制服とは違い、スーツに身を包んだ宗像室長と向かい合う私も同じように
淡い色のスーツに身を包んでいた。
ご要人しか行かないような割烹旅館の美味しい食事と美味しいお酒。
そして室長の口から出るのはほぼ愚痴。
この人はただ単に愚痴を零したかっただけなのかもしれない。
あの後、誰にも言えずに悩んだ時間が馬鹿だったかのように思える。
宗像室長より年上な私は、愚痴るためには的確な人選だろう。
妙な納得をして、その愚痴を軽く受け止めながら美味しい食事を口へと運び、美酒を味わう。
「御崎さん、美味しかったですか?」
最後のデザートを頂いたあと、室長が口を開く。
「はい、とっても」
「それは何よりです」
「愚痴は終わりましたか?」
「ええ、大分スッキリしましたね」
「それはよかったです。今日はご馳走様でした。では私はそろそろ」
上司に営業スマイルを向けて、手元に置いていた鞄に手をかける。
「何処へ行かれるのですか?」
「寮に帰ろうかと」
「…ああ、まだ伝えていないことが」
「何でしょう」
「貴方への愛の言葉をまだ伝えかねています」
あの言葉は本気だったのかと思い知る。
私の反応を見るための冗談だったら良かったのに。
「…それは別日に設定していただいて」
「では移動しましょうか」
「…どちらに」
「隣の部屋に」
「あの…室長。私は…」
「拒否権があるとでも」
「あると信じたいのですが」
「では部屋で判断願いましょうか」
「…」
立ち上がった室長の瞳が私を見下ろす。
この威圧感は王たる由縁なんだろうか。
別に宗像室長を嫌いなわけではない。
多くの事件や現場での判断や戦いぶりに尊敬の念は抱いている。
部下である私に一線を越えようとするまで好意を抱いてくれているというのがどうも信じがたかった。
が。
連れ込まれた強引な行動とは裏腹に、囁かれる甘い言葉と熱にほだされた身体は正直で、
私は宗像礼司の熱を受け入れた。
朝起きた時には室長は既におらず、一晩限りの夢か現かと思い込もうとしていれば、
朝礼で室長自ら恋人宣言をしたらしく、その後セプター4からのメールが引っ切り無しだった。
慌てて室長の端末に連絡をし、事の詳細を聞けば一言。
「私がいい加減な想いで貴方を抱くような男に見えますか」と聞かれてしまった。
私が素直に「はい」と答えれば、「マドカさんには躾が必要なようですね」と楽しげな声が端末から聞こえてきた。
その夜、私の部屋にやってきた室長はベッドへと私を押し付け、
私が懇願してもその行為は室長が満足するまで止むことなく私への愛を囁きながら続けられた。
どうやら私は青の王、宗像礼司の恋人となった…らしい。
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