
本文はここから
『じゃあ 牧野さんは賛成ってことで いいのね? わかりました。』
一方的に決めた話をまとめ 電話を切られた。
小学校のクラス委員の 綾部幸からの 深夜の電話だ。
ふうっ とため息を吐いてから 近藤ユリは ソファーにどさっと座り込んだ。
悪い人じゃないのよ。 そう。 だけど ほんと 疲れるわ・・・
綾部幸の話を ママ友達の 朝川友美に話したことがあった。
感性の鋭い友美は 会ったことも見たこともないはずの 綾部幸を 鋭く感じ取り
一言で 切り刻んだ。
『悪人なら まだましなのよ。 悪意がないフリして 善人面で毒を吐く奴ほど
性質が悪いんだわ。 みんなのためです って大義名分かざして
結局 自分の思い通りに運びたいだけなんだろうなーーー。 で 気付かないの。
そういうの 最悪な偽善者っていうのよ。』
その言葉を思い出しながら 飲みかけの紅茶を クチに含んだ。
『ハルトが 多動症かもって 心配してるんですよ。』
息子が 2歳になった頃 ユリが ふと義母に漏らした一言に
『やーーーだ。 うちの家系に そんな子供 いないわよ』 と返されたことがある。
あの時の 腹立たしさと 心の通じなさに似た思いが 沸き上がってくる。
悪気はない という大前提ほど 最悪の毒はない。
友美の言葉が ユリの疲れた心に 甘く馴染む。
『最悪の偽善者』
悪い人じゃないけど どうやっても 合わない人間って いるんだよね。
だけど 逃げることもできない。
逃げても逃げても やってくる インフルエンザの菌みたいなもんなんだわ。
ワクチンも効かないし 終わりもくる。 だけど ほんとに 疲れる。
母の日に 毎年 カーネーションとちょっとした物を 届けていたが
ハルトが 幼稚園に入って 敬老の日にプレゼントを贈るようになったのを理由に
母の日を辞めていた。
『あら そういえば 長男のとこからは お取り寄せの何かが来てたわ。』
『私も若い頃 義母に色々贈ったわ。一番高かったのは 真珠だったかしらね。』
皮肉のつもりは ないのだろうと 夫は言うが 返事のしようがない会話が
続くことに 辟易して 足が遠のき 電車で一時間の距離だが 行かなくなっていた。
私という人間が 鈍いと思わせるから 皮肉を言われるのかしら。と 悩んだこともあった。
私には辛辣で 気取り屋で 畳み掛ける義母にも たくさんの友人がいる。
きっと いい人だったり 気持ちがわかる人だったり するんだろう。
綾部幸もそうだ。 クラスの母親には しっかりしていて リーダーシップを持っていて
教育熱心で 子供のこと考えている いい母親だと 信頼を寄せている人もいるのだ。
だいたい 私が男だったら 絶対に結婚しないと思うのに 結婚する相手もいるんだもんな。
ユリは 置いたばかりの電話機を睨み付けて 『ばーーーか』 と言ってみた。
たかだか 母親の飲み会をするかしないかって内容で 賛成か反対か
クラス中に電話してるのか?と ギリギリ軽蔑になりそうな 尊敬を抱きもする。
『参加したい人がいけばいいし 無理やり強制じゃなければ やっていいんじゃないですか』
と 折衷案を述べた自分が ちっぽけに思える。
友美だったら 『無理に企画しなくていいんぢゃないですか』 と本音を言い
反体制派として 居場所を作り上げるのだろうか。憧れる。 出来ない自分も 偽善者だ。
そんなことを考えていたら ハルトが起きてきた。
『どうしたの?』
『母の日の手紙 書いたのに わたすの忘れてた!!! 夢で思い出したの。』
ママ 大好きだよ
ずっと ママでいてね。 ママのたからものの ハルトより。
ユリは 溢れる涙を抑えられなくなり ハルトを抱きしめながら ありがとう と言った。
この子のためなら なんだって 我慢も出来るし 闘うこともできるわ。
そう思えた母の日に ユリは感謝した。
地球上の 母のみなさん
いつも おつかれーーーーーーーーっす
お互い 労わられましょう 笑 無理?? 笑