう 誰も聞いてないよね・・・
こちらの続き物です。