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こちらの続編予定 小説 朝と昼と夜の願い1 ★
さくらは昼間を 退屈なほど普通に過ごすように心がけていた。
夫の忍を見送ると 朝食のあと片付け、洗濯、掃除・・・ 寝不足を補うための昼寝。
さくらは 寝不足になった。 ある 一本の電話を 盗み聞きした あの日から。。。
携帯を握ったまま 寝室に閉じこもった忍が 視野の片隅を横切った。
恋愛中にも忍がこっそり電話することはあったが 仕事の電話だろうと
気を遣ってわざわざトイレに立ったり 片づけをしていたのだが
結婚した途端 その行動への反応が変わった。
忍が一人になりたがることは さくらを遠ざけようとしていることに 思えたのだ。
スリッパを脱ぎ 素足で寝室の前で身を身を潜め 体中の全神経を 聴力に集めた。
時々 耳をかすめる会話。 確かに聞こえた 愛してる。
愛してる?愛してる?愛してる?????
忍が誰かに愛の呪文をかけたとこで さくらに 苦しみの呪いがかかった。
愛する感情の対極にある感情は 時として 人格である。
相手の裏切りを知り 怒りや憎しみに 集中する人もいれば
悲しみに 打ちひしがれる人もいる。
さくらは 後者であった。 少なくとも 夫である忍に対して そうであった。
さくらは 問い詰めることもしなかった。
時々 噛み締めた感情が 砂のように 不愉快な感触だったが
忍に 知っているのだと責めて 優位に立つ意味が 見つからなかった。
その日から 二週間後。 忍から 残業だとメールが入ったので
友人の綾と 食事をし 遅めに帰宅する途中のことだった。
近道で通る公園を小走りに通り過ぎていると 忍によく似たシルエットが
忍より一回り小柄な男性の肩を抱いていた。 とても 愛おしそうに・・・
それから どう帰宅したのか 覚えていない。
忍より 早くマンションの鍵を開けていたらしく 部屋は暗かった。
鍵を通す音がして さくらは 玄関に駆け寄った。
『見ちゃったよ。公園で。ちゃんと話してくれないと 私 壊れちゃうよ。』
さくらは 電話を聞いてしまったことも 言葉を選んで ゆっくりと話した。
『ごめん。さくらと付き合う前から ずっと続いてるんだ。
だけど さくらを好きなことも 結婚したかったことも 僕の本心なんだ。』
『カモフラージュのための結婚なの? だって だって 同性愛ってやつでしょ?』
『そういう枠組みで 考えるよね。 自分でもわからないんだ。本当なんだ。
さくらのことが 好きなんだ。いや 隼人とは結婚する前に 別れたんだ。だけど・・・』
『別れられなかった ってこと? それなら どっちが浮気ってこと?』
忍は 言葉に詰まったまま 黙りこんだ。
同僚だった忍が 仕事を精悍にこなす姿を見続けてきた。
上司にも 顧客にも 堂々と想いを言葉にし イニシアチブを握り
行動で相手を感服させる忍が 言葉を失っている・・・
さくらは
『もういいよ。私も考える。忍も 何かを考えて そして 決めて。
決めたことがあったら すぐに話して。私も すぐに話す。
いつもなら 決める前に なんでも忍に話してたけど これは 話せないよね。
なんか それが 一番辛い。 すごく すごく辛いよ。』
忍は
『今は いい加減に謝りたくないけど 苦しめてることだけ ごめん。』
と言った。
長くなりそうなので 続く・・・しかも ネタのキーワードまで
辿り着かなかったし・・・