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いまさら 近所の目を気にしながら家に鍵をかける自分をあざ笑いながら
茜は車に乗り込んだ。
痛いほどの視線を感じていた。
妻の不在感に 主婦は敏感である。 夫の見送りをしていない家庭の玄関。
子供たちが出入りしない玄関。あけられることのない雨戸。
ベランダに干されない洗濯物。 出されないゴミや溜まった郵便物の気配を察知する。
私は 自分の人生から逃げたのだろうか?
それとも この日常を捨てたのだろうか?
家を出て 満ち潮から引き潮になった感覚がある。
怒り 不満 苛立ち くすぶり そんなやるせない感情に満ちていた潮が 引いた。
すると 海底に沈んでいたものたちが目に飛び込んでくる。
もっと 美しく色鮮やかな景色を思い描いていたのだが そうでもないのがわかってきた。
子供の苗字をどうするのか?
信哉の収入をあてにしていいのか?
学区外になってしまうのに このままでいいのか?
自分名義の保険や貯金の扱い。もろもろの名義や所在地が決まらない。
保護者としてこの居場所が正しいとは言えない。
なにより 子供と信哉は上手くいくのだろうか?
この三日 三人はほとんど 目も合わせないし言葉も交わしていない。
美しい砂浜の変わりに 空き缶や空瓶 ゴミや長靴だらけの海底が 浮かび上がる。
そんな気分。 いい年して そんなことにうろたえるなんて恥ずかしい。
そう思いながらも 予想以上にショックを隠しきれない自分が情けなかった。
短めにまとめました。日曜だから 笑